何が起きたか?

米国の国立研究機関は29日(水)、新型コロナの治療薬候補「レムデシビル」に好ましい効果があることがデータで示されたと発表した。これを受けて同日、S&P500種株価指数は2.7%、ユーロ・ストックス50指数は2.6%上昇した。コロナ治療の進展は医療機関の負担を軽減し、都市封鎖措置の早期かつ持続的な解除を可能にすると期待される。試験結果によると、レムデシビルを投与された患者は平均11日で回復したのに対し、プラセボ(偽薬)のみを投与された患者は回復までに15日を要した。また別の試験では、投与期間が5日間の群と10日間の群では同程度の症状改善が見られ、現在の薬の供給量で、これまで考えられていたよりも多くの患者を治療できる可能性が示唆された。新型コロナの有効な治療法が確立されれば、持続的な都市封鎖の解除、消費者信頼感の改善、世界経済と市場の浮揚にもつながる。一方、政策面では、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が29日の連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、新型コロナ感染拡大に伴う景気低迷に対処するため、可能な手段はすべて実施すると表明した。レムデシビルとFRBに関する明るいニュースにより悪材料はやや影を薄めたが、米商務省が29日発表した米国の2020年1-3月期国内総生産(GDP) は年率換算で前期比4.8%縮小し、2008年以来の大幅なマイナス成長となった。

29日の上昇によって、米国株式は、3月23日につけた下値より31%高く、2月半ばに記録した過去最高値を13%下回る水準となった。ユーロ・ストックス50指数は、新型コロナ感染拡大に伴う下落から26%回復し、2月半ばの高値からは22%低い水準にある。

現時点で、主要株式指数には我々の基本シナリオと楽観シナリオの中間が織り込まれている。両シナリオでは、今後数週間の間に都市封鎖の緩和が続くと予想する。しかし、基本シナリオでは、一部の規制が2020年末まで断続的に再導入される可能性があり、経済が持続的に正常化するのは12月末と見ている。一方、楽観シナリオでは、スマートフォンアプリの接触追跡や投薬治療が感染拡大への対応に複合的に効果を発揮し、都市封鎖は6月末までに解除され、その後も再導入されないと想定している。

ここ数日の市場の反応の背景には、各地で進められている都市封鎖の解除準備に伴う持続的な正常化の兆し、その後の景気回復を当局の政策が下支えるとの期待、そして通常の経済活動への回復が持続される場合に株式などのリスク資産がもたらすレラティブ・バリュー等がある。

次に注目すべき点は何か?

レムデシビルの臨床試験において好ましい結果がみられたと発表されたことで、我々の楽観シナリオにつながる道筋が見えてきた。つまり、経済活動の持続的な正常化によって、生産活動が2021年末までに危機前の水準に回復する道が開けてくると言うことだ。我々は今後次の事柄に注目する。

  • 持続的な正常化に向けてどのような措置が取られているか。感染拡大で医療システムを崩壊させることなく都市封鎖の解除を進めるには、治療薬・治療法の開発進展が大きな役割を果たす。新型コロナに対するワクチンの研究開発プロジェクトは現時点で80件超が進行しており、有効性が確認されれば、それらが新型コロナのパンデミック(世界的な感染拡大)に対する恒久的な解決策につながりうる。しかし、ワクチンが一般に使用可能になるまでには最短でも1年はかかるとされている。市場も、「レムデシビル」等、新型コロナに関する不安軽減に大きな役割を果たしうる治療薬開発の動向は大きな注目材料となるだろう。我々はまた、アジアでの感染「第2波」の程度や、デンマークなど先行して都市封鎖を終了した国々のその後の状況にも注視していきたい。
  • 経済対策が経済的ダメージをどの程度抑えられるか。各国の政府と中央銀行は企業倒産や失業者の増加を抑える措置を相次いで発表している。我々はそうした各国の経済対策が企業や家計にどの程度実際に浸透しているかに注目しているが、これまでのところ、前向きなデータが示されている。例えば、欧州の5大経済国では、約3,000万人の労働者に政府による賃金補填等の支援策を活用した一時帰休制度が適用されている。これらの労働者は都市封鎖が解除されれば速やかに職場に復帰できる可能性が高い。

ここ数週間で我々の楽観シナリオ(6月から経済機能の多くが持続的に正常化する)への道筋が見えてきた。コロナ検査、追跡調査、そして治療薬が奏功してロックダウンが持続的に解除されるならば、この数カ月で打ち出された大規模な金融・財政刺激策により2021年末にはコロナ危機前の生産水準に回復する可能性がある。この楽観シナリオに沿った好転を前提とした場合、今年年末のS&P500種株価指数は3,150前後をつけると予想する。

とはいえ、感染拡大「第2波」の懸念はなお拭えず、ロックダウンが再導入される可能性もあるため、株式投資は銘柄を厳選し、株価上昇局面でリターンを捉え、感染が再拡大した場合の下振れリスクを抑制することを勧める。具体的には、楽観シナリオでアウトパフォームするとみられる一部のシクリカル銘柄(景気敏感株)、基本シナリオで堅調なパフォーマンスが見込まれる生活必需品等の安定的でディフェンシブな銘柄、あるいはeコマースなどコロナ・ショックを引き金として加速する長期トレンドの恩恵を受ける企業などを勧める。

株価の更なる上昇を狙いたいが、短期的な下落リスクは回避したい投資家は、株式相場のボラティリティが高い状況を活用し、相場上昇時に利益が出やすく、下落しても損出が抑えられるポジションを構築する戦術を検討することができる。全体としては、株式よりも債券の方が現時点では魅力的とみている。債券の方が我々の悲観シナリオをかなり織り込んでいるからだ。クレジット市場では特に米国投資適格債、米国ハイイールド債、米ドル建て新興国国債、グリーンボンドなどが有望とみている。

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