ワクチン、経済対策期待で株価上昇
世界の株式市場は18日急反発した。新型コロナウイルスのワクチン開発期待や、ロックダウン(都市閉鎖)が予想よりも早く永続的に解除されるとの楽観的な見方が広まり、相場を押し上げた。S&P500種株価指数は3.15%高と、4月8日以降で1日あたりの上昇率としては最大となった。
世界の株式市場は18日急反発した。新型コロナウイルスのワクチン開発期待や、ロックダウン(都市閉鎖)が予想よりも早く永続的に解除されるとの楽観的な見方が広まり、相場を押し上げた。S&P500種株価指数は3.15%高と、4月8日以降で1日あたりの上昇率としては最大となった。ユーロ・ストックス50指数は5.1%、MSCI新興国株価指数は3.9%といずれも上昇して取引を終えた。
18日はさらに、新型コロナ危機でパフォーマンスの低調が続いていた資産クラスも上昇した。バリュー株(ラッセル3000バリュー株指数)の上昇率は4.5%と、グロース株の2.3%を上回り、ラッセル2000米国小型株指数の上昇率は6.1%と S&P 100種株価指数(大型株指数)の2.6%を上回った。一方、不確実性が高まる中で高パフォーマンスを上げてきた資産は反落し、その代表格である金(Gold)価格は1日で0.64%下落した。
市場センチメントが回復した背景には次のような要因が考えられる。
- 新型コロナウイルスのワクチン開発に進展:最も注目すべきニュースとして、米バイオテクノロジー会社のモデルナが、新型コロナワクチン候補「mRNA-1273」の臨床試験で、効果を示す初期兆候が見られたと発表した。初期データから、新型コロナウイルス感染を阻止する中和抗体が体内に作られたことが確認され、今後の感染防止への道が開けたとの期待感が広がった。さらに、エビデンスからは深刻な副作用は見られなかったという 。臨床試験のフェーズ3は7月に開始予定で、モデルナは、今後も良好な結果が続けば、2021年から「年間で最大10億回投与分」の製造も可能であり、数量は限定的だが年内にも供給できる可能性があると発表した。1人当たり2回の投与が必要と仮定すると、10億回分の製造ができれば、米国の全人口と欧州人口の半分に相当する数量を供給でき、正常な経済活動への完全復帰に向けた長い道のりを前進することができる。この開発が成功すれば、抗ウイルス薬レムデシビルの最近の進展と相まって、正常な経済活動への持続的な復帰時期が早まる可能性もある。
- ウイルスの第2波が不可避ではないとの証拠:様々な国や地域でロックダウンの緩和が相次いでいる。イタリアの店舗やレストランは18日から営業を再開し、ギリシャでは、観光業が、かき入れ時となる夏季には復活するとの期待感が高まっている。数週間前から経済活動を再開した国の感染率が低水準にとどまっている点も安心材料だ。4月中旬にロックダウンの緩和を開始したドイツでは、ウイルスの再生産数が1を下回る状況が続いており、1日当たり新規感染者の数も1,000人未満を維持している。ドイツとオーストリアでは時おり再生産指数がやや上向く兆候が見られるものの(オーストリアでは数週間前に制限緩和が始まった)、接触履歴を追跡できるモバイル用アプリなどのテクノロジーの導入が世界的に進んでおり、新型コロナの危険性に対する人々の認識も高まっている 。よって、主要国では、感染再拡大により経済活動を再度封鎖しなければならないリスクは低下したと言える。
- 景気指標にも明るい兆し:主要国の景気指標は総じて低調だが、ドイツ連邦銀行のデータを見ると、ロックダウンによる景気後退は予想されていたほど深刻ではない可能性が浮上した。有料道路の交通量や使用電力量、大気汚染量、航空旅客輸送量、グーグルの検索、雇用者数、現金流通量などに基づく現在の経済活動を表すデータによれば、4月の経済活動は4.6%減と、コンセンサス予想ほどは落ち込んでいない状況が示唆された。
- 追加の景気対策の準備が進む:ドイツとフランスは、今回の危機で最も打撃を受けた地域向けに5,000億ユーロの欧州復興基金の設立を共同提案した。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が、必要があれば追加の金融刺激策を提供する用意があると週末に明言したことも投資家には安心材料となった。パウエル議長は、ワクチンが開発されれば米国経済は急回復すると「強く確信している」と述べた。さらに、大恐慌並みの景気後退は起こりそうにないと指摘し、米国の金融システムは「非常に強い」と強調した。米下院は、民主党が主導する3兆米ドルの経済対策案を可決した。この案が上院で可決する可能性は低いものの、6月以降に少なくとも一度はさらに大規模な追加の景気支援策が導入されると予想する。
