本レポート執筆時点(日本時間5日3:00am時点)では、米国選挙の最終結果について我々は予測することしかできない。しかし、鍵を握る激戦州の最新開票データは、民主党のバイデン候補が第46代米国大統領に選出されることを示唆している。とは言え、バイデン氏の圧勝を示した世論調査は結局世論を正しく反映しておらず、開票データも共和党が上院の過半数を維持することを示唆している。接戦のために、集計に関して訴訟が起こされるリスクが高まり、最終判断は少なくとも1週間遅れる可能性がある。

市場はこれまでのところ選挙結果にポジティブな反応を示している。本レポート執筆時点で、S&P500種株価指数は3.1%、ナスダック総合指数は4.5%それぞれ上昇している。財政支援策の規模が限定的とみられることから、米10年国債利回りは13ベーシスポイント(bp)低下して0.76%になった。一方、米ドルは変動したものの前日と同水準になっている。

株式市場のプラスの反応は、選挙結果と実行される可能性のある政策がより明確になる中、先行き不透明感が幾分薄れたことを反映している。変動率の見通しを示すVIX指数は6ポイント近く下げた。一方、債券利回りの低下は、センチメント悪化を反映しているというよりは、市場が大規模な財政支援策の可能性を排除していることを示しているようだ。

選挙投票や集計に関して訴訟が起こることによる下振れリスクは残るが、リスク資産を牽引する主な要因はまだ顕在とみている。すなわち、世界的感染拡大からの景気回復、2021年第2四半期までのワクチン普及、中央銀行による積極的な政策支援の継続である。

市場への影響

民主党が大統領職、共和党が上院を支配するねじれ政府が誕生すれば、財政支援策の規模が予想よりも小さくなりそうだ。我々は現時点で、民主党圧勝シナリオで予想されていた2兆米ドル超の財政支援策ではなく、国内総生産(GDP)の5%に相当する1兆米ドルまでの財政支援策で交渉がまとまると予想している。しかしながらその中身には、失業給付金の増額や給与保護プログラム(PPP)への追加資金提供など、回復に必要不可欠な要素が含まれそうだ。

だが政治的な膠着状態はプラスの影響をももたらしうる。それこそが、4日にリスク資産が上昇したもう1つの理由だ。共和党が上院を支配することで、今後数年で企業または個人を対象とした大規模増税が実施される可能性が極めて低くなる。医療保険に公的オプションを追加する法案、または化石燃料に重い罰則を設ける法案が可決する確率も低くなる。だが、民主党政権は環境などの規制は強化する可能性が高い。

さらに広く目を向けると、ねじれ政府の場合は、政策が大幅に変更される可能性が低くなるため、政治的な予測可能性が高まる。これによって経済的な先行き不透明感が薄れ、市場の変動性は低くなるだろう。

米ドルについては、民主党圧勝シナリオの場合よりも、財政支援策の拡大規模が小さくなるため、短期的な下落圧力が抑えられるだろう。だが、他のG10通貨に対する金利の魅力が以前よりも低下しているため、米ドルは長期的には下落し続けると考える。また、大規模な財政支援策が実施されないことが明らかになった場合に、米連邦準備理事会(FRB)がもっと積極的に行動する可能性がある。

投資家の取れる行動とは

我々は中期的に株式に対して強気である。財政支援の規模は限定的とはなるが、ワクチンは来年の第2四半期までに普及すると見ている。選挙結果と市場の変動要因を踏まえ、投資家は以下のアプローチをとることを勧める。

  • 次の回復局面に向けて分散投資する
    バイデン氏勝利とねじれ議会の可能性を受け、大型ハイテク株が上昇した。債券利回りが低下し、民主党圧勝シナリオよりも規制を巡る不透明感が低下したからだ。しかし、次の株価上昇局面を牽引するのは景気敏感銘柄とみている。財政支援は経済成長をサポートし、規模としては最大でGDPの5%に匹敵する1兆米ドル規模を見込んでおり、中型株を下支えするだろう。また、バイデン政権が環境規制を強化すれば、省エネ、インフラストラクチャー、グリーンエネルギー関連に投資機会が見いだせる。米国外では、景気刺激策による影響に備え、景気敏感銘柄へのエクスポージャーを増やすことを勧める。具体的には、ユーロ圏(EMU)の中小型株、英国株、新興国のバリュー株がこれに含まれる。バイデン氏が勝利すれば、貿易政策の不透明感が低下し、アジアや中国株も有望とみる。
  • 米ドルからG10通貨への分散
    ねじれ議会となった場合、民主党圧勝の場合に比べて財政赤字の拡大幅は小さくなると見込まれる。しかし、財政支出は依然として高い水準が続き、少なくとも当初は、財源を賄うため財政赤字が拡大するだろう。経常赤字は拡大が見込まれ、一方で民間セクターの貯蓄は低下し始めるだろう。よって、米国は資金調達の対外依存度も高まるだろう。米国の債務水準への注目が高まると見られ、安全通貨としての米ドルの需要も弱まる可能性が高い。よって、中長期的には、ユーロや英ポンド、さらに安全通貨として機能するスイス・フランと日本円を含めたG10通貨が米ドルに対して上昇すると見ている。さらに、一部の高金利新興国通貨およびアジア太平洋通貨も対米ドルで上昇する可能性が見込まれる。一方、金価格は米ドル建てであるため、2021年にかけて金には若干の上昇余地があると考える。
  • サステナブル投資へのエクスポージャーを増やす
    民主党の上院過半数獲得は厳しい情勢のため、バイデン氏が提案している2兆米ドル規模の気候変動対策への支出が議会を通過する可能性は低下した。クリーンエネルギー、インフラストラクチャー、オートメーション関連銘柄は4日、株価が反落している。これらのセクターは、選挙が近づくにつれてバリュエーションが大幅に拡大していた。しかし、バイデン氏はまだ環境規制という手段を使うことができる。全体としては、バイデン氏はサステナビリティ関連の取り組みを推進していくものと予想しており、これが、インフラストラクチャーへの投資をサポートし、再生可能エネルギー等の環境対策を加速し、ESGに優れた企業にとってプラス材料になるだろう。さらに、欧州および中国の規制当局や政府がサステナビリティを強力に後押ししていることから、このテーマは今後も中長期的に有望であると考える。
  • ダウンサイドリスクに備える
    株式市場の一日のボラティリティ(相場変動率)が2%を超える状況は珍しくなく、選挙結果が最終的に確定するまではボラティリティが高い状態が続くと見られる。VIX指数は低下したが、依然として非常に高い水準で推移している。このような状況下では、規則的に株式を購入することで、投資タイミングを見誤るリスクの軽減が期待できる。

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