過去を振り返っても、相場の乱高下が際立って激しかったと言える10日間を終え、米国株式は過去最高値を12%下回る水準となり、米国債利回りは過去最低となり、米ドルは5%下落した。一方、中国の大型株中心で構成されるCSI300指数は、過去2年の最高値をわずか1.6%下回る水準にある。本稿では、主要資産クラスのファンダメンタルズの評価と、今後数週間の想定シナリオについて説明する。

新型コロナウイルス(COVID-19)の米国での感染者数は、検査対象者の増加に伴い上昇し続けると予想する。その結果、市場では、感染封じ込め策強化による経済へのマイナスの影響と、金融・財政刺激策による下支え効果のバランスを見極めるのが難しい状況が続きそうだ。これからの数週間が正念場となるだろう。その状況次第で、1)米国での感染拡大が1~2カ月以内に食い止められ、経済損失も比較的軽微に抑えられるか、あるいは2)感染状況が悪化し、混乱が大規模かつ長期に及ぶおそれもある。1番目のシナリオは我々の基本シナリオだが、投資家は2番目のリスクシナリオにも備えるべきである。現時点で、米国債利回りは2番目のシナリオを織り込んでいるようだが、株式市場は両方のシナリオの中間にいるようだ。

高いボラティリティ(相場変動)を上手く乗り越えて行くことは容易ではないが、これまで通り、各自の資産構築目標に沿った分散投資されたポートフォリオを維持し、さらにポートフォリオに対するプロテクションを検討することを勧める。ポートフォリオを見直す際には、Liquidity. Longevity. Legacy.*戦略のアプローチを勧める。これにより、相場下落局面に投資判断を急ぐことで損失を被るリスクを減らすことができる。

我々は引き続き、現在の変動の大きい相場において資産を守りつつリターンを追求するために、以下の戦略を勧める。

  • 高いボラティリティを活かす戦略:米国株式への間接的エクスポージャー
  • 記録的低利回り・低金利の中、ポートフォリオの利回りを向上させる戦略:米国ハイイールド債、高配当のクオリティ銘柄
  • 新興国株式を先進国株式に対しオーバーウェイトする。高い企業業績予想、バリュエーションが割安、米ドル安、中国の新型コロナウイルス感染抑制策が比較的功を奏している点が理由として挙げられる
  • 米国債利回りが相対的に低下する中で、中期的な米ドル安の進行に備える
  • 金や米長期国債の保有で、コロナリスクを回避し、ポートフォリオを守る
  • 高格付債に対し米物価連動国債(TIPS)をオーバーウェイトする

株式

主要株価指数はわずか2週間前の高値から軒並み下落した。S&P500種株価指数は12.2%、ユーロ・ストックス50指数は16.5%、MSCI新興国指数は9.5%それぞれ下落した。CSI300指数は年初来+1%で、主要指数の中で最高のパフォーマンスとなった。このことからも相場下落時の地域分散投資の重要性が確認できる。

相場急落によって、グローバル株式のバリュエーションが魅力的な水準になっている。グローバル株式のリスクプレミアム(株式益利回りと無リスク金利の差)は6.6%となり、2013年以来の割安水準であることを示している。投資適格債利回りに対する株式のリスクプレミアムも、1997年以来の高水準にある。

恐怖心は強いながらも経済のファンダメンタルズが堅調な時期は、将来のリターンにとってプラスになる傾向がある。米国では、予想される株価の変動を示すVIX指数が25を上回り(現在は42)、融資態度を厳しくしている銀行が全体の5%未満(現在は0%)である場合、その後12カ月の平均リターンは20%を超えている。

とは言え、12カ月先予想株価収益率(PER)は低下しているが、総じて長期平均は下回っていない。米国市場の予想PERは17.4倍と、20年平均の16.1倍を上回っている。グローバル株式では15.3倍と、20年平均の14.9倍と同水準だ。しかし金利が過去最低水準にあることから、バリュエーションが平均を下回る水準にまで低下せずとも、株価は割安と捉えられるだろう。株式市場の見通しが、新型コロナウイルスの感染封じ込め策が経済成長と企業業績に及ぼす影響の規模に大きく左右されることは明白だ。企業増益率のコンセンサス予想は、米国株式については5.7%、欧州株式については7.4%であるが、株式市場はそれより低い業績予想を織り込んでいるようだ。

