• 日本企業はこれまで意思決定に時間がかかっていたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて組織改革が進み始めている。
  • 一部の日本企業は既に事業ポートフォリオの再編を進め、新型コロナへの対応を図っている。
  • 2021年3月期の企業利益は7%減益を予想するが、2022年3月期には42%増益へと回復を見込む。投資家は新型コロナを機に、痛みを伴うが必要とされる構造改革を断行した企業を選別するものとみており、市場でセクターの入れ替えが進むと予想する。

我々の見解

日本企業はこれまで意思決定に時間がかかっていたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて組織改革が進んでいる。働き方や消費者の行動が変化しており、新たに発足した菅内閣は公共サービスのデジタル化を積極的に推し進めている。新型コロナウイルスの感染拡大で、日本企業にはより柔軟な対応と素早い意思決定が求められるようになった。我々は、日本企業の意思決定が遅かったのは、関係が薄くシナジー効果が見込めない複数の事業を抱えているため、行動を起こす前に各事業の利益や優先順位を検討するのに時間がかかっていたことが一因だと考える。

一部の日本企業は新型コロナ危機に、既に事業ポートフォリオの再編で対応している。新型コロナで日本企業の利益は落ち込んだが、この間に日本企業の意思決定のスピードが向上する可能性がある。

この投資テーマを最初に取り上げたのは、2019年5月24日付日本株式レポート「組織改革が日本企業の生きる道」である。レポートの中で、日本企業は伝統的な終身雇用や賃金制度の転換を進め、その結果、組織やポートフォリオの見直しが進むと予想したが、その背景にはいくつかの要因がある。1つ目に、日本の労働人口は今後5年から10年で毎年約0.5%減少することが予測される。2つ目に、日本企業の利益率は総じて主要国企業を下回る。低い生産性と利益率というこの2つの要因は、日本企業の前に難題として立ちはだかるだろう。

日本企業の1社あたりの時価総額の規模や売上高の伸びが主要国の企業に見劣りするのは、業界再編が進まないことが一因だとみている

また、長らく日本企業の株主資本利益率(ROE)は8%未満で、営業利益率も5%を切る水準で推移しており、利益率向上を求める株主から経営陣に対する圧力が高まっている。日本企業は現金を多く保有する傾向があるので、今回の新型コロナのような不測の景気後退に襲われても、ある程度の期間であれば持ちこたえることが出来る。 しかし、事業の利益率が低いままでは、売上が落ち込むと多くの企業が赤字に転落することを意味する。これでは海外投資家の期待値を上げることは難しいだろう。日本企業は利益率の低い非中核事業を切り離し、中核事業に経営資源を集中し、事業に欠けている部分を買収によって補うことで競争力を高めなければならない。こうした改革を断行した企業は、来年景気が回復した時に優位性を確保できるだろう。

安倍政権の後任である菅新政権は、新たに「成長戦略会議」を設置した。初会合の席で菅首相は規制改革の断行に意欲を示し、その重要課題として「企業の生産性の向上と労働移動の円滑化」を挙げた。成長戦略会議は2020年末に中間報告を提出し、その後具体的な成長戦略を策定する予定である。

今年は新聞の見出しの大半を新型コロナウイルスが占め、市場のボラティリティ(変動率)も上昇した。足元の日経平均株価は年初とほぼ同水準であるが、投資家の注目を集めてきたハイテク株は今年どのセクターよりも高いパフォーマンスを計上している。2021年3月期の企業利益は7%減益を予想するが、2022年3月期には42%増益へと回復を見込む。投資家は、新型コロナを機に痛みを伴うが必要とされる組織改革を行った企業を選別するものとみており、市場でセクターの入れ替えが進むと予想する。

日本企業は新型コロナウイルスの感染拡大で、伝統的な終身雇用や年功序列の賃金制度を見直し、新たな働き方の導入を迫られている。こうした転換は、程度の差こそあれ、最終的に日本企業の組織改革を促すだろう。新型コロナウイルスが収束すれば優秀な人材の獲得競争が新たに過熱することもあり、企業が組織改革をいかに推進していくかが、今後1~2年の株式パフォーマンスを左右する重要な要因になるものと考えている。

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居林通

UBS証券株式会社 ウェルス・マネジメント本部チーフ・インベストメント・オフィス
ジャパン・エクイティリサーチ・ヘッド


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