S&P500種株価指数は、20日(金)の取引開始直後はプラス圏で推移したが、終値は4.3%安で取引を終えた。対照的に、ユーロ・ストックス50指数は3.8%高となり、新興国株式も総じてプラス圏で取引を終えている。米国の新興国上場投資信託(ETF)は、この日に約0.6%上昇した。債券市場には正常化の兆しが見られた。米10年国債利回りは24ベーシスポイント(bp)低下して0.87%になり、予想変動率を示すVIX指数は8ポイント下落して66になった。このことから、資金調達市場の流動性逼迫を緩和するためには「あらゆる手段を尽くす」という中央銀行の意志が効果を表し始めたことが示唆される。

ニューヨーク州のクオモ知事が20日、生活に不可欠な仕事に就く人を除き、すべての労働者に在宅勤務を命じる措置を22日(日)の夜に発効させると発表したことを受け、米国株式は下落した。前日の夜には、カリフォルニア州のニューソム知事も同様の措置を発表していた。ニューヨークとカリフォルニアは合計すると、米国の国内総生産(GDP)の20%を占め、このような厳しい措置は米国全域での経済活動にとって大きな重石になるだろう。英国政府も封じ込め策を強化し、すべてのバー、レストラン、娯楽施設に即時に閉鎖するよう要請した。カナダでは潜在的な経済損失の規模が明らかになった。同国は、労働人口の約2.5%に相当するおよそ50万人が今週失業保険を申請したと発表した。米国の新規失業保険申請件数は、今週は28万1,000人だったが、来週木曜日の発表では200万人を軽く超えるだろう。

こうした経済活動への打撃を緩和するための米国の財政措置は加速しているが、現時点では封じ込め策の影響に政策が追い付いていない。1兆米ドル(GDPの約5⁻7%)を超えると予想される第3弾の財政刺激策について、来週初めに議会の承認を受け、大統領の署名をもって法律を成立させるために、20日夜までの合意を目指して交渉が行われている(訳注:21 日時点では協議中だが、週明けの採決を目指すと発表)。我々は、世界金融危機並みの信用危機を回避するために、さらなる取り組みを実施しようとする政策当局の意欲に期待する。

欧州の財政措置は、対GDP比でみると、さらに規模が大きい。また、欧州中央銀行(ECB)による7,500億ユーロの緊急債券購入プログラムが発表されたことから、過去2日間は欧州株式のパフォーマンスが比較的良好だった。20日には英国政府が、ウイルス感染による景気低迷に対抗するための、大規模財政支援策を発表した。これには、3月1日からの3カ月間、月額2,500ポンドを上限として、民間セクターの従業員の賃金の80%を支払う方針などが含まれる。社会的セーフティネットは70億ポンド規模で拡大するほか、第2四半期の付加価値税(VAT)支払い延期も認める。納税延期措置だけでも経済に300億ポンドを注入することになる。スイスも財政措置の規模を当初の100億スイス・フランから420億スイス・フラン(GDPの6%)に拡大した。そのおよそ半分が短時間勤務対象者への賃金補償に、残りが銀行セクターから小規模企業への緊急流動性提供を保証するために使われる。同国の財政措置の規模は、対GDP比14%のドイツと同11%のフランスに次ぐ大きさだ。

今後の市場の展開は、a) 経済活動がどの程度早く正常化するか、b) 政策対応がどれだけの企業倒産と失業を防ぐことができるか、によって左右される(最新のシナリオ分析は、マンスリーレター4月号を参照)。

市場は我々の下落シナリオをほぼ織り込んでいるが、中期的にリスクあるいはリターンの多くを左右するのは政府による介入だろう。今後数カ月でどのシナリオが実現するか確信をもって言い当てることは不可能だが、我々は、規律があり、分散化され、先を見越した投資アプローチが、長期的に資産を増やす上では最も有効であるとの見方を維持する。

我々は、間接的にユーロ圏株式と米国株式のエクスポージャーを保有することで相場上昇時に利益が出やすく下落しても損失が抑えられるポジションを構築している。また、下落シナリオをほぼ織り込んでいるとみられる資産への分散投資も進めている。新興国株式のオーバーウェイトはクローズし、米ドル建て新興国国債(EMBIグローバル・ダイバーシファイド)のオーバーウェイトに切り替えた。米ドル建て新興国国債の方が、新興国株式よりも我々の下落シナリオをより織り込んでいるとみられるからである。そして、スプレッドが下落シナリオの水準に近い、米ハイイールド債のオーバーウェイトを維持する。

また、期待インフレ率が現在の極めて低い水準から上昇すると予想されることから、高格付債に対する米国物価連動国債(US TIPS)のオーバーウェイトを維持する。さらに、先進国市場の極めて低い金利を考慮して、一部新興国通貨バスケットのオーバーウェイトを維持する。英ポンドは、米ドルと比較して割安とみている。

現時点で投資家は、アジアでの5G展開へのエクスポージャーを持つ企業など、コロナの感染状況による影響が比較的少ないと考えられる銘柄、フィンテックやeコマース、オンラインゲーム、オンライン教育など、現状から恩恵を受けることのできる長期投資テーマ、香港上場の中国不動産銘柄や日本のオートメーションと機械関連の企業など、リスクに直面するものの、売られ過ぎとみられる景気循環セクターに注目するとよい。我々はまた、キャッシュフローが堅調で新興国市場へのエクスポージャーを持つ欧州企業などの世界の優良株、米国の一般消費財、通信サービス、ハイテクセクターの一部銘柄も推奨する。

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