Mark Haefele

新興国は、過去20年で経済も社会も驚くほどの変貌を遂げた。今や、新興国は世界経済の総生産の60%程度を占め、国内総生産(GDP)成長率の70%程度を占める。原油、銅、鉄鉱石の消費量、自動車販売、携帯電話の加入件数のどれを取っても世界で大半のシェアを占めている。2000年以降、新興国で貧困から脱した人々は10億人を超え、新興国における億万長者(資産総額10億米ドル超)の増加ペースは、先進国の3倍を超える。

こうした動きを見越して資金を投じてきた投資家は十分に恩恵を受けてきた。過去20年間の株式市場のリターンは、我々が新興国ユニバースと見なしているMSCI新興国指数で年率7.2%と、MSCIワールド指数の5.2%を上回っている。1988年にMSCI新興国指数が設定されて以来、新興国株式市場はグローバル株式市場を年率でおよそ2%ポイント上回ってきた。債券に目を転じると、JPモルガンEMBIグローバル・ディバーシファイド国債指数の2000年以降のリターンは年率9%に迫っているのに対し、米国債リターンは5%にも達していない。

しかし、ここ数年、新興国をめぐる状況は変わってきた。2014年から2019年までの経済成長率で見ると、先進国に対する新興国全体の優位性は低下した。株式市場のパフォーマンスも低調だった。例えば、昨年の新興国市場のトータルリターンは19%を下回ったのに対し、グローバル株式は27%、S&P500種株価指数は32%だった。実際、2007年半ば以降、新興国株式のリターンは55%にすぎず、S&P500種株価指数の260%を大幅に下回っている。投資家はその低パフォーマンスに嫌気が差して、新興国市場から資産を移すことで意思表示をしてきた。その結果、グローバル・ミューチュアル・ファンドに占める新興国のシェアは現在わずか7%と、過去平均の9%を下回っている。

だが我々は現在、投資家が新興国に資産を再び振り向ける時がきたと考えている。その理由は第1に、現在、新興国の経済成長率が先進国を上回っているが、今後はこの格差の広がりが予想されるからだ。第2に、株価バリュエーションで見ると新興国は先進国よりも割安水準にある。最後に、来る「変革の10年」で確認できる最大の長期トレンドは、新興国で実現すると考えるからだ。

したがって、我々は現在、株式でも通貨でも戦術的(短期)リスクの大半を新興国で取っている。今月は、米国株式へのオーバーウェイト分を新興国株式に移してこの方針を強化する。新興国は、バリュエーションでも企業業績の伸びでも米国およびユーロ圏よりも魅力的であることがその根拠だ。

更に、既に保有しているインド・ルピーとインドネシア・ルピアの新興国通貨のオーバーウェイトにブラジル・レアルを加える。とはいえ、米ドル建て新興国国債については、最近はスプレッドが縮小して収益機会が減少していると判断し、オーバーウェイトのポジションを終了する。

我々は、新型コロナウイルスの動向を注視しているが、現時点では、これによりポートフォリオを変更する必要はないと判断する。

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