今週の要点

個人投資家主導のボラティリティは強気相場の妨げとはならず

先週のS&P500種株価指数は、3.3%の大幅下落で1週間の取引を終えた。1月29日の1.9%の下落を受け、週間の下落率としては過去3カ月で最大となった。再びボラティリティ(相場の変動率)の高い展開となったが、これは市場のポジショニングによるものと我々はみている。個人投資家が結束して、ヘッジファンドなどの機関投資家が空売りポジションを大量に持つ銘柄を買い入れたため、機関投資家らは損失覚悟で空売りポジションを買い戻すとともに買いのポジションも閉じることとなり、株価の乱高下を招いた。しかし、最近のこうした値動きは経済成長をめぐる懸念を反映したものではない。ファンダメンタルズは依然強いことから、強気相場は続くものと我々は予想している。29日の10年国債利回りは、ブレーク・イーブン・インフレ率と商品価格の上昇にけん引されて4ベーシスポイント(bp)上昇したが、これは経済成長が懸念される局面では見られない動きである。また、バイデン大統領が議会に提示した追加の経済対策は、今後数週間で成立する可能性を残しており、最終的な規模も(縮小される見通しとは言え)、1兆米ドル程度に達する可能性がある。米国企業の2020年10‐12月期決算はこれまでのところ予想以上に好調で、発表を終えた企業の88%が全体として予想を20%上回っている。ワクチン生産の開始は我々の予想より遅れたものの、主要ワクチン開発企業の大半は2021年の生産目標を引き上げている。

要点:投資家には短期的なボラティリティに惑わされず、株式投資を継続することを勧める。株式市場には一段の上昇余地があるとみており、我々の基本シナリオではS&P500種株価指数の今年12月末の予想を4,000としている。

FRBは低金利の長期化を躊躇せず

米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、金融緩和を継続する姿勢を改めて示した。金融に与えるリスクは「穏やか(moderate)」であり「低金利と資産価値との関係は、考えられているほど密接ではない」と述べ、超低金利政策がバブルにつながるとの懸念を退けた。低インフレが続く見通しの中、パンデミックによる需給ギャップがあるだけに、政策当局者は景気対策に注力できる。パウエル議長は「金融緩和の縮小案を検討するのは時期尚早」との考えも示した。先週の連邦公開市場委員会(FOMC)におけるこうした発言から、米国の実質金利は今後数年間はマイナスが続く見通しであり、よって必要以上の現金保有はポートフォリオの価値を押し下げる要因になるとの我々の見方が改めて確認された。金融緩和下での利回り確保は難しいが、利回りが米国国債を360bp上回っている米ドル建て新興国国債や、同620bp高いアジアのハイイールド債に収益機会があるとみている。

中国の資産クラス全般に投資機会

世界の株式全体が反落し、中国人民銀行(中央銀行)が流動性の一部引き締めに動いた中で、先週は中国の株式とハイイールド債がともに下落した。新型コロナウイルスの感染拡大を封じ込めるために地域限定で新たに移動制限が導入されたことも、市場心理に影を落とした。しかし、中国資産の下落は一時的にとどまると我々は予想している。第1に、ロックダウンの対象地域は経済規模が小さい(中国のGDPの2%足らず)。中国自体の経済見通しは明るく、2021年のGDP成長率は8%を上回る見通しであり、輸出が予想以上の上振れ要因となる可能性さえある。第2に、中国人民銀行(中央銀行)は急激な金融引締めではなく、段階的な正常化を目指している。先週末の29日に流動性が注入されたことも、この見方を裏付けている。第3に、中国株式市場の上昇を受け、バリュエーションはオンショア、オフショアともに過去の平均を上回っているが、これは経済環境と企業業績の伸びから見て妥当な水準であると考える。2021年の中国企業の利益成長率については10%台半ばに達すると予想している。最後に、中国ハイイールド債券市場で高い割合を占める不動産債券のリスクは制御可能と考えている。新たな資金調達ルールによって、我々がリサーチ対象としているデベロッパーの信用力は概ね好転する見通しが高く、正味の供給は2020年の370億米ドルから2021年は80億米ドルに減少する見通しである。

要点:オンショアの中国戦略ではA株(中国企業の人民元建て株式)、アジア戦略ではMSCI中国株式指数について強気を維持し、2021年通年についてA株は10%台前半、MSCI中国については10%台半ばの上昇を予想している。米国外の投資家については、アジアのハイイールドの中では米ドル建ての中国不動産債を引き続き推奨する。我々がリサーチ対象としているハイイールドの中国不動産債については7%のトータルリターンを予想している。

深読み

短期の値動きよりもファンダメンタルズ重視

先週はS&P500種株価指数が3.3%下落して1月の上昇分が帳消しとなった。月間ベースでは1.1%の下落となり、1月としては2016年以降で最大の下落率となった。先週はボラティリティ(相場の変動率)も急上昇し、ボラティリティ見通しを反映するVIX指数は11ポイント上昇して33に達した。これは、新型コロナウイルスの感染拡大「第2波」が米国を襲った2020年6月以降、週間ベースでは最大の上昇となった。

