低金利の長期化は示唆されるも、景気後退懸念は行き過ぎ

今週の要点

1. 対中関税の一部延期でも、貿易紛争が再度休戦入りするわけではない

トランプ米政権は、中国からの輸入品約3,000億ドル相当に9月1日から課す 予定の10%の関税について、一部品目への発動を延期すると発表した。し かし、残りの品目についても12月には実施される予定である。これは、一 時的な棚上げであり、米中が今年6月に合意した休戦状態に再び戻るわけ ではない。トランプ米大統領はこれまで、発表した追加関税については、先延 ばしすることはあっても、撤回したことはない。加えて、中国側も、関税が延 期されても対米報復措置を控えることはないとの姿勢を示唆しており、我々 の基本シナリオで想定している通り、年末までには3,000億米ドルにのぼる 中国からの輸入品に10%の関税が発動される様相が濃くなっている。もっ とも、米国経済への影響は対応可能と我々はみており、来年の米GDP成長 率は0.25ポイント程度押し下げられるにとどまるだろう。現時点で、2020年の 米成長率は1.8%と予想する。今回の対中追加関税の一部先送りは、トラ ンプ政権が貿易紛争による経済的リスクを警戒しているという我々の見方を 裏付けるものであり、中国からのすべての輸入品に対する関税が25%に引 き上げられる可能性は依然として低い。

要点:我々は、戦術的資産配分において、リスク資産とキャリー取引のポジ ションを維持しつつ、下方プロテクションを講じて、貿易摩擦の激化を含めた テールリスクに備える。

2. 逆イールドは景気後退のサインとの見方は時期尚早

米債券市場では先週、10年債の利回りが一時、世界金融危機以降初めて2 年債を下回り、長短金利の逆転(逆イールド)が起きた。これは景気後退の予 兆とされる現象だが、我々は景気後退懸念は時期尚早と考えている。逆イー ルドの後に必ず景気後退に陥るとは限らず、直近過去10回の逆イールド局 面のうち3回は、その後2年間にわたり経済成長が続いている。逆イールドの 後に景気後退に陥った場合でも、それまでのタイムラグは長く、平均すると21 カ月だが、9~34カ月と幅がある。さらに、逆イールド現象が起きても、それが 株式をすぐに売るタイミングを示唆しているわけではない。1965年以降、 S&P500種株価指数は、2年/10年国債の逆イールドが発生した後の12カ 月で平均8%上昇している。さらに、今回は景気後退入りを示す可能性は一 段と低い。各国中央銀行が保有する大量の債券によって、世界の長期債利 回りが抑えられているからだ。ただし、貿易をめぐる不透明感が長引くなか で、債券市場が世界の経済成長の減速と低金利の長期化を織り込んでいる ことは概ね正しいと考えている。

要点:米連邦準備理事会(FRB)による追加利下げによって、イールドカーブは 順イールドに戻り、12カ月後の2年国債の利回りは1.8%、10年国債については 1.9%を予想している。こうした環境下では、キャリー戦略が有望とみる。

3. 政治の混乱で際立つ分散投資の重要性

英国の欧州連合(EU)からの合意なき離脱リスクやイタリア連立政権の崩壊 危機、アルゼンチンでのポピュリズムの復活等、政局をめぐる警戒感の高ま りで、世界の市場センチメントがさらに悪化している。特に、自国(通貨建て) 資産を好むいわゆる「ホームバイアス」が強い投資家ほど、こうした懸念から 大きな打撃を受けている。イタリアの株式はこの6カ月間、ユーロ圏の株式市 場全般に後れを取り、アルゼンチン・ペソは8月12日にわずか1日で米ドルに 対して14%下落し、過去12カ月では50%下落した。英ポンドは、過去12カ月 における対米ドルでのパフォーマンスが、G10通貨の中で最も悪かった。政 治に起因する市場の低迷は、通常は現地市場に限定され、分散投資によっ て対応できる。アルゼンチンは米ドル建て新興国国債で構成されるJPモルガ ンのEMBIグローバル・ダイバーシファイド指数の2.3%、MSCI EM株式指数の 0.4%を占めるに過ぎない。MSCIオール・カントリー・ワールド株式指数にお けるイタリアの加重は0.7%にとどまっている。

要点:各国固有の事由によるリスクを軽減するため、様々な国・地域に分散 投資することを推奨する。

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