日本経済 日銀、追加緩和で企業下支え

日銀は27日、金融政策決定会合を開き、大方の予想通り、追加の金融緩和策を決定した。主な変更点は、1)国債の無制限買い入れ、2)コマーシャルペーパー(CP)と社債買い入れの増額、3)新型コロナ対応金融支援特別オペの拡充、の3点である。CP・社債等の買い入れ枠拡大によりクレジット市場は下支えられるだろう。また、新型コロナ対応金融支援特別オペの利用残高に相当する当座預金へのプラス金利の付利は、民間金融機関の収益改善を後押しするだろう。

by 青木大樹、細野光史 2020年 4月 28日
  • 日銀は27日、金融政策決定会合を開き、大方の予想通り、追加の金融緩和策を決定した。主な変更点は、1)国債の無制限買い入れ、2)コマーシャルペーパー(CP)と社債買い入れの増額、3)新型コロナ対応金融支援特別オペの拡充、の3点である。
  • CP・社債等の買い入れ枠拡大によりクレジット市場は下支えられるだろう。また、新型コロナ対応金融支援特別オペの利用残高に相当する当座預金へのプラス金利の付利は、民間金融機関の収益改善を後押しするだろう。だが為替市場への影響は限定的とみられる。
  • 同時に発表した経済・物価情勢の展望では、2021年度と2022年度の物価見通しを依然として比較的楽観的に予想しているため、年後半に下方修正される可能性が高い。よって、日銀は、当面、金融緩和政策を続けざるを得ないだろう。

日銀は27日、金融政策決定会合を開き、大方の予想通り、追加の金融緩和策を決定した。主な変更点は、1)国債の買い入れ額を無制限とし、従来の80兆円の年間買い入れ額を撤廃、2)CPと社債の買い入れ枠を、3月に発表した7.4兆円から9月末まで20兆円に拡大するとともに、発行体ごとの買い入れ限度額を緩和し、買い入れ対象とする社債の残存期間も延長、3)新型コロナ対応金融支援特別オペの対象担保範囲を従来の8兆円から23兆円へと拡大し、利用残高に相当する当座預金にプラス金利を付利する、の3点である。短期金利を-0.1%、10年国債金利を0%程度で維持する現状の長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)は、予想通り据え置くことを決定した。

同時に発表した経済・物価情勢の展望では、国内総生産(GDP)と生鮮食品を除く消費者物価指数(コアCPI)の2020年度予想を大幅に引き下げたが、2021年度と2022年度の見通しは我々の予想と比べて依然として楽観的である(図表2参照)。

CPと社債の買い入れ枠の拡大は、クレジット市場をある程度下支えする効果が見込めるだろう。また、新型コロナ対応金融支援特別オペの利用残高に相当する当座預金へのプラス金利の付利は、民間金融機関の収益改善を後押しするだろう。だが、国債購入上限の撤廃が、実際の買い入れペースの加速と必ずしも同義ではないことを為替市場は理解しているため、ドル円への影響は限定的とみられる。また、国債買い入れ額が多少増加したとしても、イールドカーブ・コントロールを行っている為、国債利回りを低下させるわけではない。

我々は、今回の日銀の政策決定による市場への影響を、以下のようにみている。

  1. 国債購入の上限撤廃で、実際の買い入れペースが急激に早まることはない。現状の上限は年間約80兆円だが、足元の日銀の国債購入ペースは年間15~20兆円で推移している(図表3参照)。政府の大型緊急経済対策の財源として追加発行される国債は25兆円にすぎず(図表4参照)、日銀が国債を大幅に買い増さなくても市場で十分に消化できる。政策決定会合後の記者会見で黒田東彦総裁は、政府の大型経済対策で国債が増発されることを踏まえ、長期金利の上昇をけん制するために、日銀は買い入れ上限を設けずに必要な額を購入する、と表明した。
  2. CPと社債の買い入れ枠の増加は、クレジット市場を下支えするとみられる。新たな購入限度額に基づく日銀の市場シェアは、CPが現在の15%から約45%に、社債は現在の4%から約10%に上昇する(図表5参照)。だが、日本は直接金融よりも間接金融の割合が高く、日本全体のクレジット市場に与える追加的な影響は限定的だろう。日本のCPと社債の発行残高は約120兆円だが、民間金融機関の貸出残高は約400兆円に上る。
  3. 新型コロナ対応金融支援特別オペの拡充自体の影響は限定的とみられるが、対象金融機関を広げ、借入残高に相当する当座預金に+0.1%の金利を付利し、対象適格担保範囲を家計債務を含めた民間債務全般に広げた。これにより、民間金融機関が参加しやすくなるうえ、銀行の収益にもプラスになるだろう。黒田総裁は、新型コロナ特別オペの拡充にあたり、緊急経済対策を打ち出した政府と協調して中小企業の支援を行う姿勢を強調した。

日銀の追加金融緩和シナリオ

日銀が同時に発表した経済・物価情勢の展望では、2021年度と2022年度についての景気見通しを比較的楽観視しているため、年後半に下方修正される可能性が高い。我々は、現時点では追加緩和を予想していないが、日銀は、当面、金融緩和政策を続けざるを得ないとみている。

仮に景気が一段と悪化した場合でも、日銀はまだ追加緩和策を講じる余地がある。4月の日銀短観によると、大企業製造業が2020年の事業計画の前提とする想定為替レートは1ドル=108円であり、急激な円高に進む場合には追加金融緩和に踏み切る公算が大きい。その場合の手段としては、上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(REIT)、CP、社債といったリスク資産を買い増す可能性が最も高い。3月に日銀がETF購入額を倍増した際には、株式市場にある程度の下支え効果が働いた模様だ(図表6参照)。

だが、政府が国債の大量増発を決定するか(麻生財務大臣の政策スタンスを踏まえると考えにくい)、日銀が金利の深掘りに踏み切らない限り、国債買い入れペースを大幅に拡大することは難しいだろう。円が急騰するような場面があれば金利を深掘りする可能性はあるが、民間金融機関からの激しい反発が予想されるため、日銀にとって難しい判断になるとみられる。

金融機関の貸出態度が鍵を握る

全国的なソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)の実施による需要の急減で、政治的な注目は企業の信用リスクに向けられている。無秩序な企業のデフォルト(債務不履行)を回避するには、民間金融機関の貸出態度が重要になる。4月の日銀短観では、企業の貸出態度判断(DI)は引き続き非常に緩和的で(図表7参照)、今回の日銀の追加金融緩和も銀行貸出を一段と後押しするとみられる。銀行貸出態度判断DIが今後厳格化方向へ推移した場合は、将来的な追加金融緩和の引き金になりうると考える。

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青木大樹

UBS証券株式会社 ウェルス・マネジメント本部
チーフ・インベストメント・オフィス
日本地域最高投資責任者(CIO) 兼日本経済担当チーフエコノミスト


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