政治的影響が再び高まる
  • 金融市場で政治的要因による影響が高まっている。のしかかる貿易紛争の影響、中東での緊張再燃、米大統領選挙、トランプ米大統領の弾劾調査など、2020年も状況は変わらないと考える。投資家には、政治動向に対する判断に基づき急いで投資ポジションを固めるのではなく、政治ニュースを消化しながら段階的に投資を進めていくアプローチを勧める。
  • 足元の景気サイクルを終わらせる可能性が最も高いイベントは、やはり貿易紛争の悪化であろう。貿易紛争は、米国だけではなく、ユーロ圏や中国の景気下振れリスクも高めた。
  • 以上を踏まえ、我々は、株式全体をアンダーウェイトとし、その中でユーロ圏株式に対して米国株式をオーバーウェイトとする。また、緩和的な現在の環境下で魅力的なインカム獲得戦略を重視する。

金融市場で政治的要因による影響が高まっている。今年後半に株式市場が大きく揺れ動いた局面の大半は、米中貿易紛争関連のニュースがきっかけとなった(図表2)。例えば、米国が3,000億米ドル相当の中国輸入品に10%の追加関税を課すことを発表したことから、S&P500種株価指数はその後の数日で5%近く下落した。

一方、全米経済研究所(NBER)*の最近の調査報告書では、トランプ大統領の積極的な金融緩和を求めるツイートが、米国の政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利に対する市場の期待に、統計的に有意な影響(累積約10ベーシスポイント(bp)の押し下げ効果)をもたらしたことが指摘されている。

別の例としては、直近のサウジアラビア石油施設への攻撃が挙げられる。原油価格は、攻撃が報じられた直後に20%近く急騰した。政治的な不透明感の高まりにより、短期的に市場ボラティリティ(変動率)が上昇することは、データからも確認されるが(図表1)、市場への長期的な影響は不透明である。政治的要因が市場に長期的な影響をもたらすのは、政治的な動きが経済や企業に対して直接的かつ重大な影響を及ぼす場合に限られる。したがって、いかなる投資判断においても、マクロ経済動向を注視していくことが重要である点に変わりはない。現在、景気サイクルは終盤の局面にあると我々はみており、今後数カ月にかけて世界経済が減速すると予想する。しかし、来年に景気後退入りする可能性は低いと見ており、むしろ来年後半には緩やかに回復すると見込んでいる。

重要なのは、影響力の大きい政治問題とノイズ(雑音)を見極めることである。例えば、貿易紛争に関する発言は、同日中に前言と相反するメッセージが発せられる場合も少なくない。通商協議は一進一退を繰り返していることから、投資家は見通しおよび投資ポジションを性急に変更するのではなく、最終的な結果を待つべきであると考える。

重要な市場の変動要因について見通しを持つこと、そして日々のノイズを見極めることは重要だが、資産配分の決定においては不確実性の高さも考慮する必要がある。足元の戦術的資産配分については、株式をアンダーウェイトとし、長期にわたる緩和的な金融環境において良好なパフォーマンスが期待されるインカム獲得戦略(米ドル建ての新興国国債など)に重点を置くことを推奨する。

特に政治的要因については、それが市場に及ぼしうる影響を見極めるために、段階的なアプローチを取ることを勧める。政治動向に対する判断に基づき投資ポジションを急いで固めることは、賢明ではない。調査によれば、政治動向に対する失望や熱狂が投資家の経済環境の認識に影響を及ぼし、潜在的なテールリスクの発生確率と影響を過大評価するようになり、堅実な投資判断に支障をきたす可能性があることが指摘されている。

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