日銀、米利下げも「様子見」
  • 日銀は30日の金融政策決定会合で、金融緩和策の現状維持を決めた。経済・物価情勢の展望(展望リポート)では、国内総生産(GDP)成長率予測と消費者物価指数(CPI)の上昇率予測を引き下げた。
  • 黒田総裁は物価安定の目標に向けたモメンタム(勢い)は失速していないと強調した。日銀は物価の基調的な変動を見極める指標として、需給ギャップと予想インフレ率を重視している。
  • 我々は、景気後退の明らかな兆しが見えるまでは日銀は追加緩和に踏み切らないとみており、景気対策としては追加補正予算の方が可能性が高いと考える。

日銀は7月30日の金融政策決定会合で、先行き指針(フォワード・ガイダンス)を含め、金融政策の現状維持を決めた。エコノミストの3割が政策金利のフォワード・ガイダンスの想定期間延長を予想していた。ただし、日銀は、世界経済の下振れリスクの高まりを受けて、「特に海外経済の動向を中心に、経済・物価の下振れリスクが大きいもとで、先行き物価安定の目標に向けたモメンタムが損なわれる恐れが高まる場合には、ちゅうちょなく追加的な金融緩和措置を講じる」との一文を公表文に付け加えた。また経済・物価情勢の展望(展望リポート)では、生鮮食品を除く消費者物価指数(コアCPI)の2019年度と2020年度の上昇率予測と、実質国内総生産(GDP)の2019年度と2021年度の成長率予測を引き下げた(図表1参照)。これを受けて30日午後の為替市場では、日本円が米ドルに対してその日の安値108.95から108.60へとやや上昇して引けた。

黒田総裁は金融政策決定会合後の記者会見で、今回の公表文には日銀の政策変更に必要な条件を明記したと述べた。また物価安定目標に向けたモメンタム(勢い)が損なわれる恐れが高まる場合には、ちゅうちょなく追加的な金融緩和を講じることも強調した。日銀は物価の基調的な変動を見極める指標として、需給ギャップおよび企業や家計の予想インフレ率を重視していく。10月の消費増税後の景気動向と、2019年下期の市場情勢を占う日銀短観が、追加緩和に踏み切るかどうかの判断において重要になると我々はみている。

追加緩和の可能性

エコノミストを対象にした今回の調査で、年内の追加金融緩和予想は(フォワード・ガイダンスの想定期間の延長を含む)53%と、6月末時点の36%から上昇した(図表2参照)。しかし、我々は、景気後退の明らかな兆しが見えるまで日銀は政策変更を行わないとみている。過去にアベノミクスの下で日銀が追加金融緩和に踏み切った局面では、需給ギャップはいずれもマイナスだったが、現在は大幅なプラスが続いている(図表3参照)。足元の為替相場は大企業製造業が事業計画の前提とする想定為替レート(1ドル=109.3円)よりやや円高だが、ドル円も比較的安定している。

さらに最近の短観では製造業のセンチメントが急速に悪化しているが、非製造業のセンチメントは比較的底堅い(図表4参照)。安倍首相は6月10日の参院決算委員会で、日銀は雇用の観点ではすでに目標を達成していると述べ、当面日銀による追加緩和は必要ないとの考えを示唆した。我々は追加緩和が実施されるとは予想していないが、2019年下期に日銀がイールドカーブ・コントロールのフォワード・ガイダンスを変更し、想定期間を(現在の2020年春頃から2020年末に)延期したり、2%の物価目標が持続的に達成できるまでインフレ率と連動させたりするなど、現行の金融政策の一部を調整するリスクは残されていると考えている。

我々の見方

下振れリスクが高まった場合に追加緩和を行う可能性

我々は日銀が近い将来に追加緩和に踏み切るとは予想していない。しかしながら、仮に急激に円高が進むか、その他の経済指標が景気後退リスクを示唆すれば、金融機関の収益圧迫の副作用を緩和するために、10年国債金利の誘導目標をゼロ%程度で維持しつ、短期金利を足元の-0.1から-0.3%へと引き下げる可能性がある。

しかし、このような事態に陥ったとしても、日銀が現在の国債買い入れ額と10年国債金利の誘導目標を維持することでイールドカーブを効果的にコントロールできる限り、国債やその他の資産の買い入れ額を増やす必要はないとみる。日銀はすでに国債の年間買い入れ増加ペースを、2016年ピーク時の80兆円から2018年には38兆円へと減らしている。国債買い入れ規模は、今後2019年末までに25-30兆円、2020年末までに15-20兆円へと、より緩やかなペースで縮小し、10年国債金利はゼロ%を若干上回る水準に上昇すると予想する(図表5参照)。

下振れリスクが高まった場合の日銀による政策オプション

下振れリスクが高まった場合にも、日銀にはまだ複数の政策手段が残されている。我々は、上述の通り、「オプション1」と「オプション2」(以下参照)の組み合わせが可能性として高いとみる。イールドカーブ・コントロールの副作用が金融機関にもたらす悪影響を緩和するために、日銀が銀行業株価指数連動型上場投資信託(ETF)や銀行債を買い入れる「オプション7」を選択することは想定しづらい。またイールドカーブ・コントロールが機能している限り、日銀が国債買い入れ額を増額するという「オプション8」の可能性も低い。

オプション1:イールドカーブ・コントロールのフォワード・ガイダンスを強化(期間の延長または実際のインフレ率に連動)-比較的可能性が高い

オプション2:10年国債金利の誘導目標をゼロ%程度に維持しつつ、政策金利を一段と引き下げる-比較的可能性が高い

オプション3:マイナス金利を適用する超過準備残高を引き上げ-可能性は中程度

オプション4:足元のゼロ%程度の誘導目標は維持しつつ、現在許容している変動幅(+/-0.2%)に対して、実際に10年国債金利がさらに低下することを許容-可能性は中程度

オプション5:10年国債金利の誘導目標をゼロ%以下に引き下げ-可能性は低い

オプション6:ETFや社債の買い入れペースを加速-可能性は低い

オプション7:金融機関の収益性を下支えするために、銀行業株価指数連動型ETFまたは銀行債を買い入れ-可能性は低い

オプション8:国債買い入れ目標額を引き上げて量的金融緩和(QE)を強化-可能性は低い

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