中東緊迫化、市場への影響は限定的

イランは8日未明、米軍が駐留するイラクの基地に対してミサイル攻撃した。先週には、米国による空爆でイランの革命防衛隊ソレイマニ司令官が殺害された。これに対して予告していた通り米国への報復措置に出た形だ。これを受けて日本円やスイス・フランなどの安全資産は買われたが、上げ幅はそれほど大きくなく、両通貨とも上昇率は0.5%以下にとどまった。米10年国債の利回りは約1.70%に低下したが、その後回復している。WTI原油と金はそれぞれ一時5%、2.3%上昇したが、その後落ち着いた。アジアの株式市場は、やや値を下げて取引を開始した。

イランが反撃を予告していたため、市場は今回のミサイル攻撃にさほど驚かなかった。現時点で米国人への被害の報告はなく、犠牲者が出なかったと確認されれば、米国による次なる報復措置は小規模になるかもしれない。トランプ米大統領は、イランが司令官殺害の報復を行えばイラン国内の52カ所を攻撃するとすでに警告しており、米国による何らかの報復が行われる可能性は高いとみている。イラン政府が革命防衛隊によるミサイル攻撃を発表したことも、米政府が軍事的報復に出る可能性を高めている。米国の動き次第では報復の連鎖を招く恐れもあるが、イランは今回の軍事行動を米国の攻撃と同等の反撃とみなし、さらなる行動は見送るかもしれない。

いずれにせよ、事態のエスカレートはいずれの側にとっても利益にならないため、我々の基本シナリオとしては米イラン間の緊張が大規模な軍事衝突に発展する可能性は低いとみている。イランの反撃の対象が米軍基地であり、原油供給に直接影響を及ぼす施設ではなかったことにも注目すべきである。

投資家にはどう影響するか?

我々の基本シナリオ通り、軍事的な緊張がそれほど高まらない場合、世界全体の経済と企業収益への影響は限定的だろう。よって、我々は株式全般をオーバーウェイトとし、新興国株式と米国株式を推奨する。深刻な混乱が発生するシナリオ以外では、原油価格が現在の高水準のまま推移するとは考えにくい。原油の余剰生産能力は依然として適切な水準にある(石油輸出国機構(OPEC)とロシアの余剰生産能力は日量330万バレル程度)。また、米国とノルウェーがけん引するOPEC非加盟国の供給増加ペースも緩やかな需要増加ペースを上回っているため、2020年は、年前半を中心に供給超過(日量30万バレル)になるとの予想に変わりはない。米イラン間の緊張が高まり、イランによる報復措置の恐れがある中、原油価格に対するリスクプレミアムは上昇しそうだが、年前半にブレント価格が1バレル当たり70米ドル超の水準を維持するのは難しいとみている。昨年9月にサウジアラビアの石油関連施設が攻撃を受けた時も、原油価格の急騰はその後まもなく終息した。

基本はやはりグローバルな分散投資だ。現時点で資金を動かすことに懸念を感じる投資家は、ポートフォリオのボラティリティ(変動率)を引き下げる戦略もしくは何らかの下方プロテクションが検討できる。日本円や金などの安全資産へのエクスポージャーを増やすことも有効である。金に関しては、米国の経済成長鈍化や実質金利の低下が金保有の機会コストを押し下げている。加えて、金は米ドル建てで取引されるため、2020年に予想される通り米ドル安の展開となれば、金需要が高まり価格を下支えするだろう。

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