• アジア太平洋(APAC)通貨が米ドルに対して中期的に上昇するという見方を維持する。我々の基本シナリオでは、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大は年央に向けて収束に向かうと予想しており、投資家は収束後の景気回復に注目するとみている。
  • APAC通貨は下落したが、新型コロナウイルスと景気へのリスクを鑑みても、いずれ上昇に向かうとみている。しかし、金融市場と通貨市場が織り込んでいない一定のテールリスク(確率は低いものの、発生すると巨大な損失をもたらすリスク)は残る。
  • 景気に敏感なAPAC通貨(韓国ウォンおよび人民元)の米ドルに対するオーバーウェイト、および米ドルに対する高利回りアジア通貨バスケット(インド・ルピー、インドネシア・ルピア、フィリピン・ペソ、マレーシア・リンギット)のオーバーウェイトをそれぞれ推奨する。

APAC通貨は新型コロナウイルスの集団感染にすぐに反応した

1月中旬以降新型コロナウイルスの感染拡大によりAPAC通貨の上昇傾向が止まり、1月15日の米中貿易協定の第1段階合意署名への注目が薄まった。この時点でのAPAC通貨の下落の程度はまちまちであった。人民元は米ドルに対して2%以上下落したが、中国が新型コロナウイルスの震源地であることを考慮すると当然と言えよう。しかし、APAC通貨の中には中国の下落率を上回る通貨も出てきた。鉄鉱石や世界の乳製品の価格下落が重石となり、豪ドルやニュージーランド・ドルなどコモディティ関連通貨は4%近く下落した。シンガポール・ドル(域内の交通ハブ)、韓国ウォン(リスクセンチメントに対する感応度が高い)、タイ・バーツ(中国からの旅行者数が多い)も2020年1月中旬以降3~4%急落した。一方、内需が強い国は軟調な海外需要に対して抵抗力があり、直近の下落局面ではフィリピン・ペソ、インド・ルピー、インドネシア・ルピア等の通貨は米ドルに対して僅かな下落に留まった。

APACのGDP成長率予想を下方修正したが、1-3月期には底打ちを見込む

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、我々は2020年のアジア(除く日本、豪州、ニュージーランド)のGDP成長率予想を5.4%から5.0%に引き下げた。基本シナリオでは、新型コロナウイルスは年央に向けて収束に向かうとし、経済への悪影響は年前半に限定され、年後半に向けて成長率が回復すると予想する。域内では、中国(6.0%から5.4%へ)や貿易・観光の影響が大きい香港(-0.5%から-1.8%へ)、タイ(2.6%から1.8%へ)、シンガポール(1.0%から0.3%へ)の年間成長率予想を大きく引き下げた。一方、インドネシア(5.0%から4.8%へ)、フィリピン(6.1%から5.9%へ)、インド(5.7%で変更なし)など内需主導の国は、外需軟化の影響を受けにくいことから成長率予想の下げ幅を小幅に留めた。もちろん新型コロナウイルスの状況は極めて流動的であり、感染拡大が第2四半期まで長引くと、APACの成長率と通貨に関する我々の基本シナリオの前提が崩れ、下方リスクが高まる。

APAC通貨は今年後半に反発すると予想

成長率予想の引き下げは、新型コロナウイルスによる急激な影響により第1四半期成長率が大幅に押し下げられるとの見通しが主な要因であり、第2四半期以降は徐々に回復すると予想される。我々は特に2020年後半以降の回復見通しを根拠に、APAC通貨に対して楽観的な見方を維持し、現行の為替水準からの下落幅を限定的と予想している。確かに、アジア通貨は、第1四半期GDP成長率の大幅低下を見込んで、すでに1月中旬以降下落している。

こうした景気動向を踏まえ、我々はAPAC通貨予想に対して若干の修正を行った。主に下方修正したのは新型コロナウイルスによる経済的な影響が大きいと予想されるシンガポール・ドルとタイ・バーツである。他のアジア通貨についてはさほど大きな変更はない。2020年6月末(予想期間の中で最短)までには新型コロナウイルスに対する懸念は後退するとみており、繰越需要などにより経済活動の回復が確認されるようになると考える。

我々のAPAC通貨の楽観的な見方に対しての最大のリスクは、予想に反して新型コロナウイルスの感染拡大が第2四半期、さらに第3四半期まで続くことである。そうしたリスクシナリオの下では、多くのAPAC諸国が景気後退(2四半期連続で前期比マイナス成長)入りし、各国の政策当局は財政・金融政策を組み合わせた景気支援を強化する必要が出てくる。もしそうなれば、APAC通貨全般に対して米ドルが上昇する可能性がある。

テールリスク・シナリオを除くと、APAC通貨にとって2020年のグローバル・マクロ環境はプラス材料になると考える。米中貿易問題は、今後数四半期にわたり落ち着いた状態が続くものと予想する。米中経済が減速し、加えて今年秋には米大統領選挙も控えていることから、友好的なアプローチをとることは両国の利益にかなうと考える。米国の金融政策については、米連邦準備理事会(FRB)が直近の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合で、長期にわたり物価が目標を下回り続けていることに満足していないことを強調し、ハト派姿勢を強めた。

推奨するAPAC通貨投資戦略

景気サイクルに敏感な通貨のバスケット:人民元、韓国ウォン(均等に加重)を対米ドルでオーバーウェイトにする。1月中旬以降、人民元および韓国ウォンは米ドルに対して大きく下落した。両通貨は2020年末までに各々6.7元、1,100ウォンに向けて回復すると見込んでおり、いまがポジションを積み増す魅力的な機会と考える。新型コロナウイルスの感染拡大により域内の景気回復が遅れる可能性はあるが、2020年第1四半期に感染拡大がピークとなれば、その後アジア通貨は反発するとみている。

キャリー収入を目的とした通貨バスケット:インド・ルピー、インドネシア・ルピア、フィリピン・ペソ、マレーシア・リンギット(均等に加重)を対米ドルでオーバーウェイトにする。高利回りのアジア通貨は、特に低成長、低利回りの環境下では、投資家にとって引き続き魅力度が高いと考える。同通貨バスケットへの投資により、米ドルよりも年率で2.5%高い利回りと、今後12カ月でスポットレートの約2%上昇が期待される。

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