今週の要点

回復に向けてリセット

今年前半は新型コロナウイルスの感染拡大一色だった。S&P500種株価指数はわずか16日で「弱気相場」に突入し、3月23日までに34%下落した。一方、各国の中央銀行と政府は過去に例のない金融緩和と財政刺激策で危機に対応した。4-6月期(第2四半期)に入ると、S&P500種は1998年第4四半期以降で最も好調な四半期を記録し、6月末時点でのトータルリターンは前年比3%減にとどまった。今年後半については、「回復に向けてリセット」するタイミングとみている。コロナ後の世界では各国の政府債務が膨らみ、グローバル化が変容し、デジタル化が進むだろう。超低金利環境下で投資家は利回りを追求し、市場の大幅な変動が続く中でボラティリティ(相場の変動)を適切に管理し、負け組と勝ち組とを見極めることが必要になる。計画を立て、投資先を分散し、規律ある投資を継続することが鍵となる。

要点:市場は新たなパラダイムに突入した。投資家は「回復に向けてリセット」を念頭に対応策を講じる必要があるだろう。

景気回復の兆しがアップサイドの可能性を下支え

各国で経済活動を再開し移動制限が解除されるにつれ、景気が回復に向かい始めている。米国では失業率が低下し雇用が大幅に増加するなど、雇用統計が予想を上回る好結果となった。6月の米国の消費者信頼感指数とISM製造業景況感指数は、ベースは低いものの、それぞれ2011年と1980年以来最大の伸びを記録した。中国では製造業・サービス両部門で購買担当者景気指数(PMI)が回復に向かっている。BioNTech とファイザーが共同開発するワクチンの臨床試験で良好な結果が示されたことも好材料だ。ワクチン・治療薬の開発進展に加え、財政・金融の政策支援もグローバル株式の一段の上昇余地につながると考えている。一方、米国の一部の州ではこのところ新規感染者数が増加しており、ボラティリティが高止まりしている。ドルコスト平均法で株式を定期的に購入しながら不安定な相場を乗り切ることを推奨する。

要点:ボラティリティを上手く利用しつつ、上振れ余地に向けた戦略を取ることを推奨する。

勝ち組と負け組とを見極める

欧州最大の航空宇宙グループであるエアバスは、新型コロナウイルスの感染拡大が世界の旅行産業に悪影響を及ぼしているとして、欧州で最大15,000人の雇用を削減すると発表した。ライバルのボーイングは737 Maxの製造中止以来顧客1社による発注取消しとしては最大規模となるジェット機97機のキャンセルに見舞われた。人員削減は多くの企業が直面している苦境の表れである。しかし、こうした事態は、ディストレス投資に詳しい専門投資家にとっては、資金を活用して瀬戸際にある企業を支援する機会にもなりうる。一方、一部の産業は苦境に陥っているものの、コロナ禍をきっかけに「新しい経済」への移行が加速している点にも注目すべきである。先週、テスラはトヨタを抜いて時価総額が世界最大となり、持続可能な機会に対する投資家の関心の高まりを浮き彫りにした。

要点:新型コロナウイルス危機は「新しい経済」への移行を促している。我々はサステナビリティ関連の投資が長期的には勝ち組になると予想している。

深読み

今年前半の振り返りと今後の見通し

今年も後半に入り、今年前半を振り返る良い機会である。今年前半は新型コロナウイルスの感染拡大一色だった。S&P500種株価指数は2月19日につけた史上最高値からわずか16営業日で20%下落して、史上最速で弱気相場に突入した。3月23日までに、S&P500種は34%下落した。わずか1カ月で1946年以降の弱気相場の平均下落率にまで落ち込んだ。一方、各国の中央銀行と政府は過去に例のない規模の金融緩和と財政刺激策で対応し、リスク資産の急回復に一役買った。第2四半期に入ると、S&P500種は1998年第4四半期以降で最も好調な四半期を記録し、トータルリターンで見ると6月は前年比3%減にとどまった。テクノロジー企業の比重が大きいナスダックは、ステイホームの恩恵を受けて、今年前半は12.7%のリターンを記録した。

