今週の要点

景気回復がセクターローテーションを後押し

米国では、バイデン大統領が提示した追加経済対策の議会承認はまだ得られていないが、先週は、これまでに実施された財政・金融政策の効果が見て取れた。1月の小売売上高が新型コロナ感染拡大前の昨年1月と比較して7.4%増加したほか、先週公表された1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録では、財政刺激策の効果で景気下振れリスクは後退したとのFOMC参加者の見方が示された。先週の市場はインフレ懸念で全体的に足踏みしたが、水面下ではシクリカル(景気敏感)セクターへのローテーションが続き、米国の金融セクターが2.8%、素材セクターが0.9%上昇するなど景気敏感セクターが上昇した一方、S&P500種株価指数の情報技術セクターは1.9%の下落となった。米国でワクチン接種が広がり、追加経済対策の議会採決が迫る中、今後はシクリカル銘柄が世界的にアウトパフォームすると我々は考えている。例えば中小型株は依然としてバリュエーションに魅力がある。株価純資産倍率(PBR)で見ると、世界の小型株は大型株より30%割安な水準で取引されており、15年平均の18%を上回っている。また、新興国株式も、過去のリフレーション局面ではアウトパフォームしている。

要点:経済成長の回復が株式市場の上昇を下支えしている。しかし、市場の中でも今後は特に景気敏感セクターが好調に推移すると予想する。

インフレ高進は一時的とみられる

先週の市場は、米国の2年ブレークイーブン・インフレ率が2.6%と、この10年間で最高の水準に達したことから、インフレ懸念に覆われた。それに拍車をかけたのは、コア生産者物価指数が前月比で1.2%と予想の0.4%を上回ったことである。同指数の一部を構成する医療費は0.9%増と過去2番目に高い上昇率となり、また前年同月比ベースでは2007年以降で最大の上昇率となった。FRBはインフレ指標としてコア個人消費支出指数を重視しているが、医療費はその20%を占めているだけに、これは注目すべき数字である。インフレ懸念が利回りを押し上げ、先週の米国10年国債の利回りは14.5ベーシスポイント(bp)上昇の1.345%となった。しかし、インフレの上昇は一時的にとどまるとの我々の見方は変わっていない。市場は今後2年間について2.6%の平均インフレ率を予想しているが、ブレークイーブンを踏まえた向こう10年間の予想インフレ率は2.2%に留まる。一方、FRBの議事録では、過去の低水準によるベース効果など、総じて「一時的な要因」が短期的なインフレ圧力の上昇に寄与したとの見方が示された。こうしたことから、FRBは時期尚早な金融引締めは控えるとみられる。こうした環境下、投資家には、アジアのハイイールド債や高配当を維持する銘柄の組み入れによるインカムの向上を検討することを勧める。

要点:クレジット債よりも株式に有望な投資機会が見られる。ただし、アジアのハイイールド債など、クレジット債の一部にも投資妙味がある。

プライベート市場の上昇が株式市場を上回る

ケンブリッジ・アソシエイツの速報データによると、2020年はプライベートエクイティが上場株式をアウトパフォームし、リターンはラッセル2000の19%に対して22%となった。我々は、特に主要株価指数のリターンは将来的に低下する可能性が高いとみられることから、このトレンドが中長期的に続くと予想している。オルタナティブ投資への投資家の関心は高く、英国の調査会社プレキンによると、調査に参加した投資家の80%が2025年までにオルタナティブ投資への配分を増やすと回答している。我々は、現時点では特に3つのセグメントが有望と見ている。第1に、スペシャルシチュエーション、ディストレスト債やセカンダリー市場の運用マネジャーに投資するファンドである。これらは、市場の変調や流動性の低下から生じる魅力的な投資機会を見出すことが可能である。第2に、ヘルスケアのほか、アフターコロナの時代に需要加速の恩恵が期待されるデジタルテクノロジーなど、市場の大きなトレンドに乗じることができる運用マネジャーである。最後に、低金利が長期化する可能性が高い中、非流動性リスクや信用リスクの許容度の高い投資家は、プライベートクレジットと実物資産戦略への投資により、高利回りとインカムの獲得機会が得られると考える。

要点:プライベート市場への投資機会を検討する。

深読み

ボラティリティを活かす

サプライチェーンの乱れによる価格上昇圧力の兆しと米国の大規模経済対策成立への期待から、市場ではインフレ懸念が高まっている。我々はこうした懸念は行き過ぎと考えているが、短期的とはいえインフレの上昇を受けて、債券と株式市場のボラティリティ(相場の変動)が高まるおそれがある。こうした局面では、投資家は冷静さを保ち、ボラティリティを活かすことが重要になると考える。

向こう2年間の米国のインフレ予想は、この10年間で最高の水準に達している。米国10年ブレークイーブン・インフレ率は先週2.24%に達したが、これは2014年8月以来の高水準であり、2年ブレークイーブン・インフレ率は2011年4月以降で最も高い2.64%となっている。1月の生産者物価指数は前月比1.2%(事前予想0.4%)となり、投入価格の上昇懸念が高まった。

しかし、我々は次のような理由から、価格上昇圧力が継続するとは考えていない。

  • 救済は刺激策とは異なる。バイデン大統領が提案している1.9兆米ドルの財政刺激策は、パンデミック前のGDPの9%程度に相当する。しかし、失業給付の延長など刺激策の多くは、所得の増加ではなく現水準の維持を目的としている。
  • 経済に需給の緩み(スラック)がある。我々は今年末までにGDP成長率がトレンドに戻るとは予想していない。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、1月の米失業率は公式発表では6.3%だが、労働実態を反映した広義の失業率は10%近くに達していると述べている。
  • インフレ予想が実際のインフレ率を上回っている。世界金融危機以降、5年先5年物のフォワードレートのインフレスワップに基づく期待インフレ率は、5年間にわたり実際の平均消費者物価指数(CPI)を平均で1.2ポイント上回ってきた。
  • インフレの急上昇は一時的と見られる。予想される短期の物価上昇は、今年に入ってからの供給と需要の異例のミスマッチを反映しており、経済活動が正常化に向かうにつれて解消されるものと見込まれる。珍しいことに、米国の10年ブレークイーブン・インフレ率は2年の期待インフレ率を下回っており、市場もインフレ率の上昇が一時的と見ていることを示唆している。

とはいえ、短期的にインフレ率が上昇する可能性は高い。したがって、今後数カ月以内に、金利がゼロ付近で推移し各国中央銀行が流動性を追加し続ける一方で、インフレ率は目標を超えて上昇し、経済成長と雇用は力強い伸びを見せる局面が発生するだろう。FRBはこうした短期的なインフレ上昇は重視しないと繰り返し述べており、上述の理由から、実際にそのような姿勢を取るものと見られるが、金利上昇をめぐっては神経質な展開が予想される。

インフレ懸念から先週は10年国債利回りが14.5ベーシスポイント(bp)上昇して1.345%に達し、年初来の上昇幅は43bpにのぼっている。もし利回りが短期間で急上昇した場合、株式にとってはさらにマイナス材料となる。

潜在的な成長力とインフレ率の動きが乖離するマクロ経済をめぐる不確実性を受けて、株式の予想ボラティリティがパンデミック前の水準に戻らない可能性があり、ボラティリティが時折急上昇する状況が予想される。中期の見通しが明るいとはいえボラティリティの高止まりが予想されるこうした環境では、冷静さを保ちながらボラティリティを活かす機会を模索することが重要となるだろう。リスク資産に定期的に一定額を投資するドルコスト平均法など、ボラティリティの上昇を活かした戦略が有効とみる。

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