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何が起きたか

主要株価指数は2日(水)に過去最高値をつけた後、3日に大きく下落した。投資家がハイテクセクターからのセクターローテーションを図ったほか、米国とユーロ圏の経済指標に景気回復ペースの鈍化傾向が見えてきたことも影響した。S&P500種株価指数は前日比3.5%安で取引を終え、ナスダック総合指数は5%下落した。巨大IT6銘柄(FAAMNG:フェイスブック、アップル、アマゾン、マイクロソフト、ネットフリックス、グーグル)の下落率は3.8~8%となった。ユーロ・ストックス50指数は1%下落した。FTSE100種総合株価指数は1.5%下げた。米10年国債の利回りは1.5ベーシスポイント(bp)下落した。金は0.6%安にとどまった。

今回の下落には、複数の要因がある。

経済指標: 3日に発表された8月29日までの1週間の米新規失業保険申請件数は、13万減の88万1,000件となった。しかし、この減少は、労働省が季節調整方法を変更した結果である。調整前の基準では7,591件の増加となり、4日の雇用統計発表を前に、労働市場の回復が勢いを失いつつあることが示唆される。マイナス面を強調するように、8月のISM非製造業購買担当者景況指数(PMI)は、前月の58.1から56.9に低下し、米国の国内総生産(GDP)の大部分を占める、サービスセクターの回復ペースが減速していることが示された。ユーロ圏では、8月の非製造業PMIは50.5と、かろうじて景気拡大を維持する水準となった。

投資先のセクターローテーション: テクノロジーセクターは、特に米国では、明らかに新型コロナ感染拡大に伴う外出自粛による恩恵を受けてきた。米疾病対策センター(CDC)が、早ければ11月1日から高リスク者に対して限定的にワクチンを供給する可能性があるとして、州の高官に準備を要請したという報道を受けて、早期のワクチン供給に対して楽観的な見方が強まった。だが、早期にワクチンが利用可能になることで景気回復が加速し、テクノロジーセクターから、バリュー株など景気敏感セクターへの切り替えが進む可能性がある。テクノロジー株は安値から70.6%上昇し、個別の企業業績への注目が薄れる中で、同セクターに大量の資金が流入してきた。ブロードバンドネットワーク用機器大手のシエナは、売り上げがコンセンサス予想を18%下回るとの見通しを示し、「新型コロナの世界的感染拡大による負の影響と景気の先行き不透明感の高まりが、当社の短期的な見通しの重石になっている」と述べている。

オプション関連の売り: テクノロジー株の上昇が続いたことを受け、個人投資家と機関投資家のコール・オプションへの需要が高まった。コール・オプションの売り手は、相場上昇時にコール需要に合わせて買いを入れるが、相場下落時には売却を迫られ、これが株価の振れ幅を拡大した可能性もある。

特に米連邦準備理事会(FRB)の高官が、回復ペースを維持するために追加財政支援策が必要だと指摘する中で、米国の追加経済対策の法案審議に進展が見られないことも、投資家の懸念を高めたと見られる。

投資家は何をすべきか

投資家に対しては、まず、自身の投資計画に従って投資を継続することを推奨する。

3日の急落は、このところの力強い上昇を受けた利益確定売りであり、一時的な動きであると我々はみている。8月のS&P500種は7%上昇と、8月としては34年ぶりの高いパフォーマンスを示し、9月に入っても月初2日間でさらに2.3%上昇して最高値を更新した。株価は、FRBによる流動性供給、魅力的な株式のリスクプレミアム、そして新型コロナウイルスによるロックダウン(都市封鎖)解除後の景気回復基調といった好条件に引き続き下支えられている。S&P500種は現状、概ね我々の基本シナリオに沿って推移しているが、今後、1) 2020年末までにワクチンが広く実用化される、2) 米大統領選挙の結果が景気に悪影響を与えることなく、大規模な追加経済対策法案が可決される、3) 実質金利がさらに低下する、などの前提が実現すれば、ここからさらに上昇する可能性も十分に考えられる。

投資家には、具体的に次の戦略を推奨する。

定期的に買いを続ける:市場が大きく変動すると、市場への参入を当面見合わせ、先行きが明確になるか、株価が下落する局面を待とうとする投資家もいるだろう。しかし、投資タイミングを見計らおうとすると、利益獲得の機会を逃す可能性がある。むしろ、今後12カ月という時間軸で一定の金額を定期的に投資する戦略を推奨する。

分散投資で次の上昇を捉える:米国株式の年初来の上昇は巨大IT企業がけん引してきた。ITセクターでバブルが発生したとは考えてはいないものの、巨大企業への比率が非常に高い投資家には、5G(第5世代通信)関連企業、グリーン・リカバリーからの恩恵が見込まれるサステナビリティ重視企業など、コロナ危機で加速する分野への投資を提案したい。我々は依然として株式に強気の見方を維持しており、一部のバリュー株や景気敏感株、米国の中型株など、3月の安値からの反発に出遅れた銘柄が、今後の上昇のけん引役になると見込んでいる。

ダウンサイドに備えるプロテクション:新型コロナ感染拡大によって、市場はかつてないほどの不透明感に見舞われ、今後もボラティリティ(相場の変動)がさらに高まる可能性がある。ポートフォリオのリスクを管理するには、さまざまな資産クラスや地域への分散投資が重要である。しかし、高格付債の利回りが非常に低い現状を踏まえると、他の選択肢も検討する必要があるだろう。我々は金(Gold)に注目している。現在は1オンス当たり1,931米ドルだが、低金利の長期化と米ドル安基調を背景に、さらに上昇する余地があるとみている。下落リスクに備えるために、リスク管理について堅固な実績を誇るヘッジファンドをポートフォリオに一部組み入れることも検討できる。

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