何が起きたか?

市場は12日(木)、さらに急落した。これは、新型コロナウイルス(COVID-19)による経済的影響の規模と期間が当初の想定を上回る模様だが、それもどの程度になるか現時点では不明であることによる不安を反映したものだ。

トランプ米大統領は、欧州26カ国からの渡航を30日間禁止すると発表した。イタリア政府は、食料品店と薬局を除くすべての店舗に3月25日まで閉鎖するよう命じた。英国も感染の封じ込めから、感染拡大を遅らせる段階に移行した。俳優のトム・ハンクス氏が新型コロナウイルス検査で陽性だったと発表したこと、米プロバスケットボール(NBA)がシーズンを中断したことは、多くの米国人にとって注目に値することだ。経済的影響が広がる中、「十分な」政府の刺激策に対する投資家の期待は膨らんでいる。しかし、こうした期待を抱く人も、欧米の民主国家では消費者と企業に経済的支援を与えることが、中国よりもかなり難しいと認識し始めている。

この日の市場は、とりわけ欧州中央銀行(ECB)の記者会見後にパニック売りによる全面安が加速した。米ドルは急騰したが、これはファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)というよりも、米ドルの調達市場が逼迫した結果とみられる。米30年国債利回りが上昇する中で株式市場が下落したのは、機関投資家が償還に備えて最も流動性の高い資産を売却しているからであろう。市場の流動性が逼迫する中で、クレジット・スプレッドは拡大した。こうした市場動向を受けて、ニューヨーク連邦準備銀行は12日、新型コロナウイルスの感染拡大に起因した短期金融市場の「異常な混乱」に対処するため、新たなレポ取引を発表した。購入対象を短期国債だけでなく長期まで拡大したことは、FRBによる事実上の量的緩和策(QE)再開とも捉えられる。量的緩和策により、債券利回りの急騰を伴うことなく、景気回復を図ることは重要になってくるが、それ以前に、財政による景気刺激策の規模や範囲が決定される必要があるだろう。

欧州では、ECBが発表した対応措置が市場の期待に応える内容でなかったことから、各国の国債のリスク・プレミアムは急騰を続けた。量的緩和拡大の焦点は民間セクターの資産であり、公的セクターの債券購入においてECBが定めている1発行体当たりの保有上限33%の引き上げまたは撤廃の可能性には言及しなかった。新型コロナウイルス感染拡大への経済的対応策としての財政措置への期待が高まっているなか、ECBによる国債の追加購入がないことは、同資産クラスへの悪材料となる。フランス国債(対ドイツ国債で62ベーシスポイント(bp))およびその他ユーロ圏諸国の国債のスプレッドは、大半が3年ぶりの最高水準に達した。一部の上場投資信託(ETF)からは資金が流出し、欧州ハイイールド債ファンドと新興国債券ファンドの価格の下落率は1日で10%を超えた。こうした動きはクレジットのファンダメンタルズとは無関係と考える一方、テクニカルな売り圧力の緩和を期待するには時期尚早かもしれない。

今後、事態は改善せず、悪化するのか?

中国、シンガポール、香港、韓国からは、さまざまな対応措置と時間の経過により、集団感染の封じ込めが可能と考えられる明るい兆候が見え始めている。イタリアでは、集団感染拡大を食い止めるために、全土にわたる移動・行動制限が課されている。しかしウイルスの潜伏期間と診断との時間的ギャップにより、このような措置の効果を評価するのに2週間はかかりそうだ。このように、新型コロナウイルスが欧州および米国に拡大していることから、人々の不安と経済的混乱は3月末にかけてさらに高まると我々はみている。

一方、米国および他の欧州諸国でこれまでに発表されている措置はイタリアほど厳格ではない。ウイルス感染拡大を抑えるためにどの程度の厳しい措置が有効かは現時点では分からない。新型コロナウイルスの感染者数が短期的に確実に増える状況下において、まずは感染者数が減少に転じることが何よりも望まれる。今回のコロナ危機による経済的ダメージと景気刺激策による効果を測ることができるのはそれからだ。

相場はどこまで下落するか? 反発を引き起こす要因は何か?