リスクオフのセンチメントは、新型コロナウイルスの変異種の感染拡大、ワクチン接種開始の遅れ、米国の財政刺激策の時期と規模に関する不確実性、バブルの様相を呈している市場への懸念など、複数の要因が作用した。ヘッジファンドが大量に空売りしていた銘柄に個人投資家が一斉に買いを仕掛け、いわゆる「ショートスクイーズ」が発生したことも、市場の混乱を招いた。

波乱の1週間を終えたところで、今後の見通しについて我々の見方を示したい。

ボラティリティは経済成長懸念ではなく、市場のポジショニングを反映:S&P500は1月29日に1.9%下落したものの、ブレーク・イーブン・インフレ率と商品市況の上昇にけん引されて米国10年国債の利回りは4ベーシスポイント(bp)上昇した。これは経済成長が懸念される場合では見られない動きであり、むしろ、ここ数カ月の急激な相場変動後の株式内のポジション調整によるものと考える。1月末のS&P500種は依然として10月末より13.6%高く、2020年3月の安値を66%上回っている。

先週はポジション調整による市場の混乱が注目を集めた。ソーシャルメディアでつながった個人投資家集団が、ヘッジファンドなどの機関投資家が空売りポジションを大量に持つ銘柄を一斉に買い入れ、いわゆる「ショートスクイーズ」を仕掛けたため、機関投資家らは損失覚悟で空売りポジションを買い戻すとともに買いのポジションも閉じることとなり、株価の乱高下を招いた。しかし、ここ数日の資金の流れのスピードと規模を見る限り、圧力はほぼ解消されたと考えている。

全体としては、株式のロングショートファンドの分散投資されたポートフォリオは今後好調に推移し、現在の逆風は一時的なものに終わるとみている。俯瞰的に見るならば、最近の激しい値動きはは、ファンド、戦略、スタイルにわたりバランスよくポートフォリオを構築することがヘッジファンドを組み入れた分散投資の効果的な方法であるという我々の見解を改めて裏付けたと考える。

さらに、先週の株価の激しい値動きは必ずしもファンダメンタルズに基づいて正当化できないものの、市場全体では、11月上旬にワクチン開発の進展が報じられて以来、セクターローテーションが続いている。投資家は2020年に巣ごもり需要の恩恵を受けた銘柄から、パンデミックで出遅れた銘柄や景気に敏感なセクターに投資先を移している。我々はこのトレンドがしばらく続くと考えており、特に、中国を始めとする新興国株式や、米国大型株と比べて景気に敏感なグローバル小型株に収益機会があるとみている。

ワクチン供給をめぐる混乱はあるものの、感染拡大の封じ込めには進展あり:南アフリカ、米国、英国、イスラエルでは新規感染者数が減少し始め、医療体制の逼迫が緩和されつつある。一方、米国では、新規感染者数の減少とワクチン接種の加速を受けて、目先、制限措置が緩和される可能性がある。カリフォルニア州のニューサム知事は先週初め、州内の感染地域全域に対する厳しい外出制限令を解除した。また、金曜日にはニューヨーク州のクオモ知事がニューヨーク市のレストランでの屋内飲食を2月14日から再開する方針を発表した。収容人数は通常の25%まで認める。

さらに、世界でのワクチン生産は開始が予想より遅れたが、大手製薬会社は今年の生産目標を引き上げている。また、先週末には、米製薬大手が、開発中の単回接種のワクチンについて、臨床試験最終段階の第3相で中程度から重度の症状を予防する有効性が66%であったと発表した。この数字は他社開発のワクチンに比べると有効性は低いものの、重症化に対する有効性は85%で、入院及び死亡に対しては全地域で100%の予防効果が確認された。

業績と経済指標は堅調な結果:S&P500を構成する銘柄の52%が2020年10-12月期(第4四半期)の決算発表を終え、うち88%が全体として利益予想を20%上回った。世界的に見ても、予想を上回る経済指標が続いており、シティのエコノミック・サプライズ指数は、新型コロナウイルスの感染拡大懸念が最も深刻だった昨年4月の₋79から+82に上昇した。先行して景気が回復している中国の2021年のGDP成長率は8%、米国は6%を上回ると我々は予想している。

財政と金融政策が引き続き景気を下支え:米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は「金融緩和の縮小論を検討するのは時期尚早だ」と述べ、金融緩和を継続する考えを改めて強調した。パウエル議長は、超低金利政策が金融に与えるリスクは「穏やか(moderate)」であると述べて、資産バブルにつながるとの懸念を退けた。財政面では、バイデン大統領が目指す1.9兆米ドルの景気刺激策は、議会審議の過程で最終的な規模が縮小され、民主党と共和党の対立で成立が遅れると予想されるものの、今後数週間以内には、経済成長と企業業績の回復を支える規模の財政刺激策が承認されるものと予想している。

こうした状況から、ポジション調整と資金フローで短期的にはボラティリティが高まる恐れはあるものの、これらが中期的に市場を動かすファンダメンタル要因になることはないと考える。上述したように、ワクチン接種が拡大し、経済支援策や企業業績にも期待が広がることから、株式の一段の上昇が予想される。我々はリスクオンのスタンスを維持しており、ボラティリティが高い環境下でリスク資産に中期的にエクスポージャーを追加するには、一定期間ごとに一定金額を投資する戦略などが有効と考える。

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