今週の要点

景気回復で株式に一段の上振れ余地

S&P 500種株価指数は先週、一時反落し、5月4日の日中の下落率が最大1.5%に達した。イエレン財務長官が金利上昇もやむを得ないと発言したことが売り要因となった。一方、前日3日に発表されたISM製造業購買担当者景気指数は、2つの面で市場の失望要因となった。成長モメンタムの失速と、インフレ圧力の上昇だ。こうしたことから今後市場のボラティリティが高まることが予想されるが、その一方で、経済および政策の見通しは引き続きリスク資産を下支えしている。金融政策については、イエレン財務長官がその後、先日の発言について、利上げを予想したわけでも推奨したわけでもないと説明し、金融政策の決定を下すのは米連邦準備理事会(FRB)であると述べた。またFRB高官は、金融緩和を後退させる議論が出ていないことをあらためて強調した。4月の非農業部門雇用者数は前月比266,000人増と、市場予想(100万人程度)を大きく下回ったため、テーパリング(量的緩和の縮小)への圧力が緩和した。この雇用者数の数字は、好調な経済の中で労働力が不足していることを示唆しているとみている。こうした状況から、経済成長が加速する中においても景気刺激策は今後も継続されるものと我々は予想しており、シクリカル(景気敏感)セクターを中心にリスク資産の追い風となるだろう。S&P500と世界株式は、週の半ばに一時反落したものの、共に史上最高値で週を終えた。

要点:世界経済の回復が広がる中、金融やエネルギーなど、バリュー株及びシクリカル・セクターの上振れ余地が最も大きいとみる。低金利が続いていることから、利回りを追求する動きが強まるだろう。

パンデミックは一部悪化するも、経済は徐々に再開

先週はパンデミック関連で2つの懸念材料が生じた。ひとつはインドで新型コロナの新規感染者数が過去最多を記録したこと、もうひとつは2回のワクチン接種を終えた人がウイルスに感染したという報道だ。ワクチン接種後に罹患する「ブレイクスルー感染」が確認されたことで、変異株に対するワクチンの有効性への不安が浮上しているが、我々はそうした懸念は行き過ぎであると考えている。第1に、どのようなワクチンでも予防効果は100%ではないため、ワクチンが効かない症例は予想されることである。インドの感染状況は深刻ではあるが、インド医療研究協議会によると、2回のワクチン接種を終了した人の陽性率は0.05%未満であると報告されている。第2に、ワクチン開発企業のデータによると、ワクチンは変異株に対しても有効であり、微調整することで有効性を高めることも可能であるという。最後に、ジョンズホプキンズ大学のデータによると、前週比の感染者数は減少に向かっており、世界の感染拡大の波がピークを迎えつつある兆しが表れている。ブラジル、トルコ、イタリアなどの国々では、新規感染者の増加曲線が緩やかになりつつある。このため、新型コロナウイルスをめぐる国別の状況は、ボラティリティ(相場の変動)を増大させる要因とはなるものの、株式の強気相場の幕切れにはつながらないと予想している。

要点:コロナ感染状況の悪化がリスク資産のボラティリティを高める状況はしばらく続く可能性がある。こうした一時的に不透明感が高い局面においては、中長期的な観点からエクスポージャーを構築することを勧める。

「セル・イン・メイ(5月に売り逃げ)」は勧めず

世界株式は年初来9.9%上昇し、史上最高値をつけている。こうした状況下、市場の格言に従い、「5月に売り逃げ」したくなる投資家もいるだろう。歴史を振り返ると、この格言を裏付ける例が散見される。例えば欧州では、6月の株式市場リターンがマイナスとなった年の割合は過去15年間で80%に上る。しかし我々は、分散して投資を続ける方が得策であると考える。まず、5月の売り戦略はすべての市場や期間に当てはまるものではない。米国市場では近年、投資を継続する手法が5月に売る戦略をアウトパフォームしてきた。また、中国株は2017年と2020年の両年において5月から10月にかけて20%以上上昇したのに対し、ユーロ圏株式は2013年の同期間に10%上昇した。景気回復と企業収益の伸びが急激に加速していることから、今年は特に「セル・イン・メイ」戦略の効果が薄れる可能性がある。最後に、市場への参入のタイミングを見極めるのは困難である。5月に売って、その後に買い戻すということは精神的に難しく、特にその間に市場が上昇した場合はなおさらだ。しかも、足元の環境下では、長期の現金保有は高くつく。