- 欧州の空売り規制は解除へ:オーストリア、ベルギー、フランス、ギリシャ、イタリア、スペインは、3月から続いている空売り規制を、5月18日の期限とともに解除するというニュースも、市場には追い風となった。
何に注目しているか
何に注目しているか
株式市場は、この1カ月レンジ内を推移してきたが、18日の動きは、経済が正常化に向かうとの明白な証拠を投資家が確認できれば、株式市場には上昇余地がまだあることを示している。この点を判断するために、我々は、経済活動の再開後の入院率の推移、治療薬の有効性に関するニュース、ワクチンの臨床試験の進捗状況、各地の一定人口に対する抗体の保有状況に関するデータ(さらなる感染の波の深刻度を推測するための指針となり得る)など、様々な指標を監視している。経済活動を示す日次データにも注目しているが、一部で経済活動拡大の兆候がすでに見えている。
楽観シナリオへの道は平坦ではなく、今後も浮き沈みは何度も起こるだろう。18日はポジティブなニュースが多い中で、中国の吉林省と遼寧省では、新型コロナウイルスの第2波を抑えこむためにロックダウンが新たに発表された。
投資家は何をすべきか
投資家は何をすべきか
市場が最近反発したことに加え、目先の市場がどう動くかが予想しにくいため、今後も規律の取れた投資戦略が重要である。流動性を確保し(Liquidity)、 老後に備え(Longevity)、 資産承継を準備する(Legacy)*という我々の資産管理アプローチを用いると、投資家は短期的な市場のノイズに惑わされることなく、十分な流動性を保有して強制売りを防ぎ、老後戦略と資産承継戦略で長期の投資機会を捉えることができる。投資対象としては、新型コロナ感染拡大で加速化するトレンドの恩恵を受けるeコマースやオートメーションとロボットなどの銘柄群が有望とみる。
新型コロナからの回復という次のステージに備え、投資家は次のような投資戦略が有効と考える。
- 株式では銘柄を厳選する:我々の2021年の利益予想に基づく米国株式の株価収益率(PER)は18.5倍と、20年平均を15%上回る。しかし、景気回復に力強さが増してくれば大幅な上昇余地のある分野もある。我々の楽観シナリオに近い結果を想定している投資家は、世界経済の回復とともにアウトパフォームを期待できるバリュー株や景気敏感株からの銘柄選別が検討できる。しかし、楽観シナリオへの道筋がなお不明確なため、我々の基本シナリオで比較的良好なパフォーマンスが期待できる、ディフェンシブ性の高い、安定した銘柄群を推奨する。たとえば、優良銘柄や高配当銘柄、選別した生活必需品やヘルスケア銘柄などを有望とみる。
- クレジットに注目:FRBによる最近のコメントは、マイナス金利が今後「ニュー・ノーマル(新常態)」にはならないことを示唆している。しかし、金利は当面低水準が続きそうだ。その結果、投資家はリスクの相対的に高いクレジットなどで利回りを追求することが検討できる。この資産クラスは現在魅力的な価格水準になっている。現在のスプレッド(米国債との利回り格差)は、米国投資適格債が185ベーシスポイント(bp)、米国ハイイールド債が778bp、米ドル建て新興国国債(JPモルガンEMBIGD指数による)が579bpと、我々の見るところ、新型コロナ危機に起因するリスクを上回る水準まで織り込んでいる。
- 新型コロナにより加速しそうな投資テーマに注目:コロナ後の世界ではグローバル化が後退する兆候の一つとして、米国議会では、米国企業に中国から撤退し、生産活動を米国内に移すことを促す税制優遇策が検討され始めている。国内への生産移管に伴う人件費の上昇に備えるには、オートメーションとロボット技術への投資拡大が必要なため、同分野の企業にとって有利な環境になるだろう。さらに、eコマースや医療テクノロジー、食品のサプライチェーンにも投資機会が見出せる。
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