難しい市場に備えるための防衛策

1. 貿易をめぐる政策急変で、株式の短期見通しは不透明感が続く

米国のトランプ大統領は依然として貿易問題に関して気まぐれな態度をみせている。トランプ大統領は、主要7カ国首脳会議(G7サミット)で、中国に対する厳しさが足りなかったことを後悔していると述べたが、その数日後には「中国は取引成立を切望している」と楽観的なコメントを発し、融和的な姿勢を示した。中国からも前向きな発言があり、先週末の市場は上昇した。しかし、発言には緊張緩和の兆しが現れても、貿易紛争に関する先行きは依然として視界不良が続きそうだ。貿易紛争が、金融緩和策以上に、株式市場を揺り動かす材料となっているため、特に戦略的な(長期的な)資産を十分に保有している投資家には、エクスポージャーを大きく追加しないよう推奨する。我々は依然、米国経済は米連邦準備理事会 (FRB) の緩和策と堅調な消費に支えられ、2020年の景気後退を回避できると考えている。しかし、もし米国が中国製品に一律25%の関税を賦課して貿易紛争が一層激化し、トランプ大統領が国家非常事態を宣言して米企業に中国撤退を強制するような事態になった場合、あるいは輸入自動車に追加関税を発動した場合には、見通しはさらに悪化するだろう。当面、先行き不透明感で株価の上昇余地は限られる見通しであることから、我々は、金利収入が見込めるキャリー戦略を推奨する。この戦略は、経済成長の減速に対応した中央銀行の金融緩和策から恩恵を受けるだろう。

要点:現在の環境下では、株式ポジションを新たに取ることは推奨しない。我々は、最近の情勢に鑑み、グローバル株式のオーバーウェイトを終了し、新興国株式をアンダーウェイトとした。これにより、株式全体としてはアンダーウェイトとなった。一方、低金利が長期化する可能性が高いため、株式の代替として、インカムによる収益機会を追求する。

2. 難しい市場に備えるための防衛策

米中貿易紛争の休戦終了により、世界の経済と市場のリスクが高まっている。しかし、安全資産のキャッシュに避難先を求めてしまうと、長期的な資産目標を達成できなくなる可能性がある。そこで、我々は、様々な防衛策を講じながらポートフォリオを維持することで、下落幅を軽減しつつ、引き続き長期リターンの獲得を目指すことを勧める。こうした防衛策には、大きく次のようなアプローチがある。

  1. 低ベータ戦略の魅力が高まっている。特に、継続的に高配当を提供している銘柄は有望である。
  2. ヘッジ:様々な形でヘッジを行うことが可能である。米国の実質金利が低く、株式市場のボラティリティ(変動率)が高い局面では、金もヘッジ手段として有効である。
  3. 長期投資:市場のボラティリティが高い局面では、景気サイクルを超えた長期トレンドに収益機会を見出すことができる。

要点:現在のような不確実性の高い局面でも、キャッシュに逃避せず、防衛的投資戦略を取り入れながらポートフォリオを維持することで、引き続き長期リターンの獲得を目指すことが可能である。

3. テクノロジーのアウトパフォーマンスは終わったのかもしれない

テクノロジーは、今年に入り、米国で最も高いパフォーマンスをあげたセクターであり、S&P500種株価指数全体の年初来上昇率が16.7%であるのに対し、同セクターは28%上昇している。しかし、このパフォーマンスの勢いにも陰りが見えているようだ。テクノロジー・セクターは、関税率の引き上げにより、直接・間接問わず、大きな影響を受けている。ITセクターのS&P500種に対する過去1年間のベータ値は1.36と、全セクター中で最も高い。また、中国にエクスポージャーのある銘柄群に対する相関性も39%と、鉱工業セクターに次いで2位である。同セクターは、米国の直近の対中制裁関税からも、打撃を受けるだろう。今回は、スマートフォンや家電など、これまで課税対象外とされてきた消費財が中心となっており、米国のテクノロジー・セクターの45%近くを占めるテクノロジー・ハードウェアや半導体企業にとって懸念材料となる。世界的に見ると、ITセクターの12カ月予想株価収益率(PER)は、1998~2003年のIT(ドットコム)バブル期を除いた過去25年間のレンジの上限まで上昇している。

要点:貿易摩擦をめぐる不確実性の高まりを踏まえ、我々は、株式セクター戦略において、小幅な景気循環バイアスから、ディフェンシブ寄りのスタンスに変更した。この変更に伴い、テクノロジー・セクターの評価を、ニュートラルから小幅アンダーウェイトに引き下げた。

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