• 今年下期の中国経済は前年同期比5.5~6%成長を予想する。個人消費とサービス業の一段の持ち直し、インフラ投資の拡大、輸出の力強い回復が景気を後押しすると予想する。
  • 10月までは急ペースでの政府債の発行が続く見通しで、信用の伸びは今後数カ月でさらに加速したあと10-12月期(第4四半期)に鈍化すると予想される。通年の信用の伸び率は前年比+13.5%を見込む。
  • 米国による対中非難や、非関税措置が激しさを増しているが、それに対する中国の反応は冷静かつ慎重で、長期的な視点で合意事項の進捗と市場開放を捉えていると我々はみている。一方で中国政府は、「国内大循環」を主体として、国内外の「双循環」を互いに促進する新たな発展モデルの構築を提唱している。

個人消費とサービス業の回復は下期に加速を見込む

今年下期の中国経済は前年同期比5.5~6%成長を予想する。個人消費とサービス業の一段の持ち直し、インフラ投資の拡大、輸出の力強い回復が景気を下支えするだろう。特に、新型コロナウイルスの感染拡大が概ね収束し、ワクチン開発も視野に入ってきたことから、今後数カ月で消費者の景況感が回復し、サービス業と個人消費が加速すると予想する。市場センチメントの安定を背景に、8月の非製造業の購買担当者景気指数(PMI)は55.2と、7月の54.2から上昇した。特に、サービス業PMIは54.3と、2018年1月以来の高水準に回復した。ホテルや国内旅行、ケータリング・セクターの活動が正常化したことが背景にある。

不動産とインフラを中心に固定資産投資が一段と回復: 固定資産投資(FAI)は、1-6月期の前年同期比-3.1 %から1-7月期には同–1.6%へとさらに改善した。月次では、6月の前年同月比+5.4%から7月には+6.0%へと伸び、5カ月連続の加速となった。不動産投資とインフラ投資が回復を牽引した。不動産投資の月次伸び率は、6月の前年同月比+8.4%から7月には+11.6%と加速し、同市場の回復力を示した。しかし、一部の都市で住宅政策が微調整され、不動産開発業者による債券発行ルールも厳格化されたため、今後数カ月は不動産市場の上昇傾向に歯止めがかかるかもしれない。インフラ投資の7月の伸び率は前年同月比+7.9%(6月は同+6.8%)と堅調さを維持した。インフラ部門FAIは、地方政府の特別債発行ペースが8月から再び加速しているため、年末までに前年比+10%程度に達すると予想している。製造業FAIは、6月の前年同月比–3.5%から7月には–3.1%へと改善した。

小売売上高も一層の回復へ:7月の小売売上高の伸び率は6月の前年同月比-1.8%から同-1.1%へとやや改善した。自動車(小売売上高のおよそ11%を占める)は、6月の前年同月比  -8.2%から同+12.3%へと上向いた(ただし、20年6月の減少は、2019年の新排ガス規制導入に備えた在庫調整で2019年6月の販売台数が一時的に増えたことによるマイナスのベース効果によるものである)。一方、自動車を除く小売売上高は、6月の前年同月比–1%から同–2.4%へと全般的に軟化した。これまで好調だった家電、食品、飲料、日用品などは、上期の前年比+10%~20%から、7月は-2~+10%へと失速した。これは6月に実施されたオンライン・ショッピングの一大促進イベント(「618セール」)による前倒し消費の反動によると思われる。オンライン・ショッピングによる物品売上高(物品売上全体のおよそ25%を占める)の伸び率が、6月の前年同月比+25.2%から7月には同+24.5%へ減速したことが、この点を裏付けている。ケータリング・サービスの売上高は6月の前年同月比–15.2%から同–11%へとやや持ち直し、地方のウイルス感染拡大が抑制されて、出遅れていた個人消費が正常化しつつあることを示している。

夏季の洪水被害にもかかわらず、鉱工業生産は安定:7月の鉱工業生産は前年同月比+4.8%と前月から横ばいだった。洪水の影響もあって、月次での伸びは、6月の前月比+1.3%から7月の+0.98%へとやや軟化した。セクター別では、鉱業が前年同月比–2.6%(4.3ポイント減速)、公益事業が+1.7%(3.8ポイント減速)と減速する一方で、製造業は+6%(0.9ポイント加速)と持ち直した。主要なサブセクターでは、自動車、電気機器、ハイテク装置の伸び率が前年比10%超と最も大きく寄与した一方で、電力は6月の前年同月比+6.5%から+1.9%へ、セメントは同+8.4%から+3.6%へとそれぞれ大幅に減速した。中国南部での深刻な洪水が影響した。

輸出は幅広いセクターで堅調:7月の輸出は前年同月比+7.2%とさらに加速し、5カ月連続で事前予想を上回った。ウイルス関連の医療品と電子機器の出荷は引き続き強く、衣料品と農産物輸出も増加した。これは、世界的に(とりわけ先進国で)経済活動が再開する中で、外需が持ち直していることを示唆している。外需がさらに改善すれば、堅調な輸出は今後数カ月続き、他の主要一般品目などにも回復が広がるとみている。ただし、米中間の緊張関係は続いており、米国の大統領選挙を前に輸出が大きく変動することも考えられる。以上を踏まえ、今年下期の輸出は、第1四半期の前年同期比-13.3%、第2四半期の同-0.1%から改善し、1桁の伸びを予想する。

CPIは一時的に若干上昇し、PPIはマイナス幅が縮小:消費者物価指数(CPI)インフレ率は、洪水の影響で食品供給が混乱したことから、6月の前年同月比+2.5%から7月には+2.7%へと若干上昇した。今後洪水の影響が後退し、前年の水準が高かったことによるベース効果も踏まえると、CPIインフレ率は再び鈍化し、通年では+2.5%程度と、政府目標の+3.5%を大幅に下回ると予想する。一方、生産者物価指数(PPI)は、原油および資本財関連のセクターにけん引されて、7月も前年同月比-2.4%と2カ月連続でマイナス幅が狭まった。前年の水準が低かったことによるベース効果と景気回復の継続のおかげで、年末までマイナス幅の縮小は続くだろう。その結果、通年平均はおよそゼロ%(2019年は -0.3%、年初来は-2%)になる可能性がある。

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