今週の要点

欧州の復興基金で株式に一段の上昇余地 

欧州連合(EU)は先週の首脳会議で、新型コロナウイルス対策としての7,500億ユーロ規模の復興基金案に合意した。これは、EU加盟27カ国の2019年GDPの5.4%に相当する。これを受けてユーロ圏の株式は上昇し、特にドイツ株式の値上がりが目立った。繰延需要(消費の先送りで貯蓄率はコロナ禍前の水準から英国では2倍に、フランスでは40%超上昇)にマイナスの実質金利も加わり、世界の株式は一段の上昇が予想される。復興基金では6,725億ユーロが環境対策とデジタル化を支援する枠組みに充当される。環境対策の推進による経済復興を目指す「グリーンリカバリー」が復興の中心に据えられたことは、サステナビリティ関連が今回の回復の勝ち組になるという我々の見方を裏付けており、特に欧州におけるスマートモビリティやオートメーション、ロボティクスなどの投資テーマの魅力を高めている。ただし、景気対策の拡充は債務の拡大も意味する。各国中央銀行は、今後、膨れ上がった債務に対処していかなければならず、現金および高格付債からの実質リターンは目先マイナスになることが予想される。

要点:株式の上昇余地に備え、ドイツ株やユーロ圏の資本財などシクリカル(景気に敏感な)銘柄をポートフォリオに追加することを勧める。また、「グリーンリカバリー」の恩恵を受ける銘柄や、スマートモビリティ、メドテックなど欧州の勝ち組セクターも有望とみる。

米ドル安基調で「金」に投資妙味

先週は米ドル指数が5日連続で低下し、月間の値動きとしては2018年1月以来の水準に低下するとみられる。加速する米ドル安の流れは、先週発表されたEUの復興基金案合意によりEUと単一通貨ユーロの持続可能性への信頼感が高まったことも背景にある。米連邦準備理事会(FRB)による金融緩和が続き、他国との金利差が縮小し、11月の米大統領選挙を控えて政治の不透明感も高まる中で、年末まで米ドル安が続くと予想する。米ドル安で最も恩恵を受けるのは英ポンドと金になるとみている。秋にはブレグジットをめぐりEUと英国の将来関係協定が妥結すると予想され、英国の経済見通しの改善により米ドルに対して英ポンドが大幅に上昇すると考えられる。金は9年ぶりの高値を付けたが、なお上昇余地が残されており、我々は9月末の目標値を1オンス=2,000米ドルに引き上げた。

要点:米ドル安が英ポンドと金を下支えする。

テクノロジー銘柄の反発後の戦略

今やS&P500種株価指数の時価総額の22%近くを巨大ハイテク 株5銘柄(Facebook、Apple、Amazon、Microsoft、Alphabet)が占めている。Netflixを含めたFAAMNGは年初来35%近く上昇している(一方、S&P500種の残り494銘柄は4%のマイナス)。いまはこうした勝ち組の一部を切り離すタイミングではないものの、「配分比率に注意し」、必要ならばテクノロジー銘柄へのエクスポージャーのリバランスを行い、特定のテーマやセグメントへの集中投資は避けた方が賢明だと考える。テクノロジーセクターで長期の成長機会を模索している投資家には、投資テーマ「5G」を勧める。5Gテーマではイネーブラー(実現技術関連企業)、プラットフォーマーともに2桁台の成長が見込まれる。さらに、スマートフォン、決済、デジタル広告など他のシクリカル銘柄への分散投資も有効と考える。

要点:米国の巨大ハイテク企業の6銘柄が大幅に上昇したが、今後は「配分比率に注意し」、代替投資先として5Gやデジタルトランスフォーメーションなどの長期トレンドへのリバランスも検討することを勧める。

深読み

新たな景気刺激策が与える影響

欧州連合(EU)は先週の首脳会議で、新型コロナウイルス対策としての7,500億ユーロ規模の復興基金案に合意した。これは、EU加盟27カ国の2019年GDPの5.4%に相当する。米国ではトランプ米政権と上院共和党が先週末、7月末で期限が切れる失業保険加算の延長に「原則合意」した。

