株式相場がこの1カ月で上昇したのは、アイオワ州マスカティーン*近くの凍えそうな農場で、習近平中国国家主席がトランプ大統領と会談し、米国産大豆購入という400億米ドルの小切手を携え全世界のメディアの前でポーズを取るといったシーンを多くの投資家が期待しているからだ。

マスカティーンへの曲りくねった道

* 習国家主席は1985年に、中国代表団の一員として、マスカティーンに滞在した。

しかし、こうしたイメージが現実になるとは我々は考えていない。現時点では、通商交渉担当者ですら、トランプ大統領が12月15日の追加関税が予定通り実施するのかどうか分かっておらず、ナバロ大統領補佐官(通商製造政策局長)は、交渉の現状について冷水を浴びせた。しかし、この1カ月で、両国が合意に達するのではないかとの明確な兆候が現れてきた。

第1に、中国は合意の一環としてこれまでに課してきた関税の部分的撤回を受け入れる意欲を示している。第2に、両国とも交渉の複雑化を防ぐため、合意内容のコンパートメント化(合意内容を区別し、それぞれの合意内容が他の合意内容に影響を及ぼさないようにする)を受け入れる用意があるようだ。第3に、来年の米大統領選挙を控え、トランプ大統領には貿易に関する「勝利宣言」をしてほしいとの政治的圧力が高まっている。ケンタッキー、バージニア、ミシシッピ各州の最近の選挙で民主党が勢力を伸ばして注目が集まっているだけになおさらだ。このため、米中通商協議が完全に決裂するよりも、「関税の部分的撤回」の可能性が高くなっている。よって、関税をめぐる相場上昇・下落のリスクは、先月よりも均衡が取れている。

一方、米国では、利下げ(短期金利の引き下げ)やマクロ経済データの安定化の兆しによりイールドカーブが傾斜化したため、世界中のメディアが取り挙げていた長短金利逆転からの景気後退懸念は後退した。

業績発表シーズンがほぼ終了し、企業の増益予想は下方修正され、景気指標には底打ちの兆しが見え、通商協議をめぐるリスクが均衡してきた。よって我々は、追加関税の一部撤回が実現した場合に新興国株式が急反発する可能性を考慮し、同資産クラスのアンダーウェイトを終了した。

にもかかわらず、バランス型のポートフォリオにとっては素晴らしい年となっている昨今、米中通商協議についての追加情報がない状況では、株式市場のさらなる上昇を見越したポジションは取りにくい。そこで、株式全般にはニュートラルの投資スタンスを取り、S&P500種株価指数のヘッジ・ポジションを維持する。リスク資産への戦術的配分については、成長重視から利回り重視への移行を継続する。米ドル建て新興国国債のオーバーウェイトと、豪ドルと台湾ドルに対するインド・ルピーとインドネシア・ルピアのオーバーウェイトは持続するが、欧州投資適格債については、スプレッドの縮小余地がそれほど大きくないと判断し、オーバーウェイトを終了する。その他では、ユーロ圏株式に対する米国株式と日本株式のオーバーウェイトを継続する。

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