Monthly Letter 8月号 無視か、調整か、中止か

米連邦準備理事会(FRB)による利下げは、「日本化」ではないかとの疑問を引き起こす。しかし、市場は各国中央銀行による利下げの程度を過剰に織り込み過ぎているかもしれない。

18 7 2019

無視か、調整か、中止か

アポロ計画は、10年近くにわたる努力の末に、ミッションの最終段階で「無視 か、調整か、中止か」の選択を迫られることになった。ニール・アームストロング とアポロ11号のクルーが月面着陸の準備をしている時、警告音が鳴った。25万 マイル(約40万キロ)離れた宇宙管制センターはこの問題を解析し、警告音を 無視しても差し支えないと判断した。そして50年前の今月、歴史的な月面着陸 が実現したのだ。

2019年前半の市場は、離陸に成功した。グローバル株式と米国株式の上昇率 はそれぞれ15%、17.6%と、1997年以来の高水準を記録した。米投資適格債 のリターンは7%で、米ハイイールド債は10%、欧州の投資適格債とハイイール ド債は1桁台半ば~後半(%)のリターンを実現した。新興国株式のトータルリ ターンは11.7%で、米ドル建て新興国国債は11%だった。よって、バランス型ポ ートフォリオは、1998年以来で上期としては最高のリターンを記録したといっ てよいだろう。しかし、今は複数の警告音が鳴り響いている。

第1に、長期期待金利が劇的に低下している。先進諸国では「日本化」が次第に 現実味を帯びてきている。第2に、景気指標にはまだ回復の芽があるにもかか わらず、市場は各国中央銀行の利下げの程度を過剰に織り込んでいる可能性 がある。第3に、米中貿易紛争は一時休戦しているが、幅広い分野での紛争は 続いているように見える。

警報音が鳴り始めると、投資家も無視するか、調整するか、中止する決断をし なければならない。我々は、警報音を無視すべきではないと考えている。しか し、投資を中止することによる長期的な機会費用は高すぎるともみている。中 央銀行が金融緩和バイアスに舵を切ったのは、経済成長を引き続き支えたい との意思表示である。実際には、債券やキャッシュをはじめとする安全資産の リターンが下がって、リスク資産の下支え要因となるだろう。したがって、我々は リスク資産をアンダーウェイトとするのではなく、我々の戦略を調整する。

低金利が長期化する環境は、キャリー取引による金利獲得とインカム収入拡 大戦略の追い風になると我々はみている。したがって、我々の戦術的資産配分 では、一部の新興国通貨、欧州投資適格債、米ドル建て新興国国債のオーバ ーウェイト・ポジションを拡大する。また、グローバル株式のオーバーウェイト と、低利回りの高格付債の大幅なアンダーウェイトを継続する。同時に、中央 銀行の金融緩和政策の効果が不透明で、米中間の貿易紛争が予想外の方向 に動くリスクがあるため、カウンター・シクリカルな(反景気循環的)ポジション も維持する。具体的には、S&P500種株価指数のヘッジ、日本円のオーバーウェ イト、米2年国債のアンダーウェイトや、レラティブ・バリューのポジションなど だ。

低金利の長期化

今月、ドイツ10年国債利回りが史上初めて欧州中央銀行(ECB)の預金金利(現 在は–0.4%)を一時的に下回った。これは超低金利がまだしばらく続くと市場が 予測していることを示している。利回りがマイナス圏に入っている国債残高が世 界中でおよそ11兆7,000億米ドルと過去最高水準に達している(図表1参照)。 市場は、今後10年間のユーロ圏の平均年率インフレ率をおよそ1.1%と織り込 み、ECBは2%の目標インフレ率の達成に失敗し続けることを示唆している。

かつては、一時的な循環的現象と思われていたものが、いまや次第に構造的な 現象に見えるようになってきた。この低成長率、低インフレ率、低利回りの組み 合わせは、1980年代末に資産バブルがはじけた後の日本に似ている。



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