米中貿易紛争が再燃
  • 我々は米中貿易摩擦に関する基本シナリオを変更し、米国が3,000億米ドル相当の中国からの輸入品に10%の追加関税を9月1日に発動すると予想する。この展開により、米中の貿易摩擦はややエスカレートするだろう。貿易紛争が激化し、世界経済の成長を脅かす確率は30%と予想する。貿易摩擦が緩和されれば、上振れシナリオが浮上してくる。
  • 今後の注目点は、1) 10%の追加関税が9月1日に発動されるかどうか、2) 中国がどのような報復措置に出るか、そして3) 米連邦公開市場委員会(FOMC)が9月17-18日の次回会合で、市場の期待通りに追加利下げに踏み切るかどうかである。
  • 現時点での環境は、リスク資産にとって、対応可能ではあるが難しい状況であると考える。戦術的にはポートフォリオのインカム向上が狙えるキャリー取引を引き続き推奨する。

トランプ米大統領は8月1日、3,000億米ドル相当の中国製品に10%の追加関税を9月1日に発動すると表明した。中国はこれに対抗して米農産品の輸入を一時停止すると発表。人民元は急落し、米財務省は中国を「為替操作国」に認定した。

今回の急展開で、トランプ大統領と中国の習近平国家主席が6月の大阪での20カ国・地域(G20)首脳会議の際に合意した「一時休戦」は破られる形となった。

世界の金融市場にも動揺が広がった。米国株式は発表後5日間で4.5%下落。米10年債は1.7%を下回り、2016年以来の低水準となった。中国株式は8%を超える下げとなり、人民元は防衛ラインの1米ドル=7人民元を突破した。

米中貿易摩擦の再燃は我々が想定していた展開ではなかったが、リスクシナリオとして35%の確率で起こり得ると予想していた (6月20日付レポート「G20サミットに寄せられる期待」参照)。そこで、我々は今回の動きを踏まえて基本シナリオを変更し、10%の追加関税が公表どおり9月1日に発動されると予想する。また、中国からも何らかの報復措置が発表される公算が大きいとみる。両国の報復合戦は長期化の様相をみせているが、貿易紛争がさらに深刻化し、米国が中国からの全製品に一律25%の追加関税が課す可能性は、現時点では30%にとどまると予想する。

交渉に進展があれば上振れリスクとなるが、その確率は20%にとどまると予想する。この上振れシナリオには今回、10%関税が9月1日までに撤回される可能性と、その後に貿易摩擦がさらに緩和される見通しも含む。

米中通商協議の先行き不透明感により、リスク資産にとっては難しい環境が続く。しかし、金融市場にメルトダウンが迫っているとは考えにくい。中央銀行による緩和策が下支えとして機能すると思われるからだ。こうした環境下では、低利回り通貨バスケットに対する一部の高利回り新興国通貨バスケットのオーバーウェイトなど、キャリー取引が有望と考える。

米中貿易に関するUBS CIOのシナリオ

米中貿易に関するUBS CIOのシナリオ

不確実性を捉える

米中貿易紛争の荒波の中で投資を進めていくには、次のようないくつかの問いを検討する必要がある。まず第1に、トランプ大統領の強硬的な対中通商政策は、本当に米国に利益をもたらす協議合意を目指すものなのか、それとも経済大国である中国との長期的な覇権争いの一環なのか?第2に、トランプ政権は、米景気の減速を招きかねない中で、米連邦準備理事会(FRB)の下支えがないまま中国との対立をエスカレートさせるつもりなのか?第3に、中国政府は、米国が仕掛けたエスカレーションへの報復措置としてどのような対抗手段を講じてくるだろうか?そして最後に、FRBは、足元の市場の動きと政治リスクの高まりにより、追加利下げを余儀なくされるだろうか?

これらの問いに答えるため、6-12カ月の戦術的投資期間における3つの主要シナリオを以下に示す。

図表2:米中貿易をめぐるシナリオ・ツリー

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