新型肺炎、WHOが緊急事態宣言

世界保健機関(WHO)は30日、中国で発生した新型コロナウイルスによる肺炎について、「国際的な公衆衛生の緊急事態」と宣言した。中国以外にも感染者数が拡大している事態を受けて、国際的な対応が必要と判断した。

金融市場、特にアジア市場はここ数日の感染拡大報道を受け下落している。1月半ばに付けたピークからは、中国株式市場で6.7%、日本市場は2.4%、台湾市場は6.7%それぞれ下落した。中国株式は春節連休明けに市場が取引を再開するため、さらに下落する可能性もある。アジア市場に比べると世界市場の反応はこれまでのところ限定的だ。米国株式は2.1%、ユーロ圏株式は1.5%の下落にとどまっている。一方、債券相場は大幅上昇し、米国10年国債の利回りは30ベーシスポイント(bp)以上低下した。

我々の基本シナリオとしては、新型ウイルスの感染拡大は世界経済の減速にはつながらないと予想している。よって、リスク資産は今後6カ月間、十分に下支えされるだろう。中国政府は移動制限や感染者の隔離などの強硬な感染封じ込め策に踏み切っている。中国以外の国でも航空機の運航停止や入国者の検疫などの予防的措置が講じられており、これらの対策が最終的に奏功するとみている。こうした措置により、消費者需要が低下し、サプライチェーンも混乱が予想されることから、一時的には景気に影響が及ぶだろう。しかし、感染封じ込めが成功すると想定した場合、一時的に控えていた消費者の需要が一気に回復し、政府による景気刺激策も見込まれることから、経済成長は一時落ち込んでも数四半期後には上向くと予想する。これらの状況を踏まえ、我々は、中国の2020年の成長率は最大5.5%まで低下する可能性があり(従来予想値は6.0%)、それに伴いアジア(日本を除く)企業の増益率も2~3ポイント程度押し下げられる可能性があると予想する。

我々の見解に対するリスク

  1. 感染封じ込め策が予想したほど早く効果をみせない。ウイルスの感染が急激に拡大していることから、経済全体への影響は数週間あるいは数日単位で様相が大きく変わる可能性がある。さらに、供給側が受ける影響の程度は中国の工場の操業停止期間がどの程度長引くかによる。我々は武漢市で移動制限が講じられてから2週間超となる来週末まで、一日あたりの新規感染者数に安定化または減少の兆しがないか注視していく。潜伏期間が2~10日程度とみられることから、来週末までには移動制限の効果が表れると見込む。
  2. 新型コロナウイルスの毒性や感染力が予想よりも強いことが判明する。現在までのところ、多少の例外を除き、ウイルスの感染は概ね中国国内に封じ込められている。もしウイルスが欧州や米国でも加速度的に広がり始めた場合、政府がウイルス拡散防止を強化する可能性が高まり、世界的な景気の腰折れ懸念が強まる。また感染から死亡が確認されるまでに時間的な遅れが生じるため、致死率は現時点ではあまり高くないが、今後、時間の経過とともに致死率が上昇する可能性がないかも注視していく必要がある。
  3. ウイルスへの感染不安により個人消費が急激に失速する。現在、世界経済の規模からみると感染者数は非常に少数にとどまっているが、今後感染不安が広がれば個人消費活動が急激に減速するおそれがある。現時点では感染不安は中国と近隣諸国内に抑え込まれており、欧州や米国の消費には大きく影響していない。こうした不安の影響を見極めるため、我々は今後も小売売上高や消費者センチメント指標に注目していく。

投資家はどう対応すべきか?

