日本株式 コロナ後の正常化に備える

この投資テーマでは、来たるべき経済の正常化と、感染拡大により大きな痛手を受けた業種の回復局面を捉えることを目指す。新型コロナワクチン、企業利益の堅調な回復、魅力的な相対バリュエーションという3つの理由から、昨年最も打撃を被った企業に資金をシフトする時期だと考える。

by 居林 通、小林 千紗 2021年 2月 03日
  • この投資テーマでは、来たるべき経済の正常化と、感染拡大により大きな痛手を受けた業種の回復局面を捉えることを目指す。
  • 新型コロナワクチン、企業利益の堅調な回復、魅力的な相対バリュエーションという3つの理由から、昨年最も打撃を被った企業に資金をシフトする時期だと考える。
  • 主なリスクとしては、ワクチン接種で感染を抑え込めない事態や、新たな移動・活動制限の導入が挙げられる。

我々の見解

昨年11月から感染拡大第3波が到来しているが、2021年は人の移動の再開や入国制限の緩和にともない、日本が正常化に向かう年になると考えている。この投資テーマでは、来たるべき経済の正常化と、感染拡大により大きな痛手を受けた業種の回復局面を捉えることを目指す。我々は主に3つの理由から、この1年にわたり新型コロナから大きな打撃を受けた銘柄に資金をシフトする時期であると考える。

1つ目に、新型コロナワクチンはゲームチェンジャーとなるだろう。日本政府は2月の先行接種を皮切りに、順次ワクチン接種を進めていく見込みである。政府は人口の120~170%をカバーする3.1億万回分のワクチンを確保している。ワクチン接種計画と、日本の人口あたり感染者数比率は諸外国を著しく下回っていることを踏まえると、2021年末か遅くとも2022年前半までに、国内での感染拡大をおおむね封じ込めることができると考えている。感染拡大と移動制限を受けて、昨年はITハードウェアの需要が急増する一方、サービス需要が激減した。従って、今年ワクチン接種が進めば、向こう6~12カ月の間に多くのサービス業に対する需要が喚起されるだろう。

2つ目に、コロナ後の企業利益の回復は想定よりも強いということである。正常化の局面では、観光、エンターテインメント、小売り、外食、運輸といったセクターを推奨する。これらセクターの企業はコロナ禍を生き抜くために、事業再編を進め固定費削減に努めている。その結果、正常化の局面では売上高の回復速度よりも利益のほうが大きく回復するとみられる。また、これら大きな痛手を受けた業界では、多くの企業が廃業を余儀なくされたため、需給バランスも好転している。つまり、コロナを乗り切った企業は体質がさらに強化されており、ひとたび需要が上向き始めれば利益は増加するだろう。

3つ目に、多くの日本株式の株価収益率(PER)や株価資産倍率(PBR)が10年平均を上回っている中、投資家の目が2020年にアウトパフォームした銘柄からアンダーパフォームした銘柄へと移ることが予想される。経済と日常生活が正常化する過程で、投資家の注目は、新型コロナで大きな打撃を受けて株価がテクノロジー・セクターを著しくアンダーパフォームした業種に向かうとみている。投資家は昨年、需要の戻りが著しく不透明なことを背景に、ハードウェア/ソフトウェア製品などのコロナ禍での勝ち組に押し寄せた。結果として観光、小売り、輸送といった国内サービス・セクターが昨年は大きくアンダーパフォームした。だが、ワクチンの普及により今年いずれかの段階で移動が改善するとみられるため、ワクチン接種がゲームチェンジャーになり、正常化の恩恵が大きい業種へと投資対象の切り替えが起こるだろう。投資家の視線はまだ、コロナ禍で需要が急増し、昨年大幅にアウトパフォームしたテクノロジー・セクターにあるが、反発の下地が整いつつある今こそその他の業種にシフトする時期だとみている。

正常化とは何を意味するか?

