世界貿易:転換点を上手く乗り切る
  • トランプ米大統領が中国からの輸入品に対して追加関税の発動を決定したことから、足元で米中間の緊張が再び高まっている。
  • 我々の基本シナリオでは、トランプ政権は直近表明した追加関税を発動すると予想しているが、これにより、今後12カ月で、米経済成長率は約0.3%ポイント押し下げられると見込む。下振れシナリオでは、中国の影響力の大きい製品への関税引き上げや輸入自動車に対する関税賦課等、米国の追加制裁の結果、景気後退リスクが急速に高まると想定している。
  • 米国の景気後退は差し迫ってはいないが、明らかに下振れリスクの方が高まっている。よって、我々は株式のエクスポージャーを減らし、株式全体としてはアンダーウェイトに変更した。一方、金利は長期にわたり低位で推移するとみており、インカム向上の機会を追求する。

この数週間にわたり、米中貿易紛争は、相次ぐ報復措置、強気の発言、そして姿勢転換と、目まぐるしい展開をみせてきた。トランプ大統領は中国製品への関税を更に引き上げなかったことを後悔したが、その数日後には、貿易協議の進展に再び期待を示した(図表1参照)。米中貿易紛争の今後の展開を予想することは困難であるが、全体としては、両国の緊張関係は今後も続き、現在表明されている追加関税は発動されると予想する。今後6カ月から12カ月の間に事態が悪化する可能性も否定できない。

金融市場は、ここ最近の貿易紛争の動きに大きく影響を受けてきた。8月はVIX指数(市場リスクと投資家センチメントの指標)が2018年末の水準まで大きく上昇し、不安心理の高まりが示唆された。その間、債券利回りは大幅に低下し、金融危機以降で初めて、米国の10年国債利回りが2年国債利回りを下回る逆イールド現象が発生した。これは、過去の事例では、景気後退の予兆と解釈されてきた動きである。

このようにリスクは高まりつつあるが、我々は依然として、米国経済の2020年の景気後退入りは回避されるものとみている。しかし、金融政策よりも、貿易に関する報道の方が、市場への影響が次第に大きくなりつつあることは確かである。よって、貿易紛争の先行き不透明感を踏まえ、株式についてはエクスポージャーを抑制することを勧める。戦術的資産配分においては、株式を全体としてはややアンダーウェイトとし、低成長の環境下、中央銀行の緩和政策の恩恵を受けるキャリー戦略で金利収入を狙う。

追加関税により緊張が高まる

トランプ大統領は8月第1週、関税対象となっていなかった3,000億米ドル相当の中国製品に10%の追加関税を課すことを決定し、6月の20カ国・地域(G20)首脳会議の際に合意した一時休戦は終わりを迎えた。これ以降、両国の間では、緊張緩和と報復合戦が目まぐるしく繰り広げられた(図表1参照)。そして米国がすでに関税対象となっていた2,500億米ドル相当の中国製品への関税率を25%から30%に引き上げる方針を示唆している。このように報復ペースが速まっていること、(制裁関税の上限とみなされていた)25%を超える関税引き上げを表明したことで、対立の一段の激化が鮮明になった。

中国政府も5月の米中協議の決裂以降、中国側による一方的な譲歩をすることをせず、貿易紛争が解決しても米国との対立が緩和することはないと考えるようだ。両国の対立は、貿易の範疇をはるかに超え、技術覇権や地政学的優位等、他の領域にも広がりを見せつつある。

現在9月上旬に予定されている米中通商協議は、予定通り実施されるとみている(訳注:中国政府は5日、今月に予定していた閣僚級協議を10月初めに先送りすることで米国側と一致したと発表)。両国は協議を再開すると見込まれるが、直近の関税引き上げにより、世界経済の落ち込みが一時的では済まなくなってしまった可能性が高まったと考える。

米中貿易に関するUBS CIOシナリオ

Global risk radar
*中国のGDP成長率への影響は、政府の景気対策による効果を考慮に入れている。 出所: UBS、2019年8月30日現在

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