我々の基本シナリオは依然として、ウイルス感染拡大が景気に影響を及ぼす期間は今年前半に限られ、世界的なリセッション入りが回避されるというものだ。このシナリオは、各国政府が3月下旬〜4月上旬までに感染拡大を抑制し、景気刺激策でウイルス感染による経済へのダメージが緩和されることを前提としている。6日発表の2月の米国雇用統計は、雇用者数が27万3,000人増と、2018年5月以降で最大の伸びとなり、市場はコロナ・ショック相場に突入したが、少なくとも米国経済は堅調な状態であることが確認できたのは安心材料だ。

感染拡大が今後2カ月で収束するという我々の基本シナリオが実現した場合、世界的な利回り低下により、投資家が株式を買って債券を売るため、世界の株価は現在の水準から上昇すると予想する。また、増益率は、先進国では1桁台前半、新興国では10%を予想する。

景気後退入りのリスクシナリオが実現した場合、特に欧州と日本で大幅な減益となり、グローバル株式はさらに10%下落するだろう。新興国市場の増益率は1桁になりそうだ。

戦術的資産配分では、新興国株式をオーバーウェイトする一方で、ユーロ圏株式をアンダーウェイトとする。また、S&P500種株価指数へは間接的にエクスポージャーにより、低コストで相場上昇機会を捉える。相場上昇で利益が出やすく、下落しても損失が抑えられるポジションを構築する。我々の基本シナリオでは、株式市場は現在の調整が終わると回復に向かい、上昇率は5%を超えると予想している。リスクシナリオでは、市場の下落率が10%を超えるケースもあり得ると想定しているが、その場合、バリュエーションは割安水準になる。アジアのポートフォリオ内では、中国株式を推奨する。

債券

米10年国債利回りは先週、36ベーシスポイント(bp)低下して、過去最低の0.78%をつけた。米30年国債利回りは1.31%となり、S&P500種株価指数の配当利回りを約50bp下回っている。FF先物市場では、米連邦準備理事会(FRB)が3月18日の会合でさらに50bpの利下げを行い、その後も高い確率で追加利下げが実施されるとの予想が織り込まれている。

短期利回りの低下は、FRBのスタンス変更によって正当化されるが、過去最低水準にある長期金利は一時的なものと予想する。基本シナリオの場合、ウイルス感染拡大が制御され、リスク資産が回復し、利回りが上昇すると予想する。中国の経験からも、相場の急落は一時的なものになる可能性がある。市場はコロナ・ショック相場に突入しているが、2月の米雇用統計でも示されたように、足元の米国経済は堅調である。

とは言え、長期債券は依然として、ポートフォリオ内で株式に対する有効な分散投資先であり、一般的に株価下落時の損失を埋め合わせる。債券では、米物価連動国債(TIPS)の戦術的なオーバーウェイトを推奨する。10年のブレークイーブン・インフレ率が1.32%であり、現在TIPSではインフレ期待が過小評価されていると考えるからだ。相場変動が小さくなれば、名目金利債と比較して、TIPS価格は上昇するだろう。

クレジット

米国ハイイールド債のスプレッド(利回り格差)は、この1週間で43bp拡大し、505bp(3月5日の終値)と、2019年初め以来の高水準に達した。クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場にも混乱の兆しが見え始めている。

iTraxx欧州クロスオーバー指数(欧州高利回り債のCDSで構成)は、この2週間で170bp上昇した。これは2週間の上昇幅としては、2011年9月以来で最大となる。今回の動きでCDSのスプレッド(保証料)は2018年に記録した天井を突き抜け、投資家が元本保全に走っている状況がうかがわれる。

短期的には、どちらのスプレッドも弱気のセンチメントにけん引されてさらに拡大する可能性がある。とりわけ新型コロナウイルスの感染拡大が我々の予想以上に長引くか、WTI原油価格が1バレル当たり45米ドルを下回った状態でエネルギー・セクターのデフォルト(債務不履行)率が上昇すると、その可能性は高くなるだろう。とは言え、ハイイールド債のスプレッドは、900bp近くまで上昇した2011年と2016年の天井をなお大幅に下回っている。

