何が起きたか?

新型コロナウイルスCOVID-19の感染が中国国外で広がるとの懸念から、2日連続で世界の株式市場が下落し、安全資産は上昇した。米疾病対策センター(CDC)が、ウイルス感染が米国で広がると予想し、日常生活の混乱が深刻になる可能性を指摘したことを受けた市場の動きだ。さらに世界保健機関(WHO)も各国に対して、ウイルス感染拡大を防ぐために準備をするよう促した。米政権幹部は上院議員に対して、ワクチンの開発には少なくとも12~18カ月を要すると伝えている。

世界の感染者数は25日も増加し、少なくとも38カ国で感染者を確認している。スイスでは1人、オーストリアでは2人の感染が初めて確認されたと報道された。これら3人は全員イタリアと接点があり、ウイルスが欧州全域に広がる可能性がある。欧州では、フランスとスペインで新たな感染者が確認された。

S&P500種株価指数は、これらの発表後に3.03%値を下げて取引を終え、ユーロ・ストックス50指数の終値は2.07%下落した。対照的に、新興国株式のパフォーマンスは比較的良好だった。新興国と中国のETFは、米国の取引時間中に約0.4%の下落にとどまった。一方、安全資産への需要が高まったため、米10年国債利回りは1.35%に低下。4月までに米連邦準備理事会(FRB)が利下げを実施する確率は70%と市場に織り込まれている。

VIX指数が2018年12月以来の高水準に達し、2日連続で市場が急落する中、トレンド追随型ファンドによるシステマティックな売りと投資家によるレバレッジ解消が下落を加速させたようだ。ユーロ/米ドルは引き続き小幅に上昇して1.088をつけた。これは、ユーロを資金調達通貨としたキャリー取引の巻き返しによるものだろう。金は1%安の1オンス当たり1,641米ドルとなった。これも投資家によるレバレッジ解消の表れだ。

次に何が予想されるか?

ウイルスの潜伏期間を考えると、今後2週間が、感染拡大規模、感染拡大抑制のための当局による対応措置、その措置による経済的影響を判断する上で重要になる。

CDCの発表は、相場下落を招いたが、現時点でウイルス感染が米国内に広がっていないことを表明するものでもあった。米欧当局による予防的な措置、リスクについて国民への十分な周知、感染者間の接触の特定と感染者の継続隔離が、これら地域での感染拡大を抑えると考えるが、これらの措置により感染拡大が収束し始めるまでに、新たな感染を防ぐことは難しい。

中国国外の感染者数が急増して、より広範囲での封じ込め策が実施されることとなれば、経済活動がわずか数週間停止するだけでも、経済成長に多大な影響が及ぶだろう。しかし、こうした積極的な措置は、特定の地域または特定の経済セグメントのみに実施される可能性が高い。また時間の経過とともに、ウイルスへの知識が深まることで、政府や消費者、企業がウイルスへの脅威に対して必要以上の対応を取ることも減るかもしれない。

先進国市場で不確実性が高まる一方、中国は国内の感染拡大の抑制に比較的成功している明るい兆候が見られる。中国では湖北省以外の新たな感染者数は極めて少ない。よって我々は基本シナリオ通り、経済活動が正常化し、サプライチェーンの混乱が解消し始めると予想する。

投資家にとって何を意味するか?

感染拡大がいつ封じ込められるのか、各国のどの対応措置が有効的なのかを現時点で正確に把握することは難しい。投資家としては、相場急落を長期的側面から捉え(米国株式は昨年12月の水準まで下落)、資産クラス・地域分散でリスク管理をすることが重要になる。ボラティリティ(相場変動率)の高い局面では、目標とされる資産配分の水準を維持するためにリバランスが必要かを見極めるため、ポートフォリオの資産配分を引き続き監視していく必要がある。

先進国と新興国の株式パフォーマンスでかい離が進んでいるが、これは中国政府による感染拡大の抑制が比較的功を奏している一方、先進国市場で不透明感が増している状況を反映したものと言えよう。我々はこのパフォーマンスのかい離が継続すると予想する。不透明感が高まる時期に、投資家がポートフォリオにおけるリスク調整後リターンを改善するのに役立つと考えられる投資戦略は多く存在する。

1. ユーロ圏株式よりも新興国株式を推奨

我々は新興国株式のオーバーウェイトを維持し、MSCIアジア指数(日本を除く)の最近の落ち込みが、長期的に見て魅力的な投資のタイミングを提供していると見ている。これは中国が今後数週間で国内の感染拡大の抑制に成功し、それによりサプライチェーンの混乱が解消し、消費者信頼感が回復し、新型コロナウイルスによる経済・市場への影響が第1四半期内に限定されるとの我々の見方に基づいている。この通りになると仮定すれば、日本を除くアジアでは、今年の企業増益率を12%程度と見込む。また、日本を除くアジアの株式は、株価純資産倍率(PBR)が1.6倍とグローバル市場よりも35%近く割安である。さらに、新興国株式の予想株価収益率(PER)は先進国株式よりも28%割安となり、ディスカウント率は5年・10年平均を上回っている。

一方、我々はユーロ圏株式のアンダーウェイトを継続する。2020年のユーロ圏企業利益は前年比1%減と予想されるなか、ユーロ圏株式の予想PERは14.8倍だ。これは15年平均のレンジ上限である。さらに、コロナウイルス感染拡大と感染抑制措置による経済への影響がリスク要因となっている。

2.  「在宅」銘柄と配当銘柄を推奨、旅行関連セクターを回避

最も下落しやすい航空、ホテルなどのセクターを避け、eコマース、ゲーム、フードデリバリー(出前)などの「在宅」関連銘柄を推奨する。自宅待機や隔離措置が施行される場合に、在宅関連需要の伸びが見込まれるためだ。また、持続的に配当を生み出す銘柄も推奨する。金利の急低下局面において、安全資産として機能するからだ。

3.     高いボラティリティを生かす

コロナウイルス感染拡大への不安から、ボラティリティは大幅に上昇した。米国市場のVIX指数は2019年夏以来の高水準、欧州市場のV2X指数は2018年後半以来の高水準へとそれぞれ上昇している。こうしたボラティリティの上昇時は、ディフェンシブな株式を保有する一方、投資家がボラティリティを利用して利益を得る機会でもある。また、下落リスクに備えるためにプロテクションを活用しつつ、利回りを向上させる方法を検討することもできる。

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