本レポート執筆時点(11月4日)で、選挙の勝者が確定するまであと数日かかるかもしれず、訴訟が行われる可能性もあるが、投資家は、バイデン氏が大統領選に勝利し、共和党が上院を、民主党が下院を支配するねじれ議会が維持されるとの結論に達したようだ(11月7日の時点で、バイデン氏は過半数の選挙人を獲得し、勝利宣言をしている。また、上院では2議席が1月の決選投票に持ち込まれる可能性があるため、共和党が上院の過半数を獲得するかどうかも確かではない)。バイデン氏が大統領に就任し、共和党主導の上院が誕生することで、財政支出の規模が小さくなるものの、増税の規模も小さくなり、立法に向けた動きが党派の制約を受ける可能性が高い。

米国株式

S&P500種株価指数は、3日の投票日以降の選挙情勢を受け上昇している。良好な市場の反応は次の3点を反映したためだろう。①これまでのところ市民の暴動が避けられているとの安堵感、②選挙を巡る不確実性が解消され始めたため、投資への参加が再開されたこと、③金利低下を受けて、特に長期グロース銘柄のバリュエーションが高まったこと(訳注:一時的にグロース銘柄へのローテーションを行ったが、その後ワクチン開発における朗報を受け、経済活動再開への期待感が強まり、グロースからバリューへのローテーションが起きている(CIO Alert 11月9日参照))。

以下のセクター別の解説で説明するように、4日にS&P500種は2.2%上昇しているが、市場で最も支配的だったトレンドは、ヘルスケアを除く実質的にほぼすべてのセクター(景気敏感セクターとディフェンシブ・セクターの双方)から長期グロース銘柄へのローテーションだ。この転換は、財政支援策の規模縮小が予想され金利が低下したことによって促された可能性が高い。ヘルスケアに関しては、ヘルスケア政策や薬価が大幅に変更される可能性は低くなったようだ。

全般的には、我々は米国株式について強気を維持しており、ワクチンが来年半ばまでに普及すると予想していることもあって、世界的感染拡大からの回復が今後数カ月に渡って主に市場を牽引する要素であり続けると考えている。それでも選挙結果が確定したとみなされるまでは、短期的に市場の変動は大きくなりうる。短期的な新型コロナの状況と財政支援策のタイミングも市場を動かすだろう。我々は、米国の大型株の中では、一般消費財、金融、ヘルスケア、資本財の各セクターを引き続き推奨する。また、米国の中型株の推奨も維持する。

一般消費財、生活必需品:民主党圧勝のシナリオで予想されていたよりも規模が小さくなろうとも、消費者は財政支援策の恩恵を受けるだろう。金利低下は、住宅やリフォーム関連銘柄を後押しするだろう。法人増税の懸念が弱まったことも国内の収益比率が高い企業にはプラスになる。高所得の消費者は、増税の可能性がかなり低くなったことは朗報だ。全般的に、今回の選挙結果は消費者にとってプラスになりそうだ。

エネルギー:エネルギー銘柄は、積極的なグリーン政策が実施される見通しが弱まった安堵感からやや上昇している。同セクターは、原油価格上昇の恩恵も受けている。セクターの見通しは依然として不透明で、主に原油価格の見通しに関する先行き不透明感が薄れるまで、相場は変動すると予想する。とは言え、バイデン氏勝利とねじれ議会で選挙結果が確定すれば、短期的には相場が一定程度下支えされるだろう。

IT・通信サービス:民主党圧勝シナリオでの財政支援策が実施される可能性がなくなったとみられる中で、IT・通信サービスセクターは主に金利低下の恩恵を受けている。投資家はまた、選挙結果によって景気敏感セクターを押し上げる材料が出ることを期待していたが、それが現れなかったため、再び「避難先」となるグロース銘柄へのローテーションを行っているようだ。IT・通信サービスセクターはまた、法人増税の可能性が弱まったことによる恩恵も受けているかもしれない。さらにねじれ政府が誕生することで、同セクター内の一部の巨大企業の市場支配力を弱める法律が制定される確率が低くなる。だが我々は、こうした法律が制定されるリスクは低いと常に考えていた。

