Mark Haefele

各国首脳は、感染拡大封じ込め策に伴う経済活動の一時的な抑制の代償に対して、異例の決断を行っている。世界中で現在実施されている社会的距離の確保(social distancing)措置(娯楽施設の閉鎖や海外渡航禁止、各種企業の営業停止、個人の移動制限など)は、相当大きな経済的ダメージとなるだろう。我々の試算によると、現在多くの主要経済諸国で実施されている各種制限措置は、その期間中に民間セクターの経済活動を20~40%縮小させる可能性がある。

米連邦準備理事会(FRB)は、わずか3日間で世界金融危機時における対応策をすべて実施した。欧州中央銀行(ECB)は、「パンデミック緊急購入プログラム」を導入し、「何でもやる」との公約通りの措置を講じ始めた。財政当局も対応策を強化させており、これまでに発表されたプログラムをまとめると、英国は国内総生産(GDP)の16%、ドイツとフランスが15%、米国が10%に達している。財政当局による追加策がさらに拡大することで、世界金融危機のような信用収縮の回避につながるだろう。しかし、現在までのところ、広範にわたる人の移動制限が市場に悪影響を及ぼし、一連の政策対応が追い付いていない状況だ。

今月号のレターでは、投資家が現在のリスクと機会を効果的に評価できるように、医療、金融、財政の政策の相互作用がどのように市場に影響を及ぼしているのかについて検証する。我々は、楽観、基本、悲観という3つのシナリオに分けて考えをまとめた。これらシナリオは、a)経済活動がどの程度早く正常化するか、b)政策対応がどれだけの企業倒産と失業を防ぐことができるか、を判断の基準としている。

楽観シナリオでは、徹底した社会的距離の確保(social distancing)、ウイルスの季節性、治療薬・ワクチン等による解決策という要素が組み合わさった結果、欧米主要経済国でのウイルス感染状況が中国と同じ道を辿り、4月初旬までにピークに達する。そして、封じ込め策は5月初旬から徐々に緩和される。政府の刺激策は、経済への持続的なダメージを回避するのに十分で、これによって第3四半期と第4四半期に成長のV字回復が始まる。この場合、S&P500種株価指数は年末までに2,900前後で取引されるだろう。

基本シナリオでは、新規ウイルス感染者数は総じて4月中旬にピークに達し、最も厳しい規制は5月半ばから解除される。だが、ウイルスの撲滅が難しいことが分かり、その結果、一部の国は年末まで断続的に規制を再導入する必要があるだろう。協調的な金融・財政対応策によって、最終的には影響を受けた企業と産業を支援するのに必要な資金が供給されるが、開始時期が遅すぎるためすべてを守り切ることはできないだろう。第4四半期頃からU字型の景気回復が本格化する。この場合、S&P500種株価指数は年末までに2,650前後で取引されるだろう。

悲観シナリオでは、講じられた封じ込め策ではウイルス感染拡大を食い止めることができず、欧米での新規感染者数が5月か6月に入っても増加し続ける。中国でも感染が再び拡大し、新たな規制が導入されることになる。欧米では、大半の規制は6月か7月に入っても解除されず、それ以降も年末まで断続的に導入される。この場合、政府の政策で長引く需要の落ち込みが大幅に軽減されることはなく、倒産件数と失業者数が急増する。企業業績は悪化し、株主や債権者、銀行が損失を被るだろう。2020年の経済成長はL字型となる。このシナリオの場合、S&P500種株価指数は年末までには2,100前後で取引されるだろうが、過去の弱気相場を参考にすると、1,650-1,950のレンジまで下落することもあり得る。

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