普及・拡大が期待される日本のデジタル決済
  • 日本のデジタル決済は、デジタル決済企業がアーリーアダプター(いち早くキャッシュレス決済を活用し始めたユーザー)向けに提供している様々な特典の効果もあり、その普及・拡大に弾みがついている。
  • 日本政府は2019年10月から、キャッシュレス決済を行った場合に支払額の5%を還元する「デジタル・ポイント」還元制度を導入する。これが日本のキャッシュレス社会化を大きく推進すると見られる。
  • 我々はグローバル資産配分で、日本株式をオーバーウェイトにしている。年末に向けて相場が回復するにつれて、キャッシュレス決済関連銘柄に買いが集まるものと予想する。

我々の見解

日本のデジタル決済(QRコードやバーコードを読み込むことで行われる決済)は、デジタル決済企業がアーリーアダプター(いち早くキャッシュレス決済を活用しているユーザー)向けに提供している様々な特典の効果もあり、普及拡大に弾みがついている。たとえば携帯アプリとインターネットサービス企業のLINEが提供する「LINEペイ」の2019年4-6月期(第2四半期)の国内デジタル決済高は、前年比で約220%拡大した。LINEペイの月間アクティブユーザー数(MAU)も、2018年6月の264万人から2019年6月には740万人へと急増している。

デジタル決済のプラットフォーマー(決済に利用するソフトウェアやアプリケーションなどの基盤を提供する企業)が直面している大きな課題は、新規デジタル決済ユーザーを獲得するための販売促進費が急増していることだ。上記LINEの戦略事業(LINEペイ事業)が、2019年第2四半期までに計上した営業損失は384億円に上り、その他事業(オンライン広告事業)の営業利益168億円を侵食した。LINEは今年度LINEペイの増強を含めた戦略事業に、700億円を超える販売促進費を投じる計画である。

日本政府が今年10月から導入するキャッシュレス決済促進事業は、消費者行動に大きな変化をもたらすと予想される。現在、デジタル決済ユーザーの多くはアーリーアダプターか、大部分の商品をオンラインで購入するインターネットのヘビーユーザーである。だが政府は、消費税が8%から10%に引き上げられる2019年10月から、キャッシュレス決済を利用した消費者を対象に、支払額の5%を還元する制度を導入する。つまり消費者はキャッシュレス決済を選択することで、消費増税に伴う2パーセント・ポイントの上昇を回避できるだけでなく、3パーセント分もポイント還元を受けることができるのだ。この5%のポイント還元制度は2019年10月から2020年6月までの時限措置だが、この制度により日常の決済にデジタル決済を利用し始める人が増えると見込む。

加えて、今後2年間でデジタル決済の普及が一層進むと予想する背景として、大きく次の2つの理由もあると考える。第1に、オンラインショッピングの拡大余地が大きいことだ。経済産業省の最新の調査によれば、全商取引に占めるオンラインショッピングの割合は6.2%に過ぎない(ただし2年前からは3%伸びた)。だが、オンラインショッピングがさらに拡大すれば、デジタル決済を利用する消費者も増加するだろう。多くのオンライン取引プラットフォーマーが、デジタル決済に利用できるデジタル・ポイン トを発行する中、オンラインショッピングが一層浸透すれば、デジタル決済を利用する機会の増加につながる。

第2に、今後ますます現金決済が難しくなることだ。近年の日銀によるマイナス金利政策を受けて、銀行の貸出利ざやは圧縮されており、銀行は支店やATMの削減を進めている。現在、日本には12万台ほどのATMが設置されているが、金融機関においてATMの多くは採算が確保されていないため、今後5年間で10~20%減少すると予想する。現金の引き出しが容易なATMの数と、デジタル決済の利用件数は相互依存関係にあると考える。したがって、ATMの設置台数が減少すればデジタル決済利用者数の増加を促し、デジタル決済の利用増がさらにATM台数の削減につながるだろう。日本におけるデジタル決済の普及・拡大は不可避だと我々が考える主な理由として、このような循環的な効果が期待される点も挙げられる。

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