金融:米国の金融にとって、予想される選挙結果は、好悪まちまちからややマイナスとなる。次回の財政支援策は、民主党圧勝シナリオで予想されていたよりも小規模になる可能性が高く、金利への下方圧力になる。そして、銀行株と金利は強い相関関係にある。しかしながら、この影響は、増税の可能性が低くなったことによってやや緩和される。また、上院の共和党支配が続けば、規制強化リスクも幾分和らぐだろう。一方で、我々は今も、バイデン政権が新たな規制当局のトップに、業界に対する規制を厳格に運用する人物を任命すると予想する。

ヘルスケア:バイデン大統領の下でねじれ議会が誕生する選挙結果は、短期的にはヘルスケアセクターにとって最良だと我々は見ている。薬価と医療保険に公的オプションを追加する民主党の積極的な政策は、共和党が過半数を握る上院では可決されそうにない。穏健な薬価法案であれば依然として成立する可能性があるが、医療関連法案で両党が妥協する確率は50%に満たないと我々は見ている。

資本財・素材:全般的に、バイデン氏の勝利とねじれ議会の誕生は、貿易摩擦が緩和され、増税リスクがなくなり、規制強化の程度が小さくなる可能性が高いため、両セクターにとってプラスになる。しかしながら、財政支援策は予想よりも小規模になる可能性が高く、恐らくはこのために4日のパフォーマンスが冴えなかったのだろう。具体的には、鉄道、防衛、廃棄物処理産業は増税の確率が低くなったことによる恩恵を受ける。防衛企業は、防衛費削減のリスクが弱まったことによる恩恵も受けるだろう。冷暖房(空調)設備、建設、建築資材、代替エネルギーへのエクスポージャーを持つ銘柄は、インフラやグリーンテクノロジーへの投資規模が小さくなる点ではマイナスだ。

エネルギーインフラ:民主党が圧勝しなかったことは、エネルギーインフラにとってややプラスである。しかしながら我々は、立法府の支持がなくとも実行できる、大統領令などの規制の優先事項が依然としてリスクであると考えている。広範なエネルギーセクターと同様に、エネルギーインフラのパフォーマンスも、原油価格によって大きく左右されるだろう。

不動産:全般的に、バイデン氏が勝利しても、議会がねじれ状態だと、1031エクスチェンジ(不動産売却益を同種の不動産に投資することで、キャピタルゲイン税を繰延可能になる税制措置)が廃止されるとは思わない。これは不動産市場にとって大いにプラスとなる。高税率州で州・地方税(SALT)控除の上限額が撤廃される可能性は極めて低い。すなわち、これら地域の住宅価値上昇にはつながらない。オポチュニティゾーン・プログラムが大幅に変更されるリスクは低いと見ている。より広く目を向けると、金利の低下は住宅用不動産と商業用不動産の両方にプラスだ。

再生可能エネルギー:再生可能エネルギー銘柄は、民主党圧勝シナリオと積極的なグリーン政策を織り込み、選挙を前に好調なパフォーマンスを見せたが、そのシナリオが実現しそうにないことから、適正なバリュエーションに向けて株価の調整が進むだろう。しかしながら、景気回復は再生可能エネルギーへの転換を推し進め、このトレンドが中長期的に関連銘柄を下支えすることを頭に入れておくことが重要だ。

公益事業:民主党が圧勝しなかったことは公益事業にとって概ね中立的だ。法律制定を通して、連邦政府が環境と再生可能エネルギーインフラの重要政策を推し進める可能性は低くなったようだが、経済的側面と州の命令によって、公益企業による再生可能エネルギーへの投資は継続されると考える。投資家が世界的感染拡大からの回復の継続とワクチン開発成功の見込みに注目する中、公益事業銘柄が市場全般に後れを取る可能性がある。

