米中貿易摩擦の再燃

米中貿易関係の一段の悪化を受けて、S&P500種株価指数は3%、Euro Stoxx50先物は1.7%、ハンセン先物指数は3.1%下落した。トランプ大統領が今月1日に中国製品に対して9月1日より追加関税を発動すると発表して以降の下落率はそれぞれ4.6%、4.9%、6.2%となる。また、世界の債券利回りの下落も続き、米10年債利回りは10ベーシスポイント(bp)低下して1.74%となり、独10年債利回りは-0.52%と過去最低を更新した。人民元が1米ドル=7元を割り込み、人民元が対米ドルで過去10年超で最低の水準まで下落することを中国当局が容認したことを受け、トランプ大統領は5日、中国が「為替操作」を行っていると非難した。中国が国有企業に対して、大豆など米農産品の輸入を停止するよう指示したとの報道もある。

こうした展開は、6月29日のG20サミットで米中が合意した貿易紛争の停戦が終わり、報復が繰り返される状況に戻るリスクを高める。これによって世界成長、企業収益、市場に大きな逆風が吹くだろう。米連邦準備理事会(FRB)が先週利下げを行ってから景気後退リスクは上昇し、相場の調整が進んでいるが、我々は景気後退入りを基本シナリオとせず、両国の交渉担当者には今も経済的打撃を制限する解決策を見出す強い意欲があると考えている。

次に何が起こるか?

市場にとって当面の懸念は、今後数日間でトランプ大統領の「為替操作国」という発言から更に対立が深刻化するかどうかである。そして今後数週間では、基本的に3つのシナリオが考えられる。

  1. 10%の追加関税が発動:この関税措置は、以前の追加関税よりも大きな経済的影響を及ぼすだろう。現時点で制裁関税の対象になっていない3,000億米ドル相当の中国製品は主に、スマートフォン、コンピューター、衣類などの消費財だ。これまでに関税措置の影響を受けた製品と比較して、こうした製品での中国の世界的シェアは高く、米国にとって別の国で製造された代替品を見つけることが難しくなる。一方で中国は、追加関税を課す米国製品がなくなると、米企業の投資の承認を遅らせたり、米多国籍企業の中国での営業を妨害するなどの非関税措置で対抗するかもしれない。中国は、2020年11月の米大統領選挙を前に農業に依存する州でのトランプ大統領の支持基盤を弱める手段として、農産品の輸入制限を強化する可能性もある。10%の追加関税は景気低迷と企業景況感の一段の悪化につながりうるが、両国が景気後退入りする事態は避けられると考える。
  2. 再度の停戦:米中は追加関税措置の実施を避けることで合意する。関税の発動まで数週間あるため、トランプ大統領は対応の猶予を与えたことになる。トランプ大統領が度々懸念を表明している米農産品の輸入問題について、中国は輸入の強化を新たに保証しようと努めるかもしれない。中国の政策当局はすでに、競争上の優位性を得るために通貨安に誘導するつもりはないことを強調しようとしている。中国人民銀行の易綱総裁は、最近は大きく変動しているものの「人民元は今後も強い通貨であり続けるだろう」と発言した。
  3. すべての中国製品への関税率が25%に引き上げられる:このシナリオでは、米国が景気後退入りする確率が高くなり、中国の成長率は6%を割り込むだろう。関税の効果は10%の時と変わりはないだろうが、影響はかなり大きくなる。関税の影響は直線的ではない。10%の関税なら企業はそれを利益率で吸収するか値上げで対応する余地があるが、25%の関税では一部の企業活動が大幅に不採算化し、サプライチェーンの再編が必要になるからだ。米市場は10-15%超、中国株式は15-20%下落する可能性がある。このシナリオが実現すると、7月31日以降2.5%上昇している日本円が、ポートフォリオをヘッジする役割を果たし、一段と上昇するだろう。

投資見解

ここ数日、グローバル株式は下落し、10%の追加関税シナリオを織り込んだ相場展開になっている。さすがに、中国からの全輸入品への25%の関税は考えにくいと我々はみている。なぜなら、そうなれば米国が景気後退入りするリスクが大幅に上昇し、トランプ大統領も2020年の再選が難しくなると考えると予想されるからだ。一方で、10%の追加関税の脅威(および、それによるFRBの追加緩和の必要性の示唆)が後退すれば、先週時点の株価水準に戻る可能性がある。

相場は依然として変動的だ。FRB 高官が次に何を発言するのか、トランプ大統領が次に何をツイートするのかわからない。景 気と企業業績の動向は比較的安定しているが、世界の中央銀行は既に緩和姿勢を示していることから、2018 年の10-12 月期(第4 四半期)のような相場下落は予想していない。

我々は現時点では、今回の相場下落を弱気相場の始まりではなく、一時的な相場の変動とみている。そのような「強気相場 の一時調整」は相場サイクルの一般的に見られる特徴でもある。1900 年以来、米株式市場では年間で高値から底値まで 5%急落した場面がおよそ3 回観測されている。10%の下落は年1 回程度、15%の下落は2 年に1回だ。

よって、我々は今回の相場下落で、戦術的資産配分(6 カ月)の変更は勧めず、投資機会を見定めるために状況の進展に注 視していく。市場の不確実性に対し、投資家ができる対応策は複数考えられる。

  1. ポートフォリオのリバランス:リバランスをすることによって、投資家は目標とする資産配分から大きくかけ離れずに済む。 今回の株式相場の下落後に各自のポートフォリオの状況を確認し、安全資産の一部で利益確定し、適切とみられるリス ク資産を底値で買い入れることで、目標とする資産配分へのリバランスを行う。
  2. キャリーを狙う:中央銀行の政策は既に緩和的であり、貿易紛争がさらに激化すれば、緩和姿勢は続くとみられる。よっ て、キャリー取引による金利収入の確保の需要は高いだろう。我々は外貨戦略で、低金利通貨のバスケット(豪ドル、ニ ュージーランド・ドル、台湾ドル)に対して、高金利の新興国通貨のバスケット(インドネシア・ルピア、インド・ルピー、南ア フリカ・ランド)をオーバーウェイトとしている。これらの通貨は、世界および新興国の安定的な経済活動だけでなく、有利 なキャリー環境からも恩恵を受けると考えられる。また我々は、欧州投資適格債も推奨する。欧州中央銀行(ECB)の緩 和スタンスによって引き続き下支えされると予想されるからだ。さらに、米国債に対するスプレッドが約350bp にまで拡大 した米ドル建て新興国国債をオーバーウェイトとする。
  3. 高配当株に注目:欧州では、配当重視型戦略がMSCI EMU 指数の予想利回り約3.7%を上回るリターンを生む可能性 がある。アジアでも同戦略に投資機会があるとみている。
  4. 国内市場中心のアジア企業を狙う:輸出に軸足を置くアジアの多国籍企業は強い下押し圧力を受けるだろう。貿易に関 する不透明感が続くなか、国内市場への依存が高い企業がアウトパフォームすると予想する。

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