新型コロナウイルスに対する投資家の対応策は3つ挙げられる。第1に、中国からの観光客に関連する企業など、新型ウイルスへの感応度が市場で最も高いセクターや銘柄の保有を抑える。第2に、優良な高配当銘柄のような景気変動の影響を受けにくい銘柄群を増やす。第3に、最近の相場下落を、長期的な投資対象を安値で購入できる投資機会と捉えることだ。

短期的な投資スタンス:

ウイルス拡散で打撃を受けそうなアジア企業を避ける

短期的に利益が急速に落ち込み、バリュエーションが低下しやすい企業は、低調なパフォーマンスが当面続くと考える。航空会社、ホテル、カジノ、その他の旅行関連セグメント、および一部の個人消費関連セクターなどだ。

「自宅待機」の恩恵を受ける銘柄に投資する

コロナウイルスに関する不安から、アジア地域では旅行機運が低下し、人々は自宅待機を選択している。その結果、ゲームやEコマース、フード・デリバリー(出前)関連企業など、オンライン・サービス関連の企業が恩恵を被るだろう。

高配当銘柄

現在のような環境では、キャッシュフローが潤沢で高配当利回りを提供できる銘柄が景気変動の影響を受けにくく、景気敏感セクターの比重が大きい投資家に優れた分散投資効果をもたらすと考える。2020年に入ってからの債券利回りの急低下も、高配当銘柄の魅力を高めている。

インド・ルピー、インドネシア・ルピア、ブラジル・レアルを推奨し、タイ・バーツを避ける

通貨戦略では、インド・ルピー、インドネシア・ルピア、ブラジル・レアルの通貨バスケットをオーバーウェイトとする。低利回り環境のなか、高利回りの新興国通貨バスケットには、投資資金の流入が続くだろう。また、インド、インドネシア、ブラジルは中国からの旅行者数がそれほど多くない。同通貨バスケットに対し、台湾ドル、豪ドル、スウェーデン・クローナをアンダーウェイトとする。なお、スイス・フランと日本円を調達通貨にすることは推奨しない。状況が悪化すると安全通貨と見なされて両通貨に資金が流入し上昇する可能性が高いからだ。今年に入ってから、金は不透明感に対するヘッジ資産としての価値を見せつけているが、スイス・フランと日本円もそのようなヘッジ資産として保有することもできる。

一方、タイ・バーツは中国からの観光客減少の影響を受けやすい。タイの国内総生産(GDP)のおよそ11%が観光業で、その25~30%が大陸中国からの観光客だ。

長期的な投資スタンス:

日本を除くアジア株式

日本を除くアジア株式のバリュエーションは過去平均を下回っている。新型コロナウイルスの影響は短期間で収束するという我々の基本シナリオが正しい場合、今回の下落は企業の増益率が最も高いアジア株式を割安で買える絶好の機会になるかもしれない。日本を除くアジア株式は現在、グローバル市場に対して35%割安と、過去平均の23%を大幅に下回る水準で取引されている。中国市場が再開すると、これがさらに広がる可能性がある。


新興国株式

戦術的資産配分では、新興国株式をオーバーウェイトとしており、新型コロナウイルスで足元下落したが、この見解を変更しない。その理由は第1に、現在、新興国の経済成長率が先進国を上回っているが、今後はこの格差の広がりが予想されるからだ。第2に、株価バリュエーションで見ると新興国は先進国よりも割安水準にある。最後に、来る「変革の10年」で確認できる最大の長期トレンドは、新興国で実現すると考えるからだ。

長期の投資テーマ

最近の相場変動は、ヘルスケアなどの長期の投資テーマに投資家が資産の一部をシフトさせる機会を提供している。今回の危機が過ぎた後でも、世界的な人口の高齢化、ヘルステックの発展、および遺伝子治療の最近の進歩は、いずれも長期的にポートフォリオの成長を目指している投資家にとっては長期投資の機会となる。ヘルスケア・セクターは、新型コロナウイルスをめぐり短期的に相場が変動しても、比較的堅調に推移すると予想する。

House View レポートの紹介



資産運用はUBS証券へ

UBSウェルス・マネジメントでは、富裕層のお客様の資産管理・運用を総合的にサポートしております。日本においては、2億円相当額以上の金融資産をお預け入れくださる方を対象とさせていただいております。

(受付時間:平日9時~17時)