Mark Haefele

シャーロック・ホームズはかつて、「あの夜に犬が示した不思議な行動」から、殺人事件を解決している。殺人の起きた夜に番犬が吠えなかったのは、犬が容疑者を知っていたからに違いないと結論づけたのだ。予想された反応がないことにより、事実が解明されることがあるということだ。

投資家にしてみると、吠えていない犬は米10年国債利回りで、容疑者は米連邦準備理事会(FRB)の金融政策だ。通常であれば、株価が高騰し、景気指標が経済成長を示唆し始めると、10年国債利回りは上昇する。だが、株価が急反発し、経済成長率が改善したにもかかわらず、利回りは横ばいを続けている。本レターでは、なぜこのアノマリー(変則的な事象)が現在の市場を理解する上での鍵になるかを掘り下げる。

ここ数カ月、私は新型コロナウイルスや他の要素よりも、FRBによる支援がリスク資産を動かす重要要因になるとの見解を示してきた。この、FRBのストーリーは終わったのだろうか?まだだ、と我々は考えている。株式市場、一部のクレジット市場、そして米ドルはFRBによる超金融緩和政策の長期的な影響を十分に織り込んでいない。そして、金価格についても、我々の目標値に近づいているとはいえ、年末までにはまだ値上がりする余地があるとみている。

米10年国債利回りは、FRBはインフレ率が上がっても低金利を長期に続けることを示しているというのが我々の見立てである。長期にわたって低金利が続く可能性が高いと、企業の収益力に対し投資家が支払っても良いと考える金額が上昇する。米国の低金利は米ドルの相対的な魅力度を低下させる。そして、機会費用を減らしながら長期期待インフレ率を高めることで、FRBはより多くの投資家を年初来27%上昇した金などの資産へと向かわせている。

FRBのストーリーは、もちろん主要な市場変動要因である新型コロナウイルス、米国の大統領選挙、米中対立のニュースとも相互に作用する。とは言え、先月示したように、米国における新型コロナ感染の第2波への不安は、入院率の低下とともに緩和してきた。人々が夏季休暇から戻ると欧州の感染者数が増えるかもしれないが、医療制度の逼迫度は今なお低い。

我々の基本シナリオでは、①主要国では新たな全国レベルでのロックダウン(都市閉鎖)の実施はない、②2021年4-6月期(第2四半期)までには幅広くワクチンが利用可能になる、③11月の米大統領選挙で民主党が圧勝する(この確率については、市場は現在50%を若干上回るとみている)、④米中間の「第1段階の合意」が維持される、という4つの要素が組み合わさって、経済生産は2022年初めにはパンデミック(世界的流行)前の水準に戻ると想定している。このシナリオでは、2021年6月末には、S&P500種株価指数は3,500ポイント、ユーロ/米ドルが1.21、金価格は1,900米ドル/オンスで取引されると想定している。

株式に対してはリスクオンのスタンスを維持する。一部の景気敏感株とバリュー株にも最近の市場反発に追い着く可能性が十分にあり、グリーン・リカバリーの関連銘柄など、パンデミックで加速化しているテーマも投資魅力が高い。超低金利を背景に、配当銘柄、アジアのハイイールド債、新興国国債など、利回り追求関連の資産も引き続き推奨する。一方、米国ハイイールド債、英ポンド、スイス・フランは大幅上昇したため、現在はニュートラルとしている。高利回りで景気変動の影響を受けやすいアジア通貨を推奨する。さらに、景気回復の流れに乗る一方法として、対象が幅広いコモディティ指数と、低金利環境でのポートフォリオのリスクヘッジとして金も推奨する。

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