バイデン氏の勝利:投資見解とFAQs
民主党バイデン候補は7日に大統領選の勝利宣言をした。市場は先週の時点ですでにこの結果を、最も実現可能性が高いものとして織り込み始めており、バイデン大統領の下でねじれ議会が誕生するとの予想は株価を急上昇させた。最善の方策は、選挙は終わったとの前提に基づいて動き、市場の焦点が中期的に経済成長を牽引する要因に移ると考えることだ。
民主党バイデン候補はペンシルベニア州での勝利を確定させ、7日に大統領選の勝利宣言をした。市場は先週の時点ですでにこの結果を、最も実現可能性が高いものとして織り込み始めており、バイデン大統領の下でねじれ議会が誕生するとの予想は株価を急上昇させた。
全般的に、我々はリスクオンのスタンスを維持する。最善の方策は、選挙は終わったとの前提に基づいて動き、市場の焦点が中期的に経済成長を牽引する要因に移ると考えることだ。こうした要因には、新型コロナの感染状況、ワクチン開発、金融・財政支援策などがある。我々は、新型コロナワクチンが数カ月以内に承認され、2021年前半に普及するとの楽観的な見方を維持し、金融・財政支援策が引き続き株価を下支えすると予想する。先週の上昇によって、特に米国株式のバリュエーションが高まったことは認めるが、次の株価の上昇局面は、中型株、資本財、長期グロース銘柄より出遅れていた一部の景気敏感株など、景気の影響を受けやすい銘柄が牽引すると考える。
次に、よく尋ねられる質問(FAQs)の一部を紹介する(詳細については、11月4日付レポート「ElectionBrief (バイデン政権下における投資への影響)」を参照)。
選挙戦は本当に終わったのか?
選挙戦は本当に終わったのか?
次期政権への移行で通常とは異なる点が少なくとも2つある。1つ目は、約四半世紀ぶりに再選を果たせなかった現職大統領であるトランプ氏が、まだ敗北を認めていないことだ。2つ目は、ジョージア州の上院2議席を巡って1月に決選投票が行われるため、民主党と共和党の議会での勢力バランスがまだ確定していないことだ。
最初の問題に関しては、一部の票の再集計が行われる見通しであり、トランプ氏はまだ公に敗北を認めておらず、複数の訴訟を起こしているが、トランプ氏とバイデン氏の選挙人獲得数の差は、大統領選の最終結果に関して疑問の余地をほとんど残さないと思われる。我々の基本シナリオでは、過去の例から、トランプ大統領がメディアの注目を集めるようなツイートを投稿し続けると予想されようとも、平和的な政権移譲が行われるかどうかが、市場を動かす重要な要因になるとは考えられていない。どの場合でも、市場への影響は限定的になりそうだ。
2つ目に関しては、共和党が1議席か2議席の差で上院の過半数を維持する可能性が高く、現在の相場に織り込まれていると考える。民主党がジョージア州の2議席を獲得すれば、両党が上院で50議席ずつを占めるのはほぼ確実だ。その場合、副大統領が均衡を破る1票を投じる権限を持つが、そのような方法で民主党が重要法案を可決させようとするとは考えにくい。それは政治的に嫌われるやり方であり、2022年の中間選挙で民主党が下院と上院の議席を失うリスクがある。こうした理由から我々は、市場が引き続きねじれ議会を織り込み、上院の議席数が各党50で並んだ場合は、財政支援策の規模が大きくなるとの楽観シナリオがあると考える。
株価の上昇余地はあるか?あるとすればセクターは?
株価の上昇余地はあるか?あるとすればセクターは?
選挙の週に大型ハイテク株が大幅に上昇したのは、債券利回りが低下し、民主党が圧勝した場合よりも規制を巡る不確実性が薄れたためだと見ている。また投資家は、財政支援策の規模が小さくなる可能性が高いために、再び「避難先」となるグロース銘柄へのローテーションを行っているように思われる。今後に目を向けると、向こう数カ月間は市場に上昇余地があると引き続き考えているが、それを牽引するのは景気の影響を受けやすい銘柄になるだろう。我々は国内総生産(GDP)の2.5⁻5%に相当する約5,000億‐1兆米ドル規模の大型財政支援策が成長を下支えするとの見方を維持する。また、来年半ばまでにワクチンが広く行きわたり、景気回復の幅が広がるとも予想する。こうした状況で、中型株は十分に下支えされるだろう。テクノロジー銘柄では、サプライチェーンや決済、デジタル広告などの分野で、足元の企業業績が良好であり、新型コロナの世界的感染拡大中に好調なパフォーマンスを示したEコマースやソフトウェアといった分野よりも、これまで出遅れていた景気動向により敏感なハイテク分野の銘柄へエクスポージャーを広げることを勧める。
米国以外では、支援策の実施に向けてポジションを取り、景気動向の影響を受けやすい分野へのエクスポージャーを追加することを勧める。具体的には、英国株、ユーロ圏(EMU)の中小型株、新興国のバリュー株などが挙げられる。これらは先週発表されたイングランド銀行の量的緩和拡大と、欧州中央銀行(ECB)が12月10日の理事会で発表すると見られるパンデミック緊急購入プログラムの規模拡大と期間延長によっても下支えされるだろう。
バイデン氏は「グリーン政策」を推し進めることができるか?グリーンテック銘柄へどのような影響が及ぶか?