我々の基本シナリオからは、米国ハイイールド債のバリュエーションは割安にみえる。よって、戦術的資産配分では、高格付債に対し米国ハイイールド債をオーバーウェイトとする。ハイイールド債市場は現在、年間のデフォルト率を5~6%とみているが、これは我々の想定する3.5%を上回る。ボラティリティが低下すれば、金利と債券利回りが低い投資環境下で利回りを追求している投資家からの需要が再び高まるだろう。我々の基本シナリオでは、米国ハイイールド債のスプレッドは440bpへとやや縮小すると想定している。また、魅力的な金利収入によって、現在のオーバーウェイト・ポジションの6カ月のトータルリターンは4~5%と予想する。

通貨

米ドルは対ユーロで、過去1週間で2.5%、2月20日以降では5.2%下落した。その結果、ユーロ/米ドルは現在1.13となり、2019年夏以来の高水準で取引されている。

当面の動きとしては、12日(木)に欧州中央銀行(ECB)が中銀預金金利を-0.6%へと10bp引き下げ、追加の量的緩和策を実施する可能性がある。また、軟調なユーロ圏経済を背景に、ECBの声明もユーロ安へのシフトを促すことになるとも考えられる。リスク資産が安定するという我々の基本シナリオも踏まえると、ユーロ/米ドルは、短期的には、このまま上昇を続けるよりも1.10に向けて調整をする可能性の方が高いとみる。

とは言え、ユーロを現在の水準から対米ドルでアンダーウェイトすることは推奨しない。FRBが今回利下げしたことで、ユーロに対する米ドルの利回り優位性は低下し、ユーロで調達して米ドルで運用するキャリー取引の魅力が薄れたからだ。予防的な利下げにより、世界経済は新型コロナウイルスによる混乱から回復しやすくなることで、ユーロ圏のような輸出依存度の高い地域は恩恵を受けるだろう。米ドルはなお割高水準にとどまっている。しかも、米ドルは米国の大統領選挙のリスクをまだ十分に織り込んでいない。

中期的には、2020年後半に世界経済の成長率が回復するとともに、ユーロ/米ドルはいずれ上昇基調に戻るという基本シナリオを維持する。年末の予想は1.19に据え置く。

安全資産への需要が続く中、金価格はこの1週間で1オンス当たり1,585米ドルから1,674米ドルへと上昇した。

我々の基本シナリオでは、年末にかけて経済活動が回復し、金をはじめとする安全資産には下げ圧力がかかるとみている。しかし、新型コロナウイルスが4-6月期にも感染拡大を続けた場合には、金価格の高止まり状態が長引き、短期的には1,700米ドル台の後半まで上昇する可能性も否定できない。したがって、金は今後も新型コロナウイルスのリスクに対する効果的なヘッジ手段となるだろう。

ウイルス関連の不透明感の高まり、米国の記録的な実質低金利、米ドル安という投資環境が続く中、我々は9月末の金価格の予想を1オンス当たり1,700米ドルに引き上げた(従前予想は同1,600米ドル)。

原油

石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成するOPECプラスが追加減産で合意できなかったことを受け、原油価格は6日に急落した。OPECプラスに原油市場の需給を均衡させる意思がなければ、原油価格はさらに下落し、コロナウイルス関連の需要減を緩和するために供給削減に追い込まれるだろう。短期的には、価格変動が激しい状況が続きそうだが、我々は原油価格が2020年後半に回復するとの見方を維持する。(訳注:サウジアラビアが4月に原油増産に踏み切る予定。よって、我々は原油価格の見通しを3月8日に引き下げた。ブレント原油価格の見通しは4-6月期(第2四半期)を1バレル当たり40米ドル、以降の3四半期をそれぞれ同45、50、52に変更する(以前は62、64、64、65)。WTI原油はブレント原油より3米ドル低い水準で推移すると予想する(以前は5米ドル)。ブレント原油価格は今後数日から数週間で、30米ドル台前半まで下落すると予想されるが、その後はOPECプラスがいずれ減産に合意もしくは米国の減産により、徐々に回復すると見込まれる。)

Mark Haefele

Global Chief Investment Officer Wealth Management

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