正常化とは、単にコロナ前の業務や経済状態に戻ることではない。過去に例をみない大きな変化を経験し、在宅勤務やオンラインでのビジネス会議といった変化の一部は新型コロナが収束した後でも定着する可能性が高い。とは言え、ワクチン接種が進み、集団免疫を獲得した後は正常化のプロセスが加速するだろう。

移動はコロナ前の水準に戻るとみられる。例えば、累積需要が積み上がっている旅行や外食ではコロナ前の水準を上回る可能性もある。昨年11月に日本の宿泊者数は、前年同月比7割まで回復した。だが、菅内閣が1月7日に緊急事態宣言を発令したのに次いで、旅費の35~50%を補助する「Go To トラベル・キャンペーン」の一時停止措置導入されたため、今年3月までは減少傾向が続くだろう。しかし、ワクチン接種が進むめばこのトレンドが反転し、予想以上に旅行需要が回復すると考えている(ただし、外国人旅行者が戻ってくるのは来年のいずれかの段階となる見通しであり、この点については以下を参照)。よって、新型コロナで深刻な打撃を受けた国内サービス業界の利益は、その他製造業よりも力強く回復する可能性がある。

とは言え、入国制限の緩和は段階的に行われるものと予想される。昨年秋からの感染第3波を受けて、昨年から一部地域・国に限定して緩和していたビジネス目的の入国も停止された。そのため外国人旅行客の訪日再開には予想以上に時間がかかるかもしれない。だが、ワクチン接種の進捗により、投資家は海外渡航制限の解除を見据えるようになると考える。我々は、観光業の最悪期は過ぎたとみており、この投資テーマに海外旅行関連銘柄も一部組み入れた。

サービス業は日本の雇用の大半を占めており、政府も業界支援を継続するだろう。「Go To トラベル」と「Go To イート」の両キャンペーンは一時停止されているが、ワクチンの接種ペースが加速すれば何らかの形式で支援が繰り出される公算が大きい。もう1つ重要なのは、今年の夏に東京オリンピックが開催されるか否かである。政府は今もなおオリンピック開催に意欲を示しているが、投資家は中止を見込んでいるようだ。我々の投資テーマは、オリンピックが再延期になったとしても影響は少ないが、開催の場合には支援材料になるだろう。

ワクチン供給

既に広範囲にわたり実用化されているワクチンは2種類だが、その他にも12種類のワクチンがフェーズ3の臨床試験段階にあり、50種類のワクチンが臨床試験中である。2月2日現在、各国政府が購入契約を締結済みのワクチンは75億回分、交渉中が50億回分であり、世界の人口の約65%をカバーしている。英医療調査会社エアフィニティは、各国が製薬会社と結んでいるワクチン供給体制に基づき調査した結果、主要先進国が集団免疫を獲得できるのは2021年4-6月期(第2四半期)から7-9月期(第3四半期)になると予測している。同社は、日本の集団免疫獲得の時期を2022年後半と予想しているが、日本の感染率がかなり低いことを考えると、感染拡大が今年後半にも鎮静化することもありうる。中国では集団免疫を獲得するよりも前に、ウイルスの封じ込めに成功したようだ。

ワクチン接種に対する人々の警戒感はリスク要因だが、市場調査会社イプソスによれば、ワクチンが普及したらいつ接種するかとの質問に、世界の成人の半数が3カ月以内、72%が1年以内と回答している。この調査結果は図表4の集団免疫獲得時期を早め、世界の主要地域で年末までにワクチン接種が行われることを示唆している。また、最初のワクチンが承認されてからわずか2カ月程度で(2月2日現在)、世界の人口の1.22%に相当する9,400万回分のワクチンが既に接種されている。今後数週間以内に、約1,000万回分のワクチンが配給される見込みである。

