何が起きたか?

米国株式は12日(火)、引けにかけて急落し、S&P500種株価指数は2.1%安で取引を終えた。同日のユーロ・ストックス50指数は概ね横ばいで推移し、米国で売り圧力が高まる前に取引を終えた。一方、米国債は上昇し、米10年債利回りは0.67%まで低下した。株価は、今回の下落によって先週半ばの水準に戻った。

リスク回避の動きが強まった背景には次のような要因が挙げられる。

  • 複数の米国地区連銀総裁が12日に、慎重なコメントを発表した。セントルイス地区連銀のブラード総裁は、経済活動の停止が90日ないし120日を超えて長期化する場合は、「恐慌レベルのリセッション」に陥る恐れがあると警戒感を示した。クオールズ米連邦準備理事会(FRB)副議長(銀行監督担当)も、FRBが年次ストレステスト(健全性審査)の一環として、銀行の継続的な配当支払い能力について精査していると述べた。
  • 経済活動を再開した中国、韓国、ドイツなどで感染者が再び増加傾向にあると報じられ、景気回復と感染「第2波」への懸念が高まった。
  • 米上院委員会が12日に開催した公聴会で、米国の感染症対策の責任者が、経済再開に必要なコロナ検査能力の拡充については楽観的なコメントを発したものの、時期尚早な再開は感染拡大のスピードを速めると警鐘を鳴らした。
  • 4月の米消費者物価コア指数は予想を下回り、前月比0.4%減と過去最大の下落を示した。複数の品目で需要減による大幅な価格下落が確認されたが、「外食除く食料品」価格は前月比2.6%上昇するなど、価格が上昇した品目も見られた。全体としては、一部の物品やサービスでは供給サイドの問題から価格が上昇するものの、大きな需給ギャップによって価格には引き続き下押し圧力がかかると予想される。
  • 米政府の4月の財政支出は7,380億米ドルの赤字となり、単月の赤字額としては過去最大となった。 4月は税金の納付期限となっていることから通常は税収が最大となり、例年であれば財政収支は黒字になる。だが今年は、経済活動の急激な低下で税収が落ち込んだことに加え、政府が納税期限を通常の4月15日から延長したことも響いている。

ただし、政策面での好材料もある。FRBは警戒感を示しつつも、発表済みの社債購入プログラムの運用を開始して、景気を下支えするとの姿勢を改めて強調した。さらに、投資適格社債だけでなく、新型コロナの影響で投資適格級から投機的格付け(ジャンク級)に転落したいわゆる「フォールン・エンジェル(堕天使)」銘柄を一部組み入れた上場投資信託(ETF)も購入対象とする予定だ。一方、下院民主党は、上院共和党やホワイトハウスとの交渉のたたき台として、3兆米ドルの新型コロナウイルス追加対策法案を公表した。

何に注目しているか

株式市場は、新型コロナ感染拡大による影響の程度について、我々の基本シナリオと楽観シナリオのほぼ中間の水準を織り込んでいる。いずれのシナリオでも、今後数週間でロックダウン(都市封鎖)の緩和が相次ぐと想定している。ただし、基本シナリオでは、2020年中は移動制限が断続的に再導入される可能性を視野に入れているのに対し、楽観シナリオでは、新型コロナの深刻な「第2波」は発生せず、ロックダウンは6月末までに解除され、その後に再実施されることはないと想定している。

楽観シナリオの実現可能性を見極めるため、我々はさまざまな要因に注視している。たとえば、治療薬の有効性に関するニュースはロックダウンの解除を早める可能性がある。ワクチンの臨床試験の進捗状況も重要である。さらに、各地の一定人口に対する感染者数に関するデータは、感染の第2波、第3波が起きた場合の深刻度の指針となり得る。また、経済活動を示す日次データにも注目しているが、一部では経済活動に回復の兆しが見え始めている。財政による経済支援策は消費者や企業に届き始めている。我々は大規模な追加経済対策パッケージが少なくともあと一度は実施されると予想するが、6月以前に法案が可決される見込みは低い。

投資家は何をすべきか

こうした環境下、投資家には次のような投資戦略が有効と考える。

  1. クレジットに注目:12日は、株式市場が急落する一方で、米国投資適格債が上昇し、米ハイイールド債は概ね横ばいだった。クレジット市場はFRBの政策対応により直接下支えされている。加えて、我々の2021年の利益予想に基づく米国株式の株価収益率(PER)が18.5倍であることを考えると、株式よりも割安水準にあるとみている。現在のスプレッド(米国債との利回り格差)を見ると、米国投資適格債は205ベーシスポイント(bp)、米国ハイイールド債は748bp、米ドル建て新興国国債(JPモルガンEMBIG指数による)は571bpと、新型コロナ危機に起因するリスクを上回る水準まで織り込んでいる。
  2. 下落リスクに備える:12日のような急落は今後も起こり得る。新型コロナをめぐる状況は各国で異なるため、地域的な分散投資を推奨するとともに、リスク回避型の投資家には下落リスクからポートフォリオを守る措置を講じることも勧める。具体的には、金(Gold)投資の追加、ダイナミック・アセットアロケーション(機動的な資産配分の変更)戦略、元本保全措置の検討、名目国債の代替として物価連動国債(TIPS)を加える等により、ポートフォリオの分散を図る戦略が有効だろう。
  3. 株式では銘柄を厳選する:余剰資金を保有している、あるいは、株式の保有比率を高めたいと考えている投資家は、株式市場が3月の安値からかなり反発していることを踏まえ、銘柄をより慎重に選定することを勧める。株式市場ではディフェンシブ性の高い、安定した銘柄群を推奨する。たとえば、我々の基本シナリオで高パフォーマンスが期待できるクオリティー銘柄や高配当銘柄、選別した生活必需品やヘルスケア銘柄などが有望とみる。

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