日本経済 2021 年は「デジタル化元年」に

日本のデジタル化は、これまで欧米に比べて大きく立ち遅れていた。人々の行動や日本企業の雇用文化、そして政府の政策スタンスにみられる「慣性」、すなわち既存の社会構造や慣行から脱却できない状況が、デジタル変革を阻害してきた要因として挙げられる。しかしながら、新型コロナウイルスの感染拡大や深刻な労働力不足、政府の経済政策の転換等を背景に、2021年は日本の「デジタル化元年」になりそうだ。来年度のソフトウェア投資額は、前年比で約15%増を予想する。

by 青木大樹、細野光史 2020年 12月 02日
  • 日本のデジタル化は、これまで欧米に比べて大きく立ち遅れていた。人々の行動や日本企業の雇用文化、そして政府の政策スタンスにみられる「慣性」、すなわち既存の社会構造や慣行から脱却できない状況が、デジタル変革を阻害してきた要因として挙げられる。
  • しかしながら、新型コロナウイルスの感染拡大や深刻な労働力不足、政府の経済政策の転換等を背景に、2021年は日本の「デジタル化元年」になりそうだ。来年度のソフトウェア投資額は、前年比で約15%増を予想する。
  • 日本企業の2021年度(2022年3月期)の当期利益を我々は40%増と予想する中、デジタル化の進展は2021年の日本株式への投資機会を提供する1つの分野になると見ている。

日本の経済成長率は、新型コロナの感染拡大により2020年4-6月期(第2四半期)には大きく落ち込んだが(前四半期比マイナス8.2%)、第3四半期には堅調に回復した(前四半期比+5.0%)。鉱工業生産指数や機械受注など、設備投資の先行指標に大幅な回復基調が見られ、世界貿易も上向きつつあることから、設備投資の伸びは、2020年第4四半期から2021年第1四半期にかけて、プラスに転じると思われる。景気回復による設備投資の改善に加えて、2021年は企業投資の構造的変化も焦点になると考える。今後、日本のデジタル化投資は、大きく次の3つの要因により、構造的成長が下支えられると考える。

まず、コロナ後のニューノーマル(新常態)が、2021年に企業のデジタル化投資を加速するだろう。2021年から2022年にかけてワクチンが一般に普及すると予想され、これにより経済の正常化、さらには設備投資の回復が後押しされると予想する。

一方で、人々のライフスタイルや働き方、飲食の方法などに多くの変化が継続するみられる。高齢者を含めて、買い物や学習、コンサート、飲食の注文にいたるまでオンラインサービスを利用する人が増えている。また、リモートワークの効率化に向けて企業内でも変革が進んでいる。このような日本における行動や価値観の構造的変化が、2021年にデジタル化に向けた企業投資を加速させるだろう。

第2に、人手不足が深刻化する中、労働生産性を向上させるための取り組みとして、いよいよデジタル化をはじめとする設備投資の拡大が今後進むとみられる。日本の労働者1人当たりのIT投資の伸びは、依然として主要国の中で最低であり、伸び余地が大きい。今後、女性の労働参加率や外国人労働者数の更なる増加に頼ることができない現状においては、深刻化する労働力不足に対応するため、生産性向上に資する設備投資等の取り組みが加速すると考えられる。

日銀の9月短観によると、企業は、新型コロナの世界的感染拡大の中でも労働力不足に直面しており、2020年度のソフトウェアを除く設備投資計画が急減したにもかかわらず、ソフトウェア投資計画については前年比プラスを維持している。ソフトウェア投資額は2019年度の前年比10.3%増、2020年度の約10%増から、2021年度には約15%増に上昇すると予想する。

最後に、政府の強い支援が、企業のデジタル化への取り組みにおいて最も重要な要素になるだろう。デジタル化は、菅政権の2021年度の最重要課題の1つである。2021年、自民党の総裁選が9月に予定され、10月には衆議院選挙が実施されると見られる中、菅首相にはデジタル化を通じた設備投資と民間消費を加速させることで経済成長を促したいという強い動機がある。

具体的に、政府は司令塔となる「デジタル庁」を創設して日本のデジタル化をけん引する考えだ。デジタル庁は、民間企業が利用できるデジタルサービスの基盤を提供し、官民サービスのデジタル化を推し進める。また政府は、2021年度の税制改革案に民間のデジタル化投資を対象にした優遇税制措置を盛り込み、追加予算と通常予算には関連の補助金が計上される見通しだ。どちらも12月中に発表されると見込まれている。

政府のグリーン政策もデジタル化技術を推進するだろう。2050年までにカーボンニュートラルを実現するという新たな目標を実現するためには、イノベーションが関連投資を拡大させる鍵を握るだろう。我々は、再生可能エネルギーの活用や自動運転、サービスや製造業のロボット導入等にとって、デジタル化技術が必要不可欠になると考える。政府は新たな経済成長戦略で、グリーン政策とデジタル化が日本の将来的な成長の両輪になると強調している。

これまでは既存の社会構造や慣習から脱却できない日本の「慣性」が、日本のデジタル化を阻んできた。それは1)人々の行動(高齢者は一般的にデジタルサービスの利用に消極的)、2)企業の雇用文化(ソフトウェア投資を拡大するよりも、女性、高齢者、外国人の労働力に依存)、3)政府の政策スタンス(デジタル化に向けた成長戦略の優先順位が低い)によって生じたものである。しかしながら、新型コロナや深刻な労働力不足、アベノミクス以降の政府の経済政策の構造的変化によって、2021年は日本の「デジタル化元年」になりそうだ。日本企業の2021年度(2022年3月期)の当期利益は40%増と予想する中、デジタル化の進展は、2021年の日本株式への投資機会を提供する1つの分野になると見ている。

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青木大樹

UBS証券株式会社 ウェルス・マネジメント本部
チーフ・インベストメント・オフィス
日本地域最高投資責任者(CIO) 兼日本経済担当チーフエコノミスト


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