• 「市場はいまグリーンバブルなのか?」と、最近よく聞かれる。確かに、一部の銘柄は、利益が出ていないのにバリュエーションに割高感が見られ、バブルの様相を呈していると言えるかもしれない。だが、グリーンテック関連企業がすべてバブルというわけではない。
  •  グリーンテックの投資機会は、急成長している専業企業にだけ存在するわけではない。グリーンテック市場にはまだ大きな成長機会が残されており、特に、「クリーンエネルギー」「スマートモビリティと電気自動車(EV)」「エネルギー効率」「半導体」の4つの分野が有望と考える。
  • リスク許容度が高い長期投資家にとって、足元の株価下落とボラティリティは投資を始める好機となるだろう。高い利益成長見通しと確立されたビジネスモデルを兼ね備えた銘柄を中心に、グローバルに分散投資することを勧める。
  • サプライチェーン企業(資材メーカー、機器・装置サプライヤー等)や、複数の最終市場を持つイネーブリング(支援)技術企業への投資を勧める。

政策面での追い風にもかかわらず株価は下落

グリーンテック市場がバブルかどうかを判断するために、まず足元のバリュエーションをもたらした事象を時系列に振り返ってみたい。昨年の米大統領選では、バイデン氏の勝利確率が上昇するにつれて民主党が上下両院を制する「ブルーウェーブ」に対する期待が高まり、それに合わせて米クリーンエネルギー関連のバリュエーションが上昇した。市場は、バリュエーションに織り込まれた高い期待に応えられるだけの気候変動政策が打ち出されるのか注視してきたが、バイデン政権はこれまでのところ、環境対策を明確に政策の中心課題と位置づけている。利益と市場シェアを順調に伸ばしてきた環境関連銘柄だが、トランプ前政権の環境規制緩和から規制強化へと方針が転換され、政策面で後押しが見込まれ始めたタイミングで、直近の株価下落に見舞われた。しかし、こうした足元の下落局面は、長期での投資を始める好機と捉えることができる。投資アプローチとしては、割高感の強い「環境」専業銘柄に集中投資するよりも、さまざまな業種や地域に幅広く分散したうえで銘柄を厳選して投資するスタイルを勧めたい。例えば、排出規制の強化はエネルギー効率企業に追い風となるだろう。環境コンサルティングサービスを提供するような一部のインフラ企業も、インフラ整備法案が可決されれば恩恵を受けるだろう。また、クリーンエネルギーと電気自動車(EV)銘柄の中にも魅力的な機会はまだ見出せると考える。

バイデン政権はすでに成長期待に応えている

バイデン政権は、発足当初から気候変動対策の重視姿勢を強調し、バブルが警戒されるEV車と再生可能エネルギーの分野では、すでに数々の具体的な施策が導入されている。

バイデン大統領は就任からわずか数週間後に、連邦政府が保有する車両を電気自動車に切り替える方針を発表した。米郵便公社は、最大16万5,000台の車両を電気自動車や環境性能に優れた次世代車両に置き換える10年契約の締結を発表している。また、米クリーンエネルギー大手はスクールバス運営会社と提携し、米国全土のスクールバスのEV化を進める計画だ。さらに、メリーランド州モンゴメリー郡は先日、スクールバスのEV化に向けた大型の地方債発行を発表した。モンゴメリー郡は16年契約を締結し、今後20年で1,422台のスクールバスをすべてEV化する。

政府による政策支援と環境対策投資に加え、企業側も再生可能エネルギーへの移行に本格的に乗り出し、関連投資を加速している。原油価格は上昇する一方、クリーンエネルギーの経済性が一層改善していることから、世界の主要企業の多くは、よりクリーンなエネルギー源への投資に注力している。こうした産業界の取り組みは、政策に頼らずとも、再生可能エネルギーへの需要を下支えするだろう。

とはいえ、チューリップはバラにあらず

しかし、クリーンエネルギー市場では企業間の格差が著しい。安定的で多角化されたビジネスモデルを擁する大型株から、IPO(新規株式公開)を実施したばかりで利益がほぼマイナスの中小専業企業までばらつきが大きい。指数からこれを読み取るのは難しいが、「S&Pグローバル・クリーンエネルギー指数」と「ナスダックOMXクリーンエッジ・スマートグリッド・インフラストラクチャー指数」の株価収益率(PER)を例に挙げると、どちらも割安感はなく、再生可能エネルギー企業を組み入れているが、前者はクリーンエネルギー企業とその技術提供企業が多く、後者はスマートグリッドのインフラにより特化しており、サブセクター間でバリュエーションに開きがある。

また、サプライチェーンの同じ段階であっても、企業によって利益と成長見通しは大きく異なる。例えば、水素燃料電池部品メーカーの中には、株価が安値圏から一気に上昇している銘柄もあるが、利益率が安定している工業用ガス大手で構成されるS&P500種工業用ガス(サブセクター)指数は、直近12カ月においてS&P500種株価指数をアンダーパフォームしている。工業用ガス企業は水素サプライチェーンの重要な部分を担っているにもかかわらず、株価は市場全体に劣後している。同様に、EVおよび充電インフラ関連の中には株価が1,000%も上昇している銘柄があるのに対して、企業規模や多角化の点でまさる電子部品メーカーの株価は、緩やかな上昇にとどまっている。

我々はEV市場全体の成長は今後加速すると見込んでいるが、同時に銘柄間の質と生産能力の格差にも注視している。実績のある自動車メーカーであっても予想外のリコールに直面することがあるのだから、EVも当然例外ではない。EVは急速に普及したため、特に実績に乏しい超小型株や非上場企業にとって、リコールは風評や安全性リスクの火種となり、技術力と投資家の忍耐が試されるだろう。

成長率は加速度的に伸びる

では、すべての専業企業が失敗するのかと言えば、必ずしもそうではない。一貫して高い成長目標を達成している専業企業もあれば、提携その他の成長機会に関する報道が好感されて一段高となっている銘柄もある。重要なのは、クリーンエネルギーや電気自動車といった分野では、指数関数的な成長が予想される点だ。

クリーンエネルギー経済への移行については、バイデン大統領をはじめ各国首脳が2050年までに気候中立(温室効果ガス排出実質ゼロ)な経済の実現を目標に掲げている。米国エネルギー情報局によると、2020年時点で米国電力全体に占める再生可能エネルギー源の割合は約20%である。つまり、2050年までにはまだ大幅な伸びしろがある。また、バイデン大統領は2020年の選挙戦で、2030年までに洋上風力発電を2倍にする目標も公約として掲げた。EV市場の見通しについては、こうした野心的な目標に沿って、今後数年にわたり年率25%近くの成長率を示すと我々は予想している。

今後のリスク

どの投資にもリスクはつきものである。昨年、この業界が大幅なアウトパフォームを示し、これまでも高い成長目標のハードルが設定されてきたことを考えれば、尚のことである。そもそも新規参入企業の数を考えると、グリーンテック産業、特にEV業界は競争が過熱しており、最近では巨大IT企業までもが参入に意欲を示している。我々はまた、グリーンテック・サプライチェーンの重要部材である半導体の不足問題も注視している。バイデン政権はこうした重要部材の安定調達を図るため、サプライチェーン(供給網)の見直しを要求しており、米国以外の部品を使用する米国サプライヤーにも影響が及ぶ可能性がある。さらにまた、再生可能エネルギー市場の一部企業は、金利上昇と商品価格の上昇による影響も受けている。しかし、短期的に逆風が吹いたとしても、投資家が成長業種への投資を手控えることはないと考える。ただし、足元のバリュエーションにおいては、慎重な銘柄選定が重要である。

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