今週の要点

史上最高値からもさらなる上昇余地あり

S&P500種株価指数は先週、史上最高値を更新し、コロナ禍での最安値からは94%、コロナ以前の最高値からは28%上昇した。好材料の多くは市場に織り込み済みであるものの、史上最高値をつけてもさらなる株価の上昇は可能だ。過去のデータを遡って見ると、1960年代以降、株式市場は過去最高値を更新した後もその後12カ月間で平均以上のリターンを挙げている。世界中で景気回復が広がりワクチン接種が進む中で、経済情勢や企業収益は引き続き株価の後押し要因となっている。MSCI オールカントリー・ワールド指数のバリュエーションは過去平均を上回る水準にあるものの、低金利環境を踏まえると、債券と比べれば株式のバリュエーションには依然魅力がある。また、米連邦準備理事会(FRB)は6月の連邦公開市場委員会(FOMC)でタカ派寄りの姿勢には転じたものの、景気刺激策の縮小はまだ先となることをFRB高官が強調している。

要点:ポートフォリオの下振れに対するプロテクションを検討することも有効だが、株式市場にはさらなる上昇余地があると我々は考える。世界経済の再開と回復を捉えるポジションを推奨し、特にエネルギーや金融など、景気敏感度の高いセクターが上昇をけん引すると予想する。

欧米の金融株はアウトパフォーマンスへ

FRBは昨年、コロナ禍での対応として増配と自社株買いに関する規制を導入した。この規制が6月末で緩和されたことから、米国の大手銀行は7₋9月期に株主への配当を増やすことを発表し、その額は20億米ドルに上る。金融株は最近まで世界の株価上昇局面に出遅れていたものの、力強い利益拡大と魅力的なバリュエーションにより、今後数カ月はアウトパフォーマンスに転じるものとみている。パンデミック下での下方圧力が後退し、繰延需要が解放されれば、今年は金融企業の利益率と融資の伸びがさらに増大するだろう。信用の質も改善する見込みで、そうなれば昨年大幅に積み増しされた貸倒引当金が収益計上されることになる。市場のコンセンサスでは今年の世界の金融企業の増益率は33%と予想されており、成長は著しい。バリュエーションについては、金融セクターの予想株価収益率(PER)は12倍と、グローバル株式の18.8倍を大幅に下回っている。さらに、増配の傾向は米国に限ったことではない。欧州では、欧州中央銀行(ECB)のエンリア銀行監督委員長が先週、第3四半期末をもって配当と自社株買いの上限を撤廃する方針を再確認した。また英国では今年後半に金融機関のストレステストの実施が予定されており、その結果次第で配当の制限緩和につながる可能性が高いと考えている。

要点:貸倒引当金の低減、融資の増加、利回り曲線のスティープ化の見通しとがあいまって、金融企業の利益見通しは明るさを増している。経済が再開し景気回復が続く中で、我々は世界の株式の中でも金融銘柄を推奨している。

熱波を機にグリーン投資に熱い視線

米国とカナダの一部が熱波に襲われたのを機に、気候変動が改めて注目され、脱炭素化への圧力がさらに高まっている。熱波の原因が気候変動なのか、そうだとすればどの程度が気候変動に起因しているのかは議論されるところであるが、今後は脱炭素化に向けた世界的な取り組みが強化されることが予想される。クリーンエネルギーへの移行に対する政策支援が継続的に強化されており、一部の国ではすでに二酸化炭素排出規制の策定により、環境によりやさしい活動を推進している。報道によると、欧州連合(EU)は二酸化炭素排出削減を加速するため炭素市場の改革案を検討している。また米国でも、議会で審議中のインフラ投資計画に脱炭素化への支援策が盛り込まれている。さらに、消費者の嗜好を反映して企業も二酸化炭素の排出が少ない製品やサービスに軸足を移しており、技術革新が脱炭素化分野における投資機会を拡大している。例えば、世界の自動車売上に占める電気自動車の割合は、2025年までに25%、2030年には60~70%に上ると我々は予想している。この動きを後押ししているのは、車両コストの低下や電池の多様化といった技術革新だ。

