米ダラス連銀のカプラン総裁は、経済政策において、マスクで「口を覆う」ことの重要性を指摘した発言が国際的に評価を受けることになるとは恐らく考えもしなかっただろう。マスク着用は、景気回復を早めるために「我々が今できる最も重要なこと」という発言は、瞬く間に世界を駆け巡った。米連邦準備理事会(FRB)も投資家と同じく、景気を支える刺激策に絶えず注意を払いつつ、ウイルスの感染率に目を光らせている。米経済学者ミルトン・フリードマンの言葉を借りれば、「我々は今や皆ケインズ派の疫学者だ」ということになる。

先月のレター以降、ナスダック総合指数は6.1%上昇して最高値を記録し、S&P500種株価指数は3.6%、中国のCSI 300指数は11.7%、そしてグローバル株式は4.2%上昇した。新型コロナウイルスの感染者数は米国南部で拡大し、一部の政府は厳格なソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)措置を再び実施しているにもかかわらず、市場の自信は高まった。

本レターでは、今年後半もグローバル株式が支えられると我々が考える理由を説明する。各国は「第2波」を理由に再びロックダウンすることはないだろう。累積需要と政府の刺激策に実質マイナス金利が相まって、今後数カ月も株式の上昇要因になるだろう。さらに、米大統領選挙に備えたポジショニングについての最新の見解、短期的なノイズ(雑音)をどう取り除くか、そして基本シナリオと楽観、悲観シナリオそれぞれについての主な投資アイデアも提供する。

なぜ現在投資を続けることが大切か

1)各国は都市封鎖措置を再実施しない

我々は、世界各地での最近の新型コロナ感染者の増加が国家的な都市封鎖措置の再実施につながらないとの見方を維持する。3月以降に得たコロナウイルスに関する情報を勘案し、政策当局は経済への打撃が少ない形で感染拡大減速に向わせる政策をとるように思われる。

– ウイルスの致死性は、感染拡大が始まった当初に考えられていたほど高くはない。各国政府が新型コロナに対して厳しい措置を導入した理由の一つは、入院率と致死率が高いと受け取られていたからだ。世界保健機関(WHO)の当初の推計では、致死率は3.4%とされていたが、検査能力が限られていたために無症状感染者に診断が下されなかったことなどから、この数字は過大であることがわかった。医学誌ランセットの掲載した研究によると、欧州での致死率は0.5⁻1%と推定している。この数字は、レムデシビルなどの承認治療薬の影響や、年代間の致死率の大きな違いを考慮する前のものである。こうしたデータは今後、より対象を絞った封じ込め戦略を後押しすることになるだろう。

– ウイルスの感染力は、当初に考えられていたほど高くはない。各国政府が都市封鎖を急いだもう一つの理由は、ウイルスの感染率が高く、国の医療システムが急速に逼迫する恐れがあると推測されたからだ。1人の感染者が平均何人に感染させるかを示す実効再生産数(Rt)の推定値は、当初およそ2.4と算出されていた。だが検査の普及に伴い、数値は下落し始めた。例えば3月には、アリゾナ州のRtは2.61だったが、都市封鎖が始まるまでに1.07になり、都市封鎖中にさらに低下した。都市封鎖解除後はRtが上昇したものの、すぐに下落し、同州で第2波の発生が広く報道されている中でも概ね1.02で安定している(図表1参照)。1.0前後での安定は、テキサス州やフロリダ州、カリフォルニア州、先進国の多くでも見られている。

– 一部地域ではかなりの割合の人々がすでにウイルスに感染している。抗体検査によって、フランスとスペインでは人口の約5%、ニューヨーク州では14%、ロンドンでは17%、ニューヨーク市では21%がすでに感染したかもしれないことが示唆された。T細胞による免疫を持つ割合はもっと高い可能性がある。

これらの新たに判明した事柄は重要である。なぜなら、「マスクを着用しながら集団免疫を獲得する」戦略の信頼性が増したことを意味するからだ。Rtが2.5であれば、広く報道されているように、集団免疫の獲得には理論上60%の人の感染が必要になる。だがRtが1.02、1.1、1.2の場合、集団免疫に必要な感染割合はそれぞれ2%、9%、17%となり、ロンドンとニューヨーク市で明らかになった抗体保有率を下回っている。当初の予想よりも低い致死率と感染力、感染して回復した人々の存在は、マスク着用と接触者追跡、バーの閉鎖という小規模な取り組みで、感染拡大ペースを効果的に減速しうることを意味する。もちろん、集団免疫の獲得に近づけば、少ない量のワクチンで公衆衛生上の効果が現れ始める。多くの感染者にとって新型コロナ感染症は依然として恐ろしい病気であり、地域の医療システムは今も緊迫した状況だ。だが入院率に注目すれば、アリゾナ州やテキサス州などでウイルス感染拡大が再び減速している兆候が見られる。

新型コロナのワクチンはいつ完成するか?

– 7月14日現在、世界では16種類のワクチン候補のヒト臨床試験が行われている。

– ファイザーとモデルナは今月、第1相試験の中間結果を発表した。データから、これら2種類のRNAワクチンが安全であり、少なくとも新型コロナから回復した人と同程度の免疫反応を引き起こすことが示された。

– これらの抗体が病気の予防につながるかを判断するには、大規模な研究が必要になる。上記2種類のワクチンと、アストラゼネカのワクチンの大規模な第3相試験が間もなく米国で始まる予定であり(各ワクチンについて3万人が対象)、有効性データが秋に発表される可能性がある。

– 利用可能なデータの最新の評価と新型コロナウイルスの免疫に関する現時点までの知識に基づき、現在臨床試験が行われているワクチン候補のいくつかの開発が成功すると予想する。だが免疫の強さと持続期間はわかっておらず、再接種の必要があるかもしれない。

– 我々の基本シナリオが実現した場合、2021年第2四半期中に米国で1種類以上のワクチンが広く入手できるようになり、2020年末に緊急使用許可の下、感染リスクの高い職業従事者向けに限られた量のワクチンの入手が可能になる。

– 公表されている供給能力によれば、2020年末または2021年初めまでに、欧米で最大6億回分のワクチンが利用可能になり、供給量は2021年末までに約40億回分に増加する。実際の供給能力は最適な投与量によって決まり、それぞれのワクチンの開発が成功するとの想定に基づく。

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