日本経済 2021年後半にキャッチアップが見込まれる

3 度目の緊急事態宣言が発令され、経済活動が再び制限されたことから、日本の景気回復が遅れている。ワクチン接種の加速と半導体不足の緩やかな解消により、2021年後半の景気回復が期待される。

by 青木 大樹 ; 細野 光史 2021年 05月 19日
  • 3 度目の緊急事態宣言が発令され、経済活動が再び制限されたことから、日本の景気回復が遅れている。ワクチン接種の加速と半導体不足の緩やかな解消により、2021年後半の景気回復が期待される。
  • 金融政策は引き続き景気支援要因と考える。日銀はインフレ圧力が弱いことからハト派姿勢を維持するだろう。菅政権は2021年後半に補正予算の編成を検討する可能性がある。
  • 市場にとって主なリスクは、9月に実施が予想される総選挙かもしれない。菅内閣の支持率が直近急低下しているが、自民党は過半数の議席を維持すると予想する。野党の支持率は依然低い。

緊急事態宣言の発令に伴い経済活動が再び制限され、経済の正常化に遅れ

直近の 1 日当たりの新型コロナウイルス新規感染者数は、過去最多の 6 千人に近づいている。緊急事態宣言は当初 4 都府県を対象に 4 月 25 日に発令されたが、その後 9 都道府県に拡大され、期限も 5 月末まで延長された。これに加えて、10 県が緊急事態宣言に準じる「まん延防止等重点措置」の対象地域となった。この計 19 都道府県の人口および GDP は 47 都道府県全体の約 70%を占める。

人の移動は 1 月に発令された 2 度目の緊急事態宣言の時ほど大幅には減少していないが(図表 1 を参照)、第 2 四半期(4-6 月期)のサービス消費は落ち込むと引き続き考える。同宣言は 6月中旬か末まで、または少なくともワクチン接種が明らかに加速するまで、再び延長される可能性が高い。

2021 年第 1 四半期の GDP 成長率は前期比 1.3%減となったが、第 2 四半期はある程度のプラス成長を予想する。しかし、緊急事態宣言延長の可能性と 3 月の半導体大手企業の工場火災により状況が悪化した半導体不足は、生産の重石となる可能性があろう。日本の景気回復は他国に比べると遅れているが(図表 2 を参照)、2021 年後半には内需主導の着実な回復が期待できる。

ワクチン接種のペースと東京オリンピックが焦点

ワクチン接種のペースが、規制解除と 2021 年第 3 四半期の景気回復の鍵となると考える。日本のワクチン接種率は、ワクチン輸入の遅れにより 3.7%と極めて低い水準にある。しかし、足元ワクチンの供給が拡大しており、ワクチン接種は明らかに加速するとみている。政府は 5 月 24 日に東京と大阪でワクチン大規模接種センターを開設する。

菅総理大臣が 4 月に発表した 7 月末までの高齢者(人口の30%を占める)接種完了の目標はやや楽観的と考える。それでも、今後数カ月のうちに人口の 20~30%が少なくとも 1 回目の接種を終えると予想する(図表 3 を参照)。東京オリンピックは予定通り 7 月に開催されるとみている。国内観客の受け入れが認められるか否かはまだわからないが、大半はテレビでの観戦となるだろう。

インフレ低迷の中、日銀はハト派姿勢を維持

金融緩和政策はインフレ圧力が弱いことから維持されるとみている。半導体不足、輸入物価上昇、2021 年第 3 四半期のサービス消費反発の可能性などを踏まえても、日本の物価(消費者物価)上昇率は極めて低い水準にとどまるだろう。インフレ圧力が弱いことから、日銀は現行の金融緩和政策を長期にわたり維持すると考える。

しかしながら、企業部門では一定のインフレ圧力が引き続き見られる。4 月の企業物価指数(CGPI)または生産者物価指数(PPI)は前年比で 3.6%上昇した。これは 2008 年 10 月以来の高い伸び率である。一方、輸入物価指数は前年比で 13.9%上昇し、 2011 年 11 月以来の高い上昇率となった。

企業部門の物価指数はこのように急上昇したが、日本企業は投入価格の上昇を産出価格に転嫁する傾向が見られないことから、消費者物価への上昇圧力は限られるだろう。企業物価指数(CGPI)と消費者物価指数(CPI)の間の相関は米国に比べると低い(図表 4 を参照)。また、4 月発表の日銀短観では、企業の 1 年後の物価見通しが依然として非常に弱いことが示されたが、これは日本企業が一時的な物価上昇に対応しないことを意味すると考える。我々はインフレ率の健全な反発を引き続き予想するが、コア CPI の前年比上昇率は、3 月の-0.1%から年末には+0.4%まで上昇するに留まるだろう。

政治が市場のリスク要因となるかもしれない

市場にとって主なリスクは、9 月に実施が予想される衆議院総選挙と考える。最近実施されたメディアの世論調査によると、菅内閣の支持率は 4 月の 44%から危険水域である 35%まで急低下した。2000 年以降、支持率が 35%を下回る内閣は政権を維持することが困難となっていた(図表 5 を参照)。

それでもなお、与党自民党の支持率は高く、野党第 1 党の立憲民主党の支持率は極めて低い(図表 6 を参照)。そのため、自民党は次の総選挙で過半数の議席を維持することができ、菅総理大臣が党総裁選を経て、首相の職を継続するものと考える。現在、自民党は 465 議席中、278 議席(59.8%)を維持しているが、48 議席(現議席の 17%)を失うと過半数を下回ることとなる。

ただし、菅内閣の支持率がさらに低下すると、自民党は総選挙で過半数割れとなり、菅総理は首相の座を失うリスクが高まると考える。9 月が近づく中での景気回復、ワクチン接種率の上昇、東京オリンピック開催についての最終決定は、いずれも今後数カ月の支持率に影響を及ぼすであろう。

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青木大樹

UBS証券株式会社 ウェルス・マネジメント本部
チーフ・インベストメント・オフィス
日本地域最高投資責任者(CIO) 兼日本経済担当チーフエコノミスト


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