Shanghai

今週の要点

米追加経済対策の協議膠着でボラティリティ上昇

米国の追加経済対策をめぐる協議が膠着する中、先週はS&P500種株価指数の1日当たりの騰落率が3日連続で1.5%近くに達した。トランプ大統領は与野党協議の停止を表明したが、その後部分的な対策実施の可能性を開いた。VIX指数は、S&P500種の1日当たりの値動きが来月には1.7%に達することを織り込んでいる。追加経済対策、米大統領選、米中の対立、新型コロナウイルスのワクチン開発をめぐる不透明感を背景に、ボラティリティが短期的に高止まりすると我々は予想する。欧州の一部では新型コロナウイルスの感染者が再び増加しており、移動制限についても引き続き注目していく。しかし、我々は、追加経済政策が最終的には成立し、各国中央銀行の金融緩和が続き、ワクチンも開発されることを前提に、中期的には株式相場は上昇すると考えている。よって、ボラティリティが高いこの時期を活かして、規律ある段階的な参入戦略を用いて長期のポジションを構築することを勧める。

要点:追加経済対策の協議の行方、米大統領選、米中対立、その他のリスクによる短期のボラティリティは、ポジション構築の機会をもたらすと考える。

巨大テクノロジー企業の規制よりも、次の相場上昇への備え

独占行為について調べてきた米議会下院は6日、調査報告書を発表し、米巨大IT 4社は自社が運営するマーケットプレイスで自らも他の事業者と競合してビジネスを行うなど、独占禁止法に違反する行為を行ったと指摘した。これを受けて、4社の株価は平均で3.2%下落した。しかし、適切な是正措置については不透明な部分が残り、これら4社の「企業分割」という厳しい措置への弾みがつかなかったことから、金曜日までに株価は反発した。この調査報告書よりも直接的に関係してくるのは、超大型株が株式市場の次の上昇局面のけん引役となりうるかどうかだと考える。我々は次の上昇に向けて主に3つの戦略を提案したい。第一に、5Gや中国のデジタル経済関連、さらには「Future of humans(人類の未来)」に関連する銘柄など、テクノロジーセクターの中で分散化を図ることである。第二に、テクノロジー以外では「モアノーマル」への回帰に関連する株式、具体的には米国の中型株や新興国のバリュー銘柄、英国株式、世界の消費者ブランドなどへの分散投資である。第三に、投資を継続することである。過去5年間で見てみると、世界のテクノロジー株の調整局面に続くその後の6カ月では、平均約20%の反発が起きている。

要点:新型コロナで加速したテーマに関連する銘柄や、株式の上振れ余地に備えたポジション構築を勧める。

世界最大の政府系ファンドがサステナビリティ重視を鮮明に

運用残高約1兆米ドルを誇る産油国ノルウェーの政府系ファンドは、石炭を生産あるいは使用している企業からの投資引き揚げ(ダイベストメント)を実施してきた。同ファンドの新最高経営責任者(CEO)は、この戦略は「高いリターンが得られる」として、リターンを高めリスクを軽減するために、こうした企業の株式売却をさらに進める計画を発表した。この動きは、投資家も政府も持続不可能な事業慣行を容認しなくなり、環境・社会・ガバナンス(ESG)重視の姿勢を強めていることを浮き彫りにしている。投資撤退や投資対象からの除外以外にも選択肢は存在する。調達した資金を環境プロジェクトに充てるグリーンボンドなど特定の資産クラスは伝統的投資戦略に比肩するリスク調整後リターンが期待できるため、世界の投資適格債に代替する投資対象となりうる。国連「持続可能な開発目標(SDGs)」の実現に関連する銘柄に投資する方法もある。例えば、政府の中には「グリーンリカバリー」に取り組む姿勢を改めて表明し、CO2排出実質ゼロを公約に掲げ、欧州のグリーンテクノロジー、清浄な大気と炭素排出削減、エネルギー効率、再生可能エネルギー等に関連する企業を優遇する政府も現れた。また先週には米国最大手の風力・太陽光発電企業が、時価総額で米石油大手を一時抜き、全米最大のエネルギー企業に躍り出るなど、「ニューエネルギー」へのシフトも鮮明になっている。