先週再生可能エネルギー、スマートモビリティ、省エネ関連の銘柄が下落したのは、ねじれ議会が誕生する可能性を受けて、これらセクターの将来的な成長性が見直されたためだった。しかしながらバイデン氏は、米国は再び温室効果ガス排出削減に関するパリ協定を支持すると発言し、信念と価値観の方向性について重要なシグナルを発した。州レベルと企業の政策も引き続き下支えするだろう。そしていずれにせよ、経済性からグリーンテックの優位性が徐々に高まるだろう。多くの場合で、太陽光発電と陸上風力発電は、新しい発電方式の中で最もコストが安いものになっており、米国最大の再生可能電力会社は、連邦政府から新たに規制上の支援を得られなくとも、時価総額で同国最大の「エネルギー」会社になっていることは注目に値する。米国以外では、欧州のグリーンテック関連銘柄は、欧州連合(EU)がグリーンリカバリー(環境に配慮した新型コロナ禍からの回復)を重視することによってサポートされ続けるだろう。そして中国と日本がカーボンニュートラルを目指すと宣言していることから、アジアでのグリーンテックへの強い需要は継続するだろう。
バイデン氏は中国との関係を正常化させるか?それが投資にどのような影響を及ぼすか?
我々の基本シナリオでは、両党から広く支持を得ている米国の中国封じ込め戦略は継続されるとみている。従って、米国の数々の対中措置が直ちに撤回される可能性は低い。しかしながらバイデン氏の中国政策は、より予測可能で現実的なものになりそうだ。その結果、米国市場に上場する中国株は、上場廃止のリスクが弱まったと考えられる。バイデン氏が関税を政策ツールとして使う可能性は低いため、同氏の勝利は人民元にとってもプラスと受け止められるだろう。一方、中国は中国独自で、代替的な金融・テクノロジー基盤の構築を加速することに注力するだろう。米国と中国の主導で、別々の技術エコシステムが存在する世界の二極化が進み、テクノロジーセクターへの地域分散投資の重要性が高まっている。
選挙結果に反応して米国債利回りは下がった。利回り低下はどの程度続きそうか?
米国債価格の最近の上昇は、財政支援策の規模が選挙前の予想よりも小さくなる可能性に合わせて市場で調整が進んでいることを反映している。現時点の米10年債利回りは82ベーシスポイント(bp)で、選挙週に記録した94bpから低下した。米連邦準備理事会(FRB)が金利を据え置く中、我々はファンダメンタルズの改善が米10年国債利回りとインフレ期待の両方を緩やかに上昇させると考える。しかしながら、FRBが金利とバランスシートを積極的に管理していることを考えると、利回りが急上昇しても長くは続かないと見ている。よって、低インフレの状況であることからも、長期金利の急激な上昇を妨げるだろう。長期米国債は引き続き、ポートフォリオの魅力的なヘッジ目的の資産として機能するだろう。
米ドルの見通しは?
米ドルは選挙週に下落した。我々は、他のG10通貨に対する金利の魅力が以前よりも低下しているため、米ドルは長期的には下落し続けると考える。また、大規模な財政支援策が行われないことが明らかになった場合に、FRBが積極的に行動しなければならないと考える可能性も考慮する必要がある。
ヘルスケア銘柄へはどのような影響が及ぶか?
バイデン氏の下でねじれ議会が誕生する選挙結果は、短期的にはヘルスケアセクターにとって最良だと我々は見ている。薬価と医療保険に公的オプションを追加する民主党の積極的な政策は、共和党が過半数を握る上院で可決されそうにない。穏健な薬価法案であれば依然として成立する可能性がある。だが、ヘルスケア政策に関する法案で両党が妥協する確率は50%に満たないと我々は見ている。
金融銘柄へはどのような影響が及ぶか?
米国の金融銘柄にとって、今回の選挙結果は、好悪まちまちからややマイナスになると思われる。次の財政支援策は小規模になる可能性が高く、金利への下方圧力となり、長短金利差を縮小させそうだ。銀行株と金利は強い相関関係にある。しかしながら、この影響は、増税の可能性が低くなったことによってやや緩和される。また共和党が上院を支配し続けるならば、規制リスクも幾分和らぐだろう。一方で、我々は今も、バイデン政権が新たな規制当局のトップに、業界に対する法律や規制を厳格に運用する人物を任命すると予想する。
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