要点:ボラティリティの上昇に備えつつ、投資を継続し、投資先を分散し、資産計画を管理することを勧める。

深読み

「セル・イン・メイ」よりも投資継続

株式市場は2020年3月の底値から大幅に回復した。S&P500種株価指数は24営業日で34%下落し、過去最速で弱気相場入りした後、2020年の最安値から88%上昇し、今や史上最高値水準の4,200台で取引されている。

5月を迎えた今、過去の例から見て、1年のうちで株価が上昇しにくいとされる時期に突入した。主要株価指数が続々と最高値を更新し、センチメントの指標に過熱感が見られ、新型コロナウイルスの変異株をめぐる懸念が広がる中、「5月に売り逃げろ」の格言に従いたくなる投資家もいるだろう。

5月の売りは、5月から10月にかけて株価が低迷しやすいことを前提としている。歴史を振り返ると、この相場格言を裏付ける例が見受けられる。例えば、欧州では過去15年間の80%において、6月のリターンがマイナスだった。このため、5月の売り戦略(5月初めに株式を売却し、現金を保有して秋に市場に改めて参加)が投資継続戦略をアウトパフォームしてきた。

しかし、今後数カ月はボラティリティが高まる局面が繰り返し見られると予想されるものの、我々は、次のような理由から投資対象を分散して投資を継続する方が5月の売り戦略より得策と考えている。

1. 5月の売り戦略はすべての市場に当てはまるわけではない。

5月の売り戦略は欧州では効果をあげたが、米国市場では近年、投資継続戦略の方がアウトパフォームしてきた。グロース銘柄の比重が高い米国市場の市場構成がアウトパフォーマンスの一因である。S&P500に占めるテクノロジー・セクターのウェイトが27%に上昇したのに対し、MSCI 欧州ではわずか8%に留まっている。米国市場への参入時期を季節的な要因から見極めようとすれば、2008~09年の世界金融危機以後の強気相場におけるグロース株のアウトパフォーマンスを逃していただろう。

5月から10月にかけての株式リターンは市場によってかなりばらつきがあるが、1つの市場でも年によってかなり変動がある。例えば、中国株は2017年と2020年の両年の5月から10月にかけてそれぞれ20%以上上昇したのに対し、ユーロ圏株式は2013年の同期間に10%上昇している。

2. 今年は例年と異なる可能性がある。

夏場のリターンは年によってかなりばらつきがある。現在の環境では、株価がまもなくピークを迎えると予想するのは時期尚早かもしれない。財政刺激策の効果に加え、アフターコロナを見据えた消費者と企業の需要反発は米国を中心に非常に高い成長につながっており、そうした状態が今後何カ月も続く可能性が高いと考える。このような経済環境は予想を上回る企業利益の回復につながり、米国の第1四半期の利益の伸び率は45%を超えるとみられる。よって、株価には一段の上昇余地があると考えている。

昨年からの経験は、5月に売っていたらパンデミックの安値からの重要な回復局面を逃していたことを示している。3月の底の約1カ月後には、世界の株式(MSCI オールカントリー・ワールド指数)は既に25%回復していた。その後、2020年5月から10月にかけて、さらに12%上昇した。

3. 市場に参加する時期を見極めることは困難であり、高くつくおそれがある。

昨年、米国の株式市場は過去最も短期間で弱気相場入りしたが、回復も史上最速だった。これは、市場に参加するタイミングを見極めようとすると、多大な機会コストが発生しうることを示す好例である。5月に売った投資家が後で買い戻そうとしても、特にその間に相場が上昇してしまうと、秋になって市場に再参入するのは精神的に難しい。すると再投資の決断が遅れ、さらに状況が悪化するおそれがある。

しかも、現在の環境では、長期の現金保有は高くつく。名目金利がインフレ率を下回る中では実質金利はマイナスであり、現金はポートフォリオの足かせとなる。売却と再投資には取引コストがかかり、キャピタルゲイン税が課せられる場合もある。投資を継続すれば、税引き前のポートフォリオによる複利効果が期待できる。

5月を迎え、投資家にはボラティリティの上昇に備えていただきたい。ただし、「5月に売り逃げろ」ではなく、投資の継続と次の3つの行動を勧める。第1に、資産面における長期計画の見直し、第2に、主要なテーマ、地域、オルタナティブ投資を含めた各種資産クラスへの分散投資である。リフレーションとグロース銘柄を含めた戦略は市場のローテーションに逆行した場合のリスク軽減に寄与するだろう。第3に、ボラティリティを活用した投資、分散化、プロテクションの検討である。

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