• 日経平均株価は3月13日に17,431円をつけ、1週間で16%の急落、年初来で26%下落した。ボラティリティ(相場の変動率)は2008年の世界金融危機時に匹敵する。
  • TOPIXの株価資産倍率(PBR)は0.83倍と、世界金融危機時の0.8倍に近づいており、投資家がリーマンショック級の大暴落を織り込んでいることを表している。だが、各国中銀の緩和策や政府による財政支援効果から、懸念される大暴落は回避できると考える。
  • 信用危機は潜在的なリスクだが、追加金融緩和策によりその可能性は低く、黒田総裁も流動性を潤沢に供給すると述べている。

3月2日付けの日本株式レポート「押し目買いに備える:下値は限定的」をリリースした時点では、日経平均株価は21,344円で取引されていた。しかし、それから2週間足らずの3月13日に同指数は17,431円をつけ、1週間で16%の急落、年初来で26%下落した。ボラティリティは2008年の世界金融危機時に匹敵する。今回の相場下落の原因は、新型コロナウイルスの感染拡大と、それが観光業をはじめ広く経済に与える影響が懸念されたからである。

3月13日現在、月初来の下落率は17.6%と過去20年で2番目の下げ幅を記録した(図表1参照)。過去のバリュエーションと今後政府や中央銀行からの支援が拡充されるとの見通しを踏まえると、市場は売られすぎだと考える。

我々は3つの要因から、日本株式はここから上昇基調をたどると考える。1つ目は、徹底した封じ込め策に踏み切る国が増えていることから、感染拡大はいずれ収束に向かうと予想されることだ(図表2参照)。個人の移動制限が発動された結果、まず中国で、続いて韓国もここ2週間で新規の感染者数が減少傾向を示している。中国の事例は、こうした感染拡大防止策が一定の効果を発揮したことを示している。日本では検査数が増えれば新たな感染者数が増える可能性もあるが、同様の感染拡大防止策が実施されているため、今後2カ月間で感染者数は減少し始めるだろう。

2つ目に、株価が急落したため、今後は売り圧力よりも買い圧力が高まる公算が大きい。2019年下期に6兆円を買い越した海外投資家は、今年に入り日本株式を4兆円近く売却し、最大の売り手となっている。大半の海外投資家はここ5~6週間で大部分のポジションを解消した。一方、日銀は過去4週間で1兆円相当のETFを買い越し、さらに、3月16日に前倒しした金融政策決定会合で、ETFの買い入れ額を現行の年間6兆円から12兆円に倍増することを決定した。また世界最大の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も株価急落を受けて日本株式を再度買い進めるものとみられる。

3つ目に、バリュエーションで見た足元の株価は適正価格を大きく下回っている。過去の株価純資産倍率(PBR)と比較すると(図表3参照)、現在のPBRは2011年の東日本大震災後の水準を下回っている。過去の事例を見てみると、ここまでバリュエーションが下がると、状況がいったん改善し始めれば安心感から反発に転じている。

TOPIXのPBRは0.83倍と、過去20年で最低水準である世界金融危機時の0.8倍に近づいており、投資家がリーマンショック級の大暴落を織り込んでいることを表している。だが、各国中銀の緩和策や政府による財政支援効果から、懸念される大暴落は回避できると考える。また、企業の手元資金は厚く(資産の平均13%が現金および現金同等物)、負債比率も低いため(負債資本倍率は過去最低水準の1.3倍と、米国の1.8倍や欧州の1.7倍を下回る)ことから、日本企業のバランスシートは健全で、景気後退を十分切り抜けられるとみている。この相場下落を自社株買いの好機と捉えることができる優良企業は、新型コロナによる混乱を乗り越えられる有利な立場にあると考える。

リスク要因

東京オリンピックは重要なリスクの1つである。新型コロナの感染拡大が数週間以内に収束しなければ、今年夏に予定されている開催が1年または2年延期される可能性がある。東京オリンピックの景気押し上げ効果が最も際立つのは開催年であるため、延期となれば2020年の企業業績の下押しにつながる可能性が高い。

今回の感染拡大により、対面販売からオンラインショッピングへと消費者行動がシフトしており、この傾向は定着するだろう。これは、オンラインで存在感が小さいブランドにとっては下押し圧力となり、オンライン売上が高い企業にはプラス材料になる。旅行業界も打撃を受けており、訪日客の減少が当面続く可能性がある。しかし、状況が改善すれば業績回復も可能である。2011年の東日本大震災後に安倍政権はビザ発給要件を緩和しており、訪日客は3倍に増加している。

もう1つのリスクは信用危機だが、追加金融緩和によりその可能性は低く、黒田総裁も流動性を潤沢に供給すると述べている。我々は、金融機関が貸出態度を引き締めるかどうかを判断するうえで、クレジット市場を注視している。信用リスクの評価には、米国ハイイールド債のスプレッドが目安になると考える。

投資戦略

コロナの感染拡大が年末までに概ね収束し、それまでに市場が回復するという我々の見方に基づき(図表4参照)、次の戦略を提案する。1つ目は、調整局面を利用して、質の高い日本企業を割安価格で買うことである。2つ目は、今年の水準が低いことによるベース効果や事業再編、技術的な優位性等から利益を大きく伸ばすと期待される企業を選別する。当面はボラティリティが高い状況が続く可能性が高く投資家もその点に留意が必要である。

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居林通

UBS証券株式会社 ウェルス・マネジメント本部チーフ・インベストメント・オフィス
ジャパン・エクイティリサーチ・ヘッド


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