人民元ブロック(経済圏)

中国の国際金融市場との統合はますます進んでいます。中国は、国内金融市場を海外投資家に開放し、貿易取引を 推進し、一帯一路政策を拡大しています。

  • 中国の国際金融市場との統合はますます進んでいます 
  • 中国は、国内金融市場を海外投資家に開放し、貿易取引を 推進し、一帯一路政策を拡大しています
  • 人民元の役割が拡大し、それに伴い世界経済における中国の影響力は増しています
  • 人民元が世界の基軸通貨である米ドルにすぐに取って代わる可能性は低いでしょう。一方で、地域の基軸通貨として影響力を持つ可能性は高いとみられ、人民元ブロック(経済圏)が世界経済に影響を持つ形で台頭する可能性が高まっています

近年、米国から中国への覇権シフトはあるのか、あるとすれば、それはいつなのかについての報道が増えています。通貨覇権についても、世界の高い関心の一つです。

2015年、IMF(国際通貨基金)のSDR(特別引き 出し権)バスケットの構成通貨に人民元が組み入れられました。これが分水嶺となり、世界の基軸通貨 としての米ドルの優位性が、低下するとの期待が高まりました。一方で、米ドルは依然として最強通貨であり続けており、今後もその優位性を維持するとの見方が強いのも事実です。

中国では市場開放が進んでいるにもかかわらず、資本勘定は依然として政府が厳密に管理しており、取引の制限や自由度の低さが大きな障壁となっています。

それにも関わらず、世界経済での人民元の影響力は強まっています。

強まる人民元の影響力

実際、最近のIMFの研究において、人民元による 世界の通貨への影響が検討されました。そこで、IMFはいくつか示唆に富む結果を見出しました。

この研究では、世界の通貨が人民元の変動に対し、どの程度相関しているかが、調査されました。

結果としては、特にアジアやBRICS諸国における 国際的な通貨と人民元との間に、確固たる相関が確認されました。人民元経済圏の規模は世界のGDPの約31.6%と見積られ1、世界の通貨に対して支配的な影響を及ぼすという結論が導き出されたのです。

この背景には、中国という国家が持つ独特のリーダーシップがあり、それは時間とともに影響力を増していると考えます。

まず、金融市場を見てみましょう。

ロンドン市場では、人民元の取引量が2019年上半期、他の主要通貨の取引量を上回りました

2015年以降、中国は国内金融市場へのアクセスを開放しています。「ストックコネクト(上海/深センと香港の株式市場の相互取引制度)」および「ボンドコネクト(香港と中国本土間の債券相互取引制度)」プログラムの導入は、その代表的な政策の一つです。取引条件の緩和を目的とした具体性の高さと、アクセスが可能になった資産クラスの幅の拡大が評価され、中国での海外投資家のオンショア資産保有率の持続的な増加に繋がっています。

中国市場へのアクセスは、世界的なインデックスへの採用とともに増幅されていきます。中国本土株や中国債券の世界的なベンチマークへの段階的な組入れが、進められています。この動きは、世界の経済成長における中国の影響力を反映したもので、グローバルな資産再配分を促す追い風となっています。

中国は、国内の商品市場においても金融市場を上回る市場整備と開放を実施しています。これにより、人民元の国際化が更に推し進められています。中国は、2018年には原油、続いて2019年には金の国内市場での取引を開始するなど、主要なコモディティの人民元建て取引契約の拡大を進めています。その取引は、米ドルではなく人民元で決済されています。

上海黄金取引所は、金取引量 (片道)が世界で第3位の 規模に成長し、世界最大の場内金実物取引(往復)市場となった2

図1

中国での海外投資家のオンショア資産保有比率
(兆人民元、2016年1月~2019年9月) 

図1 中国での海外投資家のオンショア資産保有比率
出所: 中国人民銀行、 2019年10月

図2

中国債券: ブルームバーグ・バークレーズ・グローバル総合インデックスに採用: 2019年、2020年 、将来

図2 中国債券がブルームバーグ・バークレーズ・グローバル総合インデックスに採用
出所: UBSアセット・マネジメント、 2019年11月

米国以外で、中国は積極的に自由貿易を推進

トランプ米大統領の主導によって激化した貿易戦争ですが、中国の輸出額の94%が米国以外の市場向けであることを思い出すべきです。

中国は貿易問題を進捗させ、中国企業による海外市場へのアクセスを増やすため、数多くの自由貿易協定に調印しています。中国は、既に17の世界的な自由貿易協定(FTA)を締結し、14の協定については交渉中で、さらに9つの協定の締結に向けて交渉を開始しました。(2019年11月時点)
中国は、これらの一つである地域包括協定をインド、シンガポール、インドネシア、ベトナムを含むアジア16カ国と結び、アジア地域での自由貿易同盟において、経済連携を強めました。

一帯一路政策

そして、中国は自由貿易への積極性を強めるとともに、貿易拡大や資金調達通貨としての人民元の普及を一帯一路政策を通じて促進するとみられています。

一帯一路政策に沿った貿易航路・設備の先進化は、域内の国々との人民元決済での貿易の増加を促すだけでなく、オフショア市場における人民元の影響力をさらに促進するでしょう。

中国企業は、人民元のバランスシートを使って、一帯一路政策に沿ったプロジェクトに資金を供給することができるだけでなく、これらの国々における人民元の流動性を高め、それによってさらなる人民元ビジネスを可能にすると見られています。

人民元ブロック

これらすべての要因が重なり合い、世界における人民元の重要性は増しています。最近の中央銀行および政府系ファンド(ソブリン・ウエルス・ファンド)に関するUBSの調査3では、回答者の40%が人民元が米ドルおよびユーロと同等の主要な基軸通貨に成長すると予想しています。

すなわち、主要な中央銀行は、国際的な決済・金融システムが、3つの主要通貨が競合する多極通貨体制に徐々に移行していくと考えています。

中国がアジア地域への影響力を高めようとしていることや、金融市場が着実に開放されていることを踏まえると、人民元は貿易関連取引の決済通貨としてのみならず、投資・基軸通貨としての役割、ひいては人民元ブロック(経済)の現実的な台頭への期待を担っています。