要点:政府による後押しや企業の取り組み強化、消費者の意識の変化などを踏まえて、サステナビリティ関連銘柄を勧める。

地域的な見解

中国債券市場の開放

英指数算出会社FTSEラッセルは9月24日、その代表的な国債指数、「世界国債インデックス(WGBI)」の中に中国国債を組み入れると発表した。指数への算入は2021年3月に最終確認が行われた後、同年10月から12カ月間にわたって段階的に実施される見込みだ。ここ2年間ではJPモルガンとブルームバーグ・バークレイズがそれぞれのグローバル指数に中国国債を組み入れている。

WGBIへの組み入れ比率は5~6%とみられ、この指数に連動する運用資産を2兆5,000億米ドルと想定すると、向こう12~24カ月間で1,250~1,500億米ドルの資金が中国国債市場に流入するものと見込まれる。また、WGBIへの組み入れに伴い、外国人投資家による中国国債の保有高は全体の14~15%(現在は9%)に増加すると我々は推計している。今回の指数組み入れは、中期的には中国国債と中国人民元のいずれにとっても好材料になると考える。

先進国国債の大半は現在、利回りがゼロ近辺で推移している。とはいえ、安全資産は安定化装置と位置付けられ、分散ポートフォリオで重要な役割を果たす。一方、中国国債の利回りは、低いとはいえ、先進国、特にG3(日米欧)の国債と比較するとかなり高い。格付けでみても中国国債は「A」(日本と同程度)であり、過去の世界的な売り局面ではG3国債に近いディフェンシブ性を発揮している。

グローバル指数への組み入れや市場へのアクセス改善を背景に、中国国債市場では今後も力強いペースでの資金流入が続くものと見込まれる。さらに、中国の証券市場を監督管理する中国証券監督管理委員会(CSRC)はつい先日、適格外国機関投資家(QFII)に関する新たな規則を発表。QFIIの申請要件を緩和し、債券先物などにまで投資対象を拡大した。

こうした状況を踏まえ、安全資産の一部として中国国債の検討を勧めたい。米国債に対し長期の中国国債を推奨する。中国10年国債利回りの米国10年国債利回りに対するプレミアムは足元で24ベーシスポイント(bp)と、過去最高に迫る水準にある。

我々は中国10年国債の利回りが年末までに3%程度に達し、2021年6月までに約3.2%に上昇するとみている。一方で、来年上期の米国10年国債の利回りは0.85%と小幅の上昇にとどまると見込む。世界的な景気減速が予想以上に長引いた場合、中国人民銀行にはまだ利下げの余地があるが、米連邦準備理事会(FRB)はすでにゼロ金利下限にある。よって、中国国債は金利収入のみならず、キャピタルゲインでも米国債を上回る可能性があると考える。

ここ数年で、中国銀行間債券市場(CIBM)ダイレクトやボンドコネクト(債券通)などが開始され、オンショア人民元建て債券市場へのアクセスが改善されてきた。オンショア債券の2大ベンチマークである人民元建国債と政策銀行債の1日あたりの売買高はそれぞれ230億米ドル、530億米ドルと、流動性も潤沢である。また、アクティブ運用やパッシブ運用のソリューションを用いたエクスポージャーをとることもできる。

オフショア人民元建て債券(いわゆる点心債)市場は、人民元建て債券への直接的なアクセスを提供する。だが、市場の規模はオンショア市場よりはるかに小さく、流動性も相対的に低い。一方、投資家の大半が償還まで債券を保有するため、オンショア人民元建て債券より変動が小さい。我々がカバーしている投資適格債券の利回りは2~3%、ハイイールド債券は5~7%であり、金利収入に適している。また、我々がカバーしている投資適格級のオフショア人民元建て債券も、利回りが米ドル建て債券を150~200bp上回る魅力的な水準にある。

オフショア投資家が中国の債券に投資する際には、米ドル/人民元の相場が重要になってくる。対米ドルの人民元は、5月に底を打った後、新型コロナウイルス感染症からの中国の速やかな回復と米ドルの軟化に支えられて6.6%上昇している(米ドル/人民元は5月の7.17に対し、足元では6.72で推移)。こうした急激な人民元高を背景に、オフショア人民元建て債券の年初来のリターンが米ドル換算で上昇している(+6.6%)。

一方、我々は、米ドル/人民元の2020年末と2021年末の予想を6.70としているため、米ドルベースで投資する投資家にとっては、オンショア、オフショアいずれの人民元建て債券についても、為替によるリターン押し上げ効果は目先であまり見込めないだろう。とはいえ、ここ数年間で米ドル/人民元が平均4%程度のボラティリティで安定して推移していることを踏まえると、米ドル建て債券と比べた利回りの高さから、中国債券への投資に妙味があると考える。

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