債券

共和党が上院の過半数を維持する情勢が固まりつつあり、大幅な増税が実施される可能性は低下している。連邦政府の財政支出は減少し、新しい法律の成立には両党間で妥協が必要になるだろう。

米国債:米国債市場のここに来ての動きは、安全資産への逃避ではなく、むしろモメンタムと世論調査に振り回されて慢心しすぎていた市場の調整である。10年国債利回りは、6月の高値である0.95%に達し、5年債/30年債利回り格差は133.5ベーシスポイント(bp)と、2016年11月以来の水準まで急拡大したものの、大規模な財政刺激策の可能性が消えたことから、国債市場はその後急速に値を戻した(利回りが低下した)。現在は10月28日の水準(10年国債利回りが0.78%、5年債/30年債利回り格差は122bp)に戻っている。リスク資産のスプレッドは縮小し、ボラティリティ(変動率)は低下し始めている。今後は新型コロナウイルスのワクチン開発と供給状況が経済動向を左右するだろう。米連邦準備理事会(FRB)が金融政策を据え置き、大規模な景気対策はすでに市場に織り込まれているため、ファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)が強化されれば、米10年国債利回りと期待インフレ率は年末までにいずれも上昇に向かうだろう。

社債:景気回復はクレジットにとって好材料だ。企業のファンダメンタルズは改善するが、各社は財務体質の改善を重視して借り入れには引き続き慎重だろう。低金利が長期化する環境下では、クレジットに対する投資家需要は引き続き強いと思われる。とりわけ債券利回りが世界中で低水準またはマイナスになっている状況を踏まえるとなおさらである。最後に、民主党圧勝の可能性が消えた今、法人税増税が実現する見込みも低下した。法人の負債比率平均が歴史的な高水準にある現在、企業のキャッシュフローの圧迫要因がなくなったことは好材料だ。

各地域の見通し

市場の関心は大半が米国市場への影響に向いているが、今回の選挙は世界中の他の地域にも影響を及ぼす。

アジア太平洋地域:アジア株式には、バイデン氏勝利とねじれ政府が最も理想的な結果と思われる。なぜならバイデン大統領の誕生で外交政策の不透明感が、そしてねじれ議会の成立で増税リスクがいずれも低下するからだ。バイデン氏はねじれ政府になると多くの障害に直面するだろうが、公約のグリーン政策を推し進めれば、中国の太陽光企業と日本の自動車メーカーには追い風となりそうだ。最後に、米国に上場している中国株も、上場廃止のリスクが低下することはプラスだ。バイデン氏が勝利すると、関税を政策ツールとして利用する可能性が低下し、中国人民元にも好材料となるだろう。


欧州:景気刺激策の規模縮小による欧州株への悪影響は、貿易摩擦の緩和によって(資本財、自動車、素材セクターにプラス)相殺される可能性がある。欧州の公益企業と自動車メーカーは、グリーン政策推進の恩恵を受けそうだ。ねじれ議会の下では、ヘルスケア政策が大幅に変更することはないため、ヘルスケア・セクターには安心材料になるだろう。

スイス:貿易摩擦が緩和し、ヘルスケア政策が大幅に変更することがなければ、スイス株式には好材料だ。スイス株価指数は、ヘルスケア・セクターの比重が高く(およそ40%)、さらにスイスは国際貿易と国際サービスへの依存度の高い、輸出主導型の小規模な経済国だ。

新興国市場:ワクチンの実用化への期待と、世界各国で景気支援策が続いていることから、新興国市場の投資基盤は引き続き健全である。米国の対外政策の不透明感も低下して、新興国市場の先行きも明るくなりそうだ。とはいえ、追加経済対策の規模が縮小すると、米国の経済成長に依存している国には重石となる可能性があるとともに、ESG(環境、社会、ガバナンスへの配慮)への関心が今後高まると思われる。つまり人権や環境問題への取り組みが遅れている国は、義務違反を理由に(戦略的結びつきが断絶することはないだろうが)非難にさらされる可能性が高まる。

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