• 日銀は4 月27 日の金融政策決定会合で、大方の予想通り金融政策を現状維持とすることを決定した。同時に発表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、2023 年度の生鮮食品を除く消費者物価指数(コアCPI) の上昇率が1.0%と、2%目標をはるかに下回る見通しが示された。
  • 日銀は少なくとも2023 年末までは現状の金融政策を維持するものと予想する。日銀は既に長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の下で国債買入額を減らしている。米国債利回りの動向によっては、長期国債の変動幅をさらに拡大する可能性があるだろう。
  • 市場への影響としては、世界的に長期金利が上昇傾向にある中、日本の物価は依然として弱い動きが続いており、10年国債利回りは日銀が誘導目標とするゼロ%程度で安定的に推移するものと見込まれる。低金利の円は引き続き魅力的な調達通貨となるだろう。

日銀は4 月27 日の金融政策決定会合で、大方の予想通り金融政策を現状維持とすることを決定した。日銀は3 月の決定会合で、政策の持続可能性を高めるために10 年国債利回りの許容変動幅の拡大(±0.25%程度)、上場投資信託(ETF)および不動産投資信託(J-REIT)の年間購入目安の撤廃などの政策調整を既に行っている。4 月1 日に発表された3 月の日銀短観では、企業の景況感と設備投資計画に明るい兆しが見られていた。だが、3 度目の緊急事態宣言(4 月25 日~5 月11 日の予定)の発出に伴い新たに経済活動の制限が実施されており、短期的には経済の下押しが予想される。

四半期ごとに発表される展望リポートでは、2021 年度の国内総生産(GDP)成長率目標を3.9%から4.0%にやや引き上げる一方、政府主導の携帯電話料金の値下げを反映してコアCPI の見通しを+0.5%から+0.1%に下方修正した(図表1 参照)。また今回、新たに発表した2023 年度見通しではGDP 成長率を1.3%とする一方、コアCPI は+1.0%にとどまるとしており、、2023 年度までに物価目標2%は達成できない見通しとなってる。

図表1 – 実質GDPと消費者物価指数(コアCPI)

日銀 政策委員の見通し

 

 

2021年度

2021年度

2022年度

2022年度

2023年度

2023年度

 

前回 (1月)

今回 (4月)

前回 (1月)

今回 (4月)

GDP成長率

+3.9%

+4.0%

+1.8%

+2.4%

+1.3%

コアCPI

+0.5%

+0.1%

+0.7%

+0.8%

+1.0%

出所:日本銀行、UBS

我々は日銀は少なくとも2023年末までは現行の金融政策を維持するものと予想する。日銀は2016年にイールドカーブ・コントロールを導入して以来、国債の買い入れペースを既に減速しており、テーパリング(量的緩和の縮小)は日銀にとって重要ではない(図表2参照)。また、特に米国10年国債利回りが2%を上回る局面では、日本10年国債利回りを誘導目標であるゼロ%近辺に抑えつつ許容変動幅を更に拡大する可能性がある。

図表2 – 日銀の国債買い入れ額(2012年以降)

(買い入れ純額の3カ月平均、年率換算、単位:兆円)

出所:Haver、UBS

日銀の金融政策が大幅に変更されるかどうかは、物価動向が鍵を握るだろう。米国のインフレ率が上昇基調にあるのに対し、日本では、依然マイナスが続く需給ギャップと賃金引上げに対する企業の消極的な姿勢を受けて、インフレ率は低い伸び率が続くだろう。我々は2021年末のコアCPIは前年比+0.4%、2022年末では+0.9%と予想する(図表3参照)。ただし、現在の深刻な労働力不足が続けば、賃金と生産物価格に幾分上昇圧力がかかる可能性がある。

図表3 –CPI推移および今後の予想

出所: UBS

ワクチン接種のペースは、2021年下期の経済回復の度合いを左右する重要な要因となるだろう。国内でのワクチン承認プロセスや海外からのワクチン輸入の遅れから、足元での接種率は人口全体のわずか1.3%と、欧米などの諸外国に比べてきわめて低い。政府計画によれば5月からワクチン供給が加速する見込みであり、菅首相は希望する高齢者に対し、7月末を念頭に2回の接種を完了するとの目標を発表した。目標通りに進捗すれば、7月末までにワクチンを2回接種した人口の割合は国民全体の30%に到達することになる。この計画はあまりにも野心的に見えるが、我々は9月までにはこの30%という水準を達成できると考えている。

市場の影響については、円が米ドルに対して108.0円から108.3円へとやや円安に振れた。これは、日銀が発表した2023年度の低いインフレ見通しに反応したものと思われる。インフレ率が依然低迷している状況を踏まえ、日銀は今後も10年国債利回りを誘導目標であるゼロ%程度に維持するものと考える。世界的にリスクオン機運が高まる中、低金利の円は引き続き魅力的な調達通貨となるだろう。株式市場については、日銀のETF購入ペースは既に大幅に鈍化しているが(図表4参照)、相場が大きく下落する局面では日銀が引き続きETFを買い進めて株価を下支えするものと見られる。実際、日本株が前場で2%以上下落した4月21日、日銀は後場に入ってETF買いを実施した。

図表4 – 日銀のETF買い入れ額
(月間買い入れ額(年率換算)、単位:兆円)

出所:Haver、UBS

菅首相は22日、気候変動サミットにおいて、日本は2030年までに温室効果ガスを46%削減すると宣言した。この表明を受けて、日銀が、環境問題に対する中央銀行の取り組みとして、機動的に政策を変更する可能性があるが、市場はこれを過小評価しているかもしれない。政府は今夏にグリーン成長戦略の改定と次期エネルギー基本計画を発表する予定だが、これには電源構成などの目標値や具体的な施策が盛り込まれる。日銀は、政府の政策に整合して、環境関連債・ETFの購入、環境関連事業への貸出金利の変更、適格担保のスクリーニング等、脱炭素化を後押しする何らかの政策手段を導入する可能性が考えられる。

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Daiju Aoki

青木大樹

UBS証券株式会社 ウェルス・マネジメント本部
チーフ・インベストメント・オフィス
日本地域最高投資責任者(CIO) 兼日本経済担当チーフエコノミスト


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