新型コロナの変異種やワクチンの副作用については不確実性が残る。だが、報道によれば、新しいワクチンは異なるウイルス株に調整が必要な場合でも数カ月以内に対応が可能であり、新型コロナの変異種にも効果的な結果をもたらすとされている。よって我々は、社会の正常化が進む中で、株価は下振れよりも上値を目指す可能性が高いとみている。

観光とエンターテインメント

昨年最も打撃が大きかったのは観光とエンターテインメント業界で、回復の道のりは容易ではない。しかし、新型コロナが収束すれば、政府による支援、累積需要、価格競争の低下を追い風に明るい見通しが描けると考える。

健康と衛生はいつでも、世界中で観光競争力を維持するのに極めて重要な役割を果たしてきた。コロナ後は、渡航先を決める上で健康と衛生の質が一段と重要な要素となっており、観光地の競争力にも影響を及ぼす可能性がある。国民の根本的な健康意識や、衛生インフラの構築には時間がかかる。そのため、このトレンドは入国制限の撤廃後の短期的な変化ではなく、長期的に影響をもたらすだろう。この点において、日本は世界で最も競争力のある目的地の1つになるとみられる。

日本は諸外国に比べて比較的新型コロナウイルスの抑制に成功している。2月2日現在、日本の感染者数は人口100万人当たり3,000人だが、欧州は26,500人、米国は78,300人である。世界経済フォーラムによると、健康と衛生面での日本の競争力は高く、2019年はこの項目で人気渡航先上位30カ国の中で8位となった。加えて、健康と衛生の項目で日本より上位につけた国よりも、日本の新型コロナの感染者数が大幅に少ないことはさらに見逃せない。

また日本は、その独自の文化遺産や自然遺産で人気の渡航先に挙げられる。豊かな自然と文化的資産、外国人観光客の受け入れ態勢、全体的なインフラ整備のおかげで、世界経済フォーラムが発表している2019年旅行・観光競争力ランキングで、日本はアジア太平洋で1位、世界でも4位となっている。

今後旅行者は、清潔で、健康的で、安全だと思われる、新型コロナウイルスを比較的上手に管理した魅力的な旅行先を優先する公算が大きい。この点で大半のアジア太平洋の国々は、新型コロナへの対処に成功しており、その他地域より感染者は少ない。アジアの人口100万人当たりの感染者数は平均2,400人と、日本と同水準である。世界に先駆けてアジア太平洋地域の観光が再開されるならば、日本はこの地域の中で主に恩恵を受ける国となるだろう。

海外旅行が再開されるまでは、国内旅行がこの業界を下支えすると考える。日本政府は当面2021年6月末まで「Go To トラベル」の延長を決めた。2020年9月末に始まったこのキャンペーンによって(正月以降は一時停止)、旅行に対する旺盛な累積需要が浮き彫りになった。日本人の合計宿泊者数は、2020年5月の-82%(前年同月比)から、2020年11月に-16%(同)に回復したにすぎない。「Go To トラベル」事業は引き続き国内旅行需要の回復を下支えするとみており、2021年下期はワクチン接種による押し上げ効果も期待できよう。

銘柄選定

日本株推奨リスト(EPL)には、観光、エンターテインメント、外食といったインターネット関連以外のサービス業を中心に、昨年アンダーパフォームした多くの銘柄が含まれている。依然として不確実性が高く、正常化の時期を正確に見極められないため、財務体質が脆弱な企業を回避するようにした。状況が見通せるようになれば、より負債比率の高い企業も検討するかもしれない。リストにある銘柄は、PERやその他バリュエーション指標の点で、過去の平均を特段下回っているわけではなく、平均より高い銘柄もある。これは将来の利益回復がまだ不透明であるためで、ワクチン接種が進み、正常化のペースが早まれば、株式バリュエーションは再評価されるものと考えている。

House View レポートの紹介


 

居林通

UBS証券株式会社 ウェルス・マネジメント本部チーフ・インベストメント・オフィス
ジャパン・エクイティリサーチ・ヘッド


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