アジアのサステナブル投資
アジアでは、投資の決定に環境、社会、コーポレートガバナンス(ESG)への配慮を組み込んだサステナブル投資が飛躍的に拡大している。サステナブル投資の普及を促進するための国際組織「グローバル・サステナブル・インベストメント・アライアンス(GSIA)」によると、2012年から2016年の間に、アジアにおけるサステナブル投資の運用資産残高は、日本をけん引役として、400億米ドルから5,260億米ドルにまで急増した。
中国が2018年に、米国とわずか2ポイント差で、世界第2位のグリーンボンド発行国になることを、誰が数年前に予想できたでしょうか。同様に、アベノミクスの下で日本がサステナブル投資急成長国となり、運用資産総額に占めるサステナブル投資の割合が2014年の米国の水準に肩を並べるまでに拡大したこと、そして、環境・社会・ガバナンス(ESG)の情報開示を義務化した証券取引所の数で、2019年にアジアが世界最多に飛躍することを、数年前に予想できた人がどれだけいたでしょうか。
アジアではわずか数年の間に、サステナブル投資に対する姿勢が急激に変わってきました。アジアのサステナビリティ(持続可能性)に関する問題は、明らかに政府主導による取り組みが必要とされています。同時に、政府や企業には、気候変動や大気汚染など、都市生活に影響を及ぼす問題への対応策を求める社会からの圧力が高まっています。
近年、アジアの各国政府は、サステナブル投資を推進する方向へと舵を切り始めました。その背景には、サステナブル投資が、労働力人口の減少とそれに伴う経済成長の低下をはじめ、移民からインフラ、気候変動、低炭素社会への移行に伴うリスクにいたるまで、幅広い課題の解決に寄与するとの認識が広がってきたことがあります。このため、例えば企業の収益性向上に向けたコーポレートガバナンス強化や、グリーンファイナンス・イニシアチブによるインフラ資金調達など、政府の主要政策を支援する目的でサステナブルファイナンスやサステナブル投資の活用が進んでいます。
日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)や香港金融管理局(HKMA)、シンガポール政府投資公社(GIC)、タイ政府の年金ファンドなどアジアの政府系アセットオーナーは、自身の投資分析と意志決定のプロセスにサステナビリティの要素を組み込むと同時に、運用受託機関にも同様の取り組みを要請し、率先垂範する形でサステナブル投資を推進しています。また、監督当局によるスチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの枠組み強化や、ESG 情報の開示を促す政策や規則の動きもサステナブル投資を後押ししています。その代表例が香港の中央銀行に相当する香港金融管理局(HKMA)です。HKMAは金融監督当局として、香港金融市場でのグリーンファイナンスを促進し、ESG情報開示規則を強化する政策を公表するとともに、資産総額4兆香港ドルを擁する外貨準備の運用責任者として、自らもESG要素を考慮した運用を実践しています。シンガポールの政府系ファンドは、気候変動のリスクを契機に、投資判断にESG要素を組み込んでいます。
アジアのアセットオーナーがサステナブル投資を積極的に採用しているのは、この投資手法でも投資リターンやパフォーマンスが犠牲にならないことが認知され始めているからです。年金基金や保険会社などの長期機関投資家にとって、サステナブル投資は、気候変動や低炭素経済移行に伴う化石燃料資産等の資産価値低下、いわゆる「座礁資産化」による下振れリスクを低減することができます。信用投資家にとって、ESGの柱である優れたコーポレートガバナンスは、信用リスクの緩和に寄与します。新興市場では、ESG株式投資戦略は一般的なベンチマークを上回るパフォーマンスを示しています。それは、コーポレートガバナンスに優れた企業ではテールリスクが小さいことが理由と言えるでしょう。サステナブル投資は長期的なリターンを追求する上で合理的な手法であることから、UBSはサステナブル投資を中核的な投資戦略の1つに位置付けています。
サステナブル投資のアジアにおける急速な成長とともに、各国のサステナブル投資商品の種類も投資対象も拡大しつつあります。特にグリーンボンド市場の急拡大は、環境問題が深刻化するアジアで環境関連の投資需要が増大していることも大きな要因となっています。投資家の皆様には、すべての資産クラスの投資に対して、長期的なサステナブル投資の要素を組み入れることをお勧めします。投資を通じてより直接的に社会的・環境的課題の解決を目指す投資家の方は、プライベートエクイティか直接投資を通した「インパクト投資」を検討することをお勧めします。
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