ドル円は過去2日間で111.7円まで上昇した。円の対ドルでの1.7%の下落と貿易加重ベースで1%を超える下落は、同通貨が国内外で直面している多くの逆風を反映していると考える。

第一に、日本経済は短期的に景気後退リスクが高まっている。2019年10-12月期(第4四半期)のGDP成長率は前年同期比-0.4%と若干のマイナス成長を記録したが、2020年第1四半期は同-1.3%と予想する。主な要因は長引く消費増税の影響および新型コロナウイルス(COVID-19)の集団感染である。事実、コア機械受注(工作機械受注を含む)から鉱工業生産、マンション販売戸数まで経済データの直近の実績は市場予想を下回っている。一方、両要因(消費増税とCOVID-19)の影響が一時的なものであるため、日本経済は年後半に回復すると予想する。

第二に、米国経済は比較的力強い成長を示すことが期待されるなか、投資家が米国で利回りを追求するため、米ドルが一定の強さを見せている。直近の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨によると、米連邦準備理事会(FRB)は政策金利を据え置くことを示唆しており、最近発表されたマクロ経済データは同中央銀行の予想と概ね整合的なものとなっている。また、FOMCは貿易対立の緊張の緩和については楽観的な見方をしているようである。これとは対照的に、他の中央銀行、特にアジアの中央銀行はCOVID-19の景気への悪影響を和らげるために金融緩和を強め始めている。

景気(あるいは景気へのリスク)への評価のかい離と、それに伴う中央銀行のメッセージの差異により、ドル円はごく短期的には上昇傾向を辿り、112.50円を上抜ける可能性も否定できない。2020年第1四半期の日本の景気見通しが振るわないことを踏まえると、円は日銀がハト派姿勢を強める可能性を織り込もうとしているようだ。

また日本では利回りがほとんど得られないことから、通貨への投資で経済活動の低迷を無視することができなくなっている。最近はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)だけではなく、他の年金基金や投資家も一定の利回りを獲得するために外国債券への投資を追求している。しかし、こうした動きはコントラリアン(逆張り)の性質があるため、円が上昇する際に外債を購入する傾向にある。したがって、円が弱い間はヘッジなしで外債を積極的に購入することはしない。最後に、米国株式のバリュエーションは日本株式に比べるとかなり高く、日本からの米国株式への投資は限定的だろう。よって、ドル円の上昇余地は限られると考える。ドル円は我々の予想に対して上昇リスクが高まったが、6月末の108円の予想は維持することとする。ドル円低下の見通しはCOVID-19が2020年第1四半期に封じ込められるという我々の予想を踏まえている。第2四半期以降、アジアの景気が反発し、年後半に人民元など景気感応度の高いアジア通貨の回復局面が到来すると考える。

我々の円高見通しに対する主なリスクは、COVID-19の集団感染が予想よりも長く第2四半期または第3〜4四半期まで続き、円の循環的な反発が見られないことである。

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