• この投資テーマでは、日本企業にかかわる世界的なグリーン・テクノロジー(グリーンテック)関連の投資機会を捉えることを目指す。これまでの投資テーマ「日本の新たなモビリティ」で想定していたトレンドよりも大きな潮流になると予想されるため、高まるサステナビリティ関連投資の波に乗るべく、グリーンテックに軸足を移す。
  • 気候変動対策が投資の新たな「金脈」になってきた。政府は、環境に配慮した製品・サービスへの切り替えを消費者に奨励し、企業はそうした需要の拡大に応えるために、グリーンテックへの投資を加速している。
  • グリーンテックの最前線に位置するのは、バッテリー、再生可能エネルギー、水素、そしてデジタル技術の分野になるだろう。これらの分野のリーダー企業は、世界的な需要の高まりによる追い風を享受できるものと考える。

世界中で二酸化炭素排出の削減目標が次々と表明されており、発電インフラや製造工場、耐久消費財などにおけるグリーンテック技術への需要が急増するとみられる。この投資テーマでは、日本企業にかかわる世界的なグリーンテックの投資機会を捉えることを目指す。これまでの投資テーマ「日本の新たなモビリティ」で想定していたトレンドよりも大きな潮流になると予想される。よって、高まるサステナビリティ関連投資の波に乗るべく、グリーンテックにテーマの軸足を移す。

最近、主要国・地域が相次いで二酸化炭素削減目標とグリーン投資計画を発表した。例えば、日本の菅義偉首相は所信表明演説で、温室効果ガスの排出を2050年までにネット(実質)ゼロにするという野心的な方針を表明した。この目標は水準が極めて高く、従来の技術では達成困難なため、主要な新技術に対して、大規模な政府の補助金と企業の設備投資が必要になると考える。

グリーンテックの波の中心は、バッテリー、再生可能エネルギー、水素、そしてデジタル技術になるとみられるが、これは日本が最先端の技術を有しているか、あるいはそうした技術を現在開発中の分野である。発電や金属工業、製造業といった自動車以外の産業にもこうした技術の応用は広がるだろう。また、各国の政策当局の後押しを受けて、今後数年でクリーンエネルギーやグリーンインフラといったプロジェクト投資が加速するとみられる。こうした気候変動対策への機運の高まりを踏まえ、我々は投資テーマ「日本の新たなモビリティ」を「日本のグリーンテックの投資機会」に変更し、対象分野の裾野を広げた。

世界各地で気候変動対策が投資の新たな「金脈」になってきた。政府は環境に配慮した製品・サービスへの切り替えを消費者に奨励し、企業はそうした旺盛な需要に応えるために、グリーンテックへの投資を加速している。我々は、一部の日本企業(その多くは関連分野の世界的リーダー企業)は、この新たなトレンドからの恩恵を享受できるとみている。グリーンテックへの移行は急速に進むとみられるが、こうした高度な製品をゼロから開発する時間的猶予はないため、世界の主要企業は日本企業から最先端の電子/機械部品を調達する可能性が高い。

2020年に主要経済国が公約した政策支援

日本は今年10月に、温室効果ガスの排出量を2050年までにネットゼロとする「カーボンニュートラル」の実現を目指す方針を表明した。従来目標は、2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年度比26%減、2050年までに80%減としていたが、今回の政策姿勢はさらに一歩踏み込んだ形だ。2050年までにカーボンニュートラルを達成するために、政府は2030年における自動車販売に占める新エネルギー車(電気自動車と燃料電池車)の割合を、現在の20-30%から引き上げる公算が大きい。また、2021年には2030年までのエネルギー基本計画の見直し期限を迎える。2030年のエネルギー・ミックスにおける再生可能エネルギーの比率は、現在の約22-24%から30%近くまで引き上げられると予想する。足元の再生可能エネルギーの比率は19%と米国よりは高いが、欧州各国には大きく水を開けられている。

欧州連合(EU)はクリーンエネルギー経済への移行を表明し、2050年までにカーボンニュートラルの達成を目指して、新型コロナからの復興計画に気候変動対策関連の投資を組み入れた。総額1兆8,500億ユーロのEU中期予算案とコロナ復興基金は、「欧州グリーン・ディール」の一環として、復興に際してのすべてのプロジェクトについて、環境的にサステナブルな活動の基準値を定めた「EUタクソノミー規則」への準拠を義務付け、予算の最低でも30%を気候変動対策への投資とグリーンな経済成長のために充てるとしている。温室効果ガス排出ネットゼロの目標達成には新たなグリーン技術が必要とされる。日本企業にとって有望な分野としては、再生可能エネルギー、バッテリー、水素、デジタル技術が挙げられる。

中国は9月に、2060年までにカーボンニュートラルを達成するとの目標を表明し、その後、第14次5カ年計画(2021-2025年)において、環境に配慮した経済への移行を盛り込んだ。この目標は、エネルギーミックスの大幅な転換を示唆しており、今後数年において、グリーン・エネルギーとそれを支えるインフラに対する支出と政策支援が拡大するものと見込まれる。また中国政府は、2035年までに新車販売の50%を純粋な電気自動車(EV)に、残り50%をプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)とハイブリッド車(HEV)とし、ガソリン車の新車販売はゼロとする目標を掲げた(現在EV車の割合は5%)。さらに、2060年までにはすべての新車販売をEVにすることを目指す。我々は、中国の太陽光、風力、電気自動車等の業界に高いエクスポージャーを持つアジアの大手資本財企業を推奨する。

米国では、大統領選でのバイデン氏勝利により、米国のグリーン産業に有利となる規制環境の強化が徐々に進むだろう。上下院のねじれ議会が継続する見通しであるため、バイデン氏が提唱する2兆米ドルの気候変動対策への投資がすべて可決される可能性は低いが、それでも気候変動対策を支援する大統領令などの規制措置は、切り札として残される。例えば、パリ協定への復帰に議会承認は不要だ。我々はクリーンエネルギー、エネルギー効率、スマートモビリティ、半導体等の分野で日本企業に機会があるとみている。

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居林通

UBS証券株式会社 ウェルス・マネジメント本部チーフ・インベストメント・オフィス
ジャパン・エクイティリサーチ・ヘッド


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