新型コロナウイルス感染拡大が、中国では引き続き抑制され、第2四半期には先進国市場でも抑制されるとの我々の基本シナリオが実現した場合、年末の市場の水準は現在の水準をはるかに上回るだろう。しかし持続的な上昇には、1) 先進国市場でウイルス感染拡大の封じ込めが成功している証拠、2) 最終的な経済への影響の明確化、3) 世界全体での協調的な政策対応が必要になる。

こうした要因が存在せず、ボラティリティ(相場変動)の水準が高い状況では、今後数日から数週間は、市場は現在の水準よりも下落する可能性が高い。

下落シナリオが実現した場合に、相場がどの程度下落するのかを推測する1つの方法として、過去のデータとの比較がある。1945年以降の弱気相場での平均下落率は34.5%だ。これを現在の市況に当てはめると、S&P500種株価指数は2,200前後で底を打つことになる。もう1つの方法は、バリュエーションからのアプローチだ。業績の落ち込みにより10%の減益となれば、2020年のS&P500種株価指数の1株当たり利益(EPS)は149米ドルになるだろう。極めて低水準の金利とインフレ率を考慮し、景気の谷のPER(株価収益率)として妥当な16倍を適用した場合、同指数の水準は2,375となる。

とは言うものの、我々はこうした水準に達するまで株式投資を待つことを勧めているのではない。短期的な急反発を招く可能性がある要因として、米財政刺激策の発表、金融刺激策の拡大、ウイルス感染治療の臨床試験の成果、感染拡大が季節的要因によって制限されることの裏付けなどが考えられる。

また、現在の危機が収束した後であっても、ポートフォリオの長期的な収益成長を求める投資家にとっては、世界的な人口高齢化やヘルステック、遺伝子治療の飛躍的進歩などが長期投資の機会を提供する。さらに、この危機を契機にオンラインビジネスやサプライチェーンの現地化といった長期的トレンドが加速し、第4次産業革命やデジタル・トランスフォーメンションに関連した企業が恩恵を受けるだろう。

長期的な投資機会が存在しつつも、ボラティリティが高く、短期的な相場下落・上昇の両シナリオが考えられる状況を上手く乗り越える方法として、規則的に分割して株式を購入することで短期的な相場変動の影響を緩和させることや、間接的に株式のエクスポージャーを保有することで相場上昇時に利益が出やすく下落しても損失が抑えられるポジションを構築する戦略が検討できる。

ポートフォリオのリスクが高すぎると感じる場合、どのようにポートフォリオを守るべきか?

最良の方法は、各自ポートフォリオの資産配分戦略を維持しつつ、定期的にリバランスすることである。しかしながら、より慎重な資産配分を望む場合は、以下の戦略が検討できる。

  • ここ数週間、ポートフォリオのヘッジ効果を発揮した高格付債への十分なエクスポージャーや、相場環境の変化に応じて機動的に資産配分を変更する戦略も検討できる。
  • 金へのエクスポージャーを検討する。金は、S&P500種株価指数の下落局面でわずか2.4%しか下がっておらず、ヘッジとして効果を発揮している。
  • 短期的なキャッシュフローのニーズを満たすために、信用枠を含めて十分な流動性を確保する。危機的状況が続く場合、これによって、価格変動が激しく、流動性が不十分な市場で資産の売却に迫られるリスクを緩和することができる。
  • 地域分散投資も、潜在リスクを緩和する鍵となる。ウイルス感染に対して各国政府が異なる対応を取っているため、国によって政策による効果や経済・相場への影響にも大きな差が表れる可能性が高い。ここ6週間、新興国株式のパフォーマンスが先進国株式を4.8%上回っているが、新興国市場への配分が極めて少ない投資家は、今回の下落局面を利用し同資産クラスへのエクスポージャーを増やすことも検討できる。中国の感染封じ込めが比較的成功していることから、同国の景気回復が他の地域よりも早くなると考えられる。

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