目先、世界の景気回復に弾みがつくと考える理由の1つは、世界最大級の経済圏が財政刺激策を継続していることにある。政府による政策支援の拡大は市場に様々な影響を及ぼす。

  1. 財政刺激策に繰延需要とマイナスの実質金利が加わり、株式に一段の上昇余地が生まれるだろう。EUの復興パッケージの内訳は返済不要の補助金(3,900億ユーロ)と貸付(3,600億ユーロ)だが、補助金は当初案の5,000億ユーロを下回った。補助金の割合が予想を下回ったことに失望の声が上がるかもしれないが、大幅に下回るわけではない。重要なのは、EUの首脳陣が加盟国に対して貸付ではなく補助金方式での給付に合意し、初のEU共同債発行に踏み切った点である。これは、EUの財政統合に向けた画期的な一歩になるだろう。今回の動きは欧州連合と単一通貨の持続可能性に対する投資家の信頼度を深め、EUのリスクプレミアムの低下につながると考える。ドイツ株や回復が見込まれるユーロ圏の資本財を含め、株式の上振れに備えたポジション構築を勧める。
  2. ユーロ高は一段の米ドル安予想を裏付ける。財政刺激策の拡大に市場の注目が集まる一方で、感染第2波と米中対立リスクも意識されて欧州株式の先週の終値は前週を下回ったが、ユーロは大幅に上昇する展開となった。7月27日の本稿執筆時点でユーロは対米ドルで前週から2.3%上昇して1.17台で推移する一方、同期間のドル指数(DXY)は2%低下し、年初来の低水準で推移している。パンデミックからの回復について楽観的な見方が広がる中、米ドルは一段安が予想される。米連邦準備理事会(FRB)は主要国の中央銀行の中でも特に金融緩和姿勢を強めており、他国との金利差は縮小しつつある。11月の大統領選を控え、政治的不透明感も米ドルの圧迫要因となるとみている。
  3. 景気回復の過程で勝ち組と負け組が生まれている。EUの復興パッケージでは地球温暖化対策とデジタル化に重点が置かれている。こうした環境対策、デジタル化等の推進による経済復興・回復に充当される資金は6,725億ユーロと、当初提案された5,600億ユーロから増額された。欧州委員会は今後数年間で地球温暖化対策とデジタルテクノロジー分野だけで1.5兆ユーロの投資が必要になると推定している。復興基金により公共投資だけでなく民間部門によるこうした分野への投資も促進されることが期待されている。「グリーンリカバリー」が復興の中心に据えられたことは、サステナビリティ関連が今回の回復の勝ち組になるという我々の見解を裏付けている。特に欧州では、スマートモビリティ、医療テクノロジー(メドテック)、オートメーション、ロボティクスなどデジタル・トランスフォーメーションの恩恵を受ける分野も勝ち組になるとみている。
  4. コロナ後の世界は債務が増大する。財政刺激策が各国の債務水準を押し上げている。英国統計局が先週発表した4-6月期(第2四半期)の公的債務はGDP比99.6%(前年同期比19ポイント増)に達し、1961年以来の高水準となった。国際金融協会によると、世界全体の債務残高はGDP比で2019年第4四半期の320%から2020年第2四半期末は331%へと過去最大に膨れ上がっている。拡大した債務負担に対処するため、今後も金融抑圧が継続され、各国中央銀行は緩やかなインフレ率(2~5%)を容認すると予想される。その結果、目先は現金と高格付債の実質リターンがマイナスに陥るとみられるため、市場では利回り追求の動きが強まり、高利回りの債券セクターやインカムを創出する株式に注目が集まるだろう。

House View レポートの紹介


資産運用はUBS証券へ

UBSウェルス・マネジメントでは、富裕層のお客様の資産管理・運用を総合的にサポートしております。日本においては、2億円相当額以上の金融資産をお預け入れくださる方を対象とさせていただいております。

(受付時間:平日9時~17時)