要点:グリーンテックと脱炭素化に幅広い投資機会がある。今後は、複数のグリーンテック企業に供給する部品メーカーやグリーンテックの推進力となるイネーブリング技術に最も有望な投資機会があると考えている。

深読み

好調な年前半を後半につなぐ

Mark Haefele
チーフ・インベストメント・オフィサー

S&P500種株価指数は先週5日連続で史上最高値を更新し、年初来のトータルリターンは15%にのぼるなど、非常に好調で今年前半を終えた。グローバル株式も史上最高値を記録し、コロナ禍の最安値を90%近く上回った。一方、ボラティリティは異例なほど低く、MSCI オールカントリー・ワールド指数が日中1%以上動いた日は6月中はわずか1日だけで、VIX指数は新型コロナウイルス感染拡大後の最低水準に低下した。

こうした好調ぶりを受けて、株価上昇が今年後半も続くのか懸念する投資家もいるだろう。好材料の多くはすでに市場に織り込まれ、MSCI オールカントリー・ワールド指数の12カ月予想PERは約19倍と、20年平均の15.1倍を上回っている。そこで、ボラティリティが低い足元の局面を利用して、今後の下振れリスクに備えてポートフォリオを調整することも有効と考える。具体的には、十分な分散投資、大幅に上昇した(ここからの上振れ余地が限られている)銘柄の利益確定、ヘッジファンドへの分散投資などである。

しかし、株式市場は次の3つの要因に支えられて、今年後半も続伸すると我々は考えている。

  1. 世界的に経済再開が広がり、経済成長と企業利益を押し上げる。米国の経済再開はかなり進んでいる。今後は欧州と英国もこれに追随すると予想される。フィナンシャルタイムズ紙によると、フランスは6月30日に商店、飲食店、ジム、文化施設への収容人数の制限を解除し、最終段階の緩和を実施した。英国では感染力が強いデルタ変異株の感染拡大が続いているが、政府は当初6月21日に予定していた制限の全面解除を7月19日に実行する考えを明らかにしている。日本ではオリンピック開催を前に、慎重姿勢が予想される。しかし、オリンピック後はワクチン接種の加速に支えられて日本でも経済の正常化が進むだろう。こうした世界のトレンドは、今年の企業の増益率を38%、来年は8%と予想する我々の見方を裏付けるものだ。ただし、企業利益は上振れリスクの方が大きく、グローバル株式はさらに上昇する可能性がある。
  2. インフレ懸念はさらに後退する見通し。昨年の低水準との比較によるベース効果とエネルギー価格の上昇の影響が薄れることから、5月の物価指標が米国のインフレ率のピークになると予想している。最後に、サプライチェーンと需要状況が正常化するにつれ、パンデミックと経済再開に伴う混乱も落ち着きを取り戻すとみられる。例えば、木材価格は終値ベースで5月に1,000ボードフィート当たり1,670米ドルの史上最高値を記録したが、米国では家のリフォームより旅行に出かける消費者が増えたことから6月に入って40%以上下落した。パンデミック中に公共交通機関が敬遠されたことなどから価格が上昇した中古車など、一部品目の価格高騰も収まり、価格は正常化するとみられる。一方、ユーロ圏のインフレ率のピークは米国に遅れると見られるものの、インフレ圧力が高まる兆しはない。こうしたことから、各国中央銀行が想定以上に早期に政策の正常化に踏み出し市場を混乱させることはないと見られる。
  3. 中央銀行は引き続き景気を下支えするメッセージを発信するだろう。 6月は各国中央銀行がいずれは金融緩和策が打ち切られることを市場に意識させる一方で、実施は当面先であるとして安心感を与えることに成功した。各国中央銀行は今後も市場とのコミュニケーションを重ねていくものと予想する。8月に開かれるジャクソンホールのシンポジウムで、FRBが具体的な日程には触れずに量的緩和縮小を表明する可能性がある。

こうした状況を踏まえると、株式には一段の上昇余地があり、エネルギー、金融などの景気敏感セクターがアウトパフォームするとみられる。今年出遅れていた日本株式は好調な世界経済と経済再開の恩恵を大きく受ける見通しだ。

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