政策金利が低下し、安全資産の需要が拡大する中で、第1四半期は国債利回りが急落し、第2四半期末も過去の水準を大幅に下回っている。例えば、米国10年債利回りは年初の1.88%から3月には57ベーシスポイント(bp)まで低下し、現在も69bpにとどまっている。他の安全資産も上昇した。金は今年前半に17%上昇し、2012年以降で最も高い水準に達した。

一方、金融市場は損失の大半を取り戻したが、新しいパラダイムに突入した。今こそ、「回復に向けてリセット」する時である。各国政府の債務が増加し、グローバル化が変容し、デジタル化が進む世界では、a) インカムの発掘、b) ボラティリティの管理、c) 負け組と勝ち組との見極めが重要になる。これらを実現する方法を見ていく。

インカムの発掘

景気回復を促すために、各国中央銀行は金利をゼロまたはマイナスに引き下げ、過去に例のない規模の量的緩和プログラムを打ち出した。各国中央銀行は莫大な流動性を提供し続け、それがリスク資産を下支えすると予想する。政策金利は今後数年間、低水準に留まる可能性が高い。国債利回りが現在の水準から大幅に変化するとは予想しておらず、インカムゲインとポートフォリオのボラティリティの管理を目指す投資家に課題を突き付ける。各国中央銀行は債務負担を抑えるため、インフレ率の緩やかな上昇(2₋5%程度)に目をつぶるだろう。よって、キャッシュと最も安全な債券は目先、実質リターンがマイナスになる可能性が高い。

このため、キャッシュ保有を必要最小限に留めることが考えられる。Liquidity. Longevity. Legacy.のアプローチ*は2‐5年分の支出をキャッシュや高格付債で用意し、中長期の成長に向けて残りの資金を投資することを提案している。投資家は配当と高利回りの債券からインカムを得ることが検討できる。インカムゲインのためにより大きなリスクを受け入れる必要性から分散投資と慎重なポートフォリオ管理の重要性が高まるため、投資に関する意思決定をファンド・マネジャーに一任する選択も有効だろう。

* Liquidity. Longevity. Legacy.の意味は、流動性を確保し(Liquidity)、老後に備え(Longevity)、資産承継を準備する(Legacy)。

* 時間軸は様々です。戦略はお客様の目標、目的、適合性によって変わります。このアプローチは、資産構築あるいは何らかの投資利益の達成を約束または保証するものではありません。

ボラティリティの管理

株式市場のボラティリティは何年にもわたり過去最低を記録していたが、新型コロナウイルス危機がピークだった3月にVIX指数は過去最高に跳ね上がった。その後低下したものの、長期平均を上回る状態が続くことが予想される。

ボラティリティが高止まりする中で意思決定を先送りすることで、長期にわたり安全だが低利回りの資産から抜け出せないことになりかねない。一方で、ボラティリティは長期の市場へのエクスポージャー構築の機会でもある。ポートフォリオのリバランスに規律ある投資手法で臨むとともに、市場参入計画を策定しそれに従うことができる。相場が変動している時期の投資は不安が大きいため、意思決定を自動化すれば効果的に規律ある投資を維持することができる。定量的なシグナルやインジケーターのレベルを基に、参入するかどうかの意思決定を下すことも可能である。

負け組と勝ち組とを見極める

ボラティリティが高まったとはいえ、株式市場全体では今や過去の高値に近付いている。ただし、コロナ危機は市場やセクター間でのパフォーマンスの乖離をもたらした。景気回復が進む中、相対的な勝ち組・負け組に分かれるトレンドが今後も続くものと予想される。コロナ危機における基本シナリオと楽観シナリオでは、株式に一段の上振れが予想される。

投資ポートフォリオ内で投資テーマを重視したアプローチを取ることで、コロナ感染拡大により加速したトレンドの恩恵を受けるポジション構築が可能である。国別あるいはグローバルな株式配分の一部をテーマ別の株式バスケットに切り替えることで、ポートフォリオの長期のパフォーマンスのポテンシャルを高められるかもしれない。十分に分散投資されたコアとなるポートフォリオと、多彩なテーマへのサテライト(衛星)投資を組み合わせることで、入念なリスク管理と成長トレンドへのエクスポージャーの両方を兼ね備える「コア・サテライト」の手法を検討してもよいだろう。また、サステナブル投資の株式と債券は年初来アウトパフォームしており、コロナ後の世界において勝者になると見込まれる。

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