市場のボラティリティ(変動率)は依然として高いが、先週は株式が上昇し、クレジット・スプレッドが縮小するなど、世界的に市場の混乱にやや落ち着きが見られた。中央銀行と各国政府による迅速な政策対応は、市場の機能回復と流動性支援の点で徐々に効果を上げている。

UBS House View Monthly Letterで指摘したように、他の資産に比べて、クレジット市場は我々の悲観シナリオをかなり織り込んだ状態であるとの見方を我々は変えていない。そのため我々は高格付債に対する米国物価連動国債(TIPS)のオーバーウェイトを、米国投資適格債のオーバーウェイトに切り替える。このほかにも、高格付債に対して米国ハイイールド債と米ドル建て新興国国債をオーバーウェイトとしている。

  • 魅力的なバリュエーション:現在の投資適格債のスプレッドは298ベーシスポイント(bp)と、世界金融危機以来の高水準にある。1990年以降でスプレッドが250bpを超えている場合、14/17事例で、その後12カ月のリターンはプラスとなり、その中央値は15%だった(月次データに基づく)。
  • 政策による支援:金融・財政当局による政策支援は、優良企業に向けて、債券の直接購入と流動性供給、そして恐らくは資本注入を通して提供される。米連邦準備理事会(FRB)は、市場が適切に機能するよう支援するために、社債ETFを含めて必要な量の資産を購入すると発表した。
  • 債券保有者にとってプラスとなる企業の動き:今回の危機に対応して、企業の焦点は、設備投資や株主利益還元から、バランスシートが健全で流動性を確保する方向に移った。配当と自社株買いの停止は、株式投資家には歓迎されないが(株価下落後にある程度織り込まれている)、債券保有者には歓迎される。
  • 市場のテクニカル要因は改善している:各国中央銀行の措置を受けて、ビッド/オファーのスプレッド(市場における売り呼び値と買い呼び値の差)は狭まっており、投資家の市場からの資金流出ペースは鈍化し、銀行間取引市場も正常化しつつある。投資適格債市場では起債も堅調で、先週は総額1,090億米ドルの投資適格債が値付けされた。

我々の基本シナリオでは、投資適格債の米国債に対するスプレッドは年末までに150bpまで縮小すると想定している。これは、欧米での新型コロナウイルスの新規感染者数が4月中旬頃にピークを迎え、5月には厳しい移動制限が解除されるとの見通しを前提としている。金融・財政両面の協調的な政策対応により、資金繰りが悪化している企業やセクターに必要な資金が最終的に供給されるが、全面的な救済には開始時期が遅すぎるため、景気は2020年7-9月期から2021年1-3月期にかけて緩やかなU字回復になるだろう。楽観シナリオでは、7-9月期から10-12月期にかけてV字回復が始まると想定しており、その場合には投資適格債のスプレッドは100bpまでさらに縮小するとみている。

我々のポジションへのリスクは、悲観シナリオが実現する可能性だ。つまり各種制限が長引き、ウイルス感染が再び拡大し始め、政府と中央銀行の支援策では失業と倒産の増加を食い止められなくなるという危険性である。このシナリオでは、米国投資適格債のスプレッドは、現在の298bpに対して300~400bpのレンジで取引されると想定している。

3月20日以降にブレーク・イーブン・インフレ率が大幅に上昇し、米物価連動国債(TIPS)はその恩恵を受けた。よって、このポジションを終了し、スプレッドの縮小をにらんで投資適格債に資金を再度投入する。しかし、現在のブレーク・イーブン・インフレ率は実現インフレ率の予想よりも低いとの我々の見方は変わっていない。政府の債務残高増加による将来のインフレ率への影響懸念が高まっている現状下では、TIPSは米国債に比べると引き続き魅力的で、ポートフォリオの中で戦略的(長期的)に重要な役割を果たす可能性がある。

House View レポートの紹介



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