世界をけん引するアジアのニューモビリティ
アジアのEV市場が急成長している。2020~2030年のアジアのEV新車販売台数は、中国をけん引役に、年平均36%のペースで増加するものと予想する。
EV市場の拡大はアジア地域全体に好機をもたらす。巨大な国内消費市場と巨額の政府補助金を有する中国は、域内EV市場で最も重要なプレーヤーだ。一方、日本と韓国も次世代モビリティ産業を構築し、EV業界に参入しつつある。どの市場で誰が勝ち組となるかは、サプライチェーンの強さ、技術力、そしてスマート化が鍵を握る。
中国: EV生産・販売大国
中国: EV生産・販売大国
世界最大の二酸化炭素排出国である中国は、2060年までのカーボンニュートラル達成という野心的な計画を発表した。目標達成の柱として、2035年をめどに新車販売のすべてを環境対応車 にする方針を明らかにした。ICE車の販売は廃止する。さらに、インフラ整備にも大規模な投資を行い、ユーザーが不便さを感じずに安心してEVを走行できるよう、全土規模で充電ステーションの建設を目指す。
世界最大の自動車市場である中国は、世界の年間新車販売の30%以上を占めており、電気自動車への移行には時間がかかるとみられる。だが、政府の各種支援策の後押しで、EVの販売台数は2025年まで世界最速ペースの年率40%以上で拡大すると我々は予想する。この間にEV車の普及率は急激に上昇し、新車販売全体に占めるEVの割合は、現在の5%から2025年には20%に(年間販売台数550万台)、さらに2030年までには50%(同1,400万台)に達するものと予想する。
航続距離が伸び(最長700キロ)、バッテリー効率が向上し(充放電効率が最大80%に上昇)、充電ステ ーションが急増し(今後10年間で年平均30%以上のペースで拡大すると予想)、EV価格が低下するに伴い、EVの普及は加速するだろう。中国のEVメーカーはこうした航続距離や低価格化には強みがあり、特に中国国内市場で需要の拡大が期待できる。
競争優位を示す中国国産ブランド
中国の自動車メーカーには複数の強みがあるが、最も顕著な特長は、中国国産EV車の価格が米国ブランドよりも約30%低く、欧州製と比べるとさらに安い点だ。また航続距離が長く、会社資料によると世界の自動車メーカーの航続距離が520~600キロであるのに対して、中国ブランドは最長600~700キロを実現する。さらに革新的でインテリジェントな自動運転機能も搭載している。こうした特長により中国国産ブランドはグローバル自動車メーカーに対して競争優位を確立する可能性がある。
高級車市場ではテスラが優勢だが、中国のEVメーカーは低価格化で主力車種やフリート(商用車両)市場でのシェアを広げている。さらに、中国の新興EVメーカー大手は、独自のサービスや機能を展開して急成長している。例えば、上海蔚来汽車 (NIO) はユ ーザーにバッテリー交換方式のサービスを提供し、小鵬汽車 (Xpeng) は天井の上に360度撮影できるル ーフトップカメラを搭載し、理想汽車 (Li) は発電専用エンジンを搭載して航続距離を伸ばした「レンジエクステンダー型EV」を開発した。
タクシーやバスなどの「フリート」と呼ばれる商用車両分野は、中国メーカーに優位性がある。フリート分野の電化は、中国政府が中長期的なEV目標を達成する上で重要な要素である。このため、政府は今年1月、一般的な新エネルギー車 (NEV) に対する2021年の補助金を前年比で20%削減すると発表したが、バスやタクシーなど公共輸送機関で使われるNEVについては削減率を10%にとどめるとしている。
問題は、相次いで参入した中国新興EVメーカーが損益分岐点に達することができるかどうかである。2020年の販売台数は各社3万~5万台と、依然として業界標準の損益分岐点である10万~12万台を大きく下回る。この水準に到達するためには、インテリジェントな運転機能など革新的な製品で差別化を図る必要がある。また、新興EVメーカーは中国の既存自動車メーカーとの競争にもさらされている。既存自動車メーカーは、EVプラットフォーム*開発を加速し、徐々に中価格帯に進出している。このように自動車メ ーカー間の競争は熾烈だが、中国のEVメーカーは、国内に形成される幅広いEVサプライチェーンや低い生産コストを強みに、中長期的には世界市場におけるシェアを広げていくものと予想される。
グローバルEV市場に乗り出す日本と韓国
日本と韓国もEV市場の重要なプレーヤーだ。だが、世界最大級の消費市場を有する中国とは異なり、日本と韓国は欧米を中心とする巨大なグローバル市場を主戦場としている。2021年、日系自動車最大手のトヨタと、韓国トップブランドの現代自動車グループはそれぞれ、両社初のバッテリーEV(BEV)専用プラ ットフォームを発表した(トヨタ:e-TNGA、現代自動車グループ:e-GMP) 。
両社プラットフォームの大きな特長は、無線で自動車のソフトウェアを更新する「OTA (Over the Air) ソフトウェア更新技術」を搭載し、遠隔でソフトウェアパフォ ーマンスの最適化を実現する次世代BEV仕様の車体設計である。OTA技術を利用すれば、車両の販売後も新しい機能を追加し付加価値を上げていくことができる上、車載ソフトウェアの更新や不具合修正の際の手間や時間を低減でき、遠隔で迅速に対策を行える。長期的に見れば、OTAは自動車メーカーの収益構造の点でゲームチェンジャーになるだろう。現在のOEMビジネスモデルでは、自動車販売後の収益源は限られているが、OTAを搭載すれば販売後もメーカーは継続的な収益が期待できる。
日本と韓国の政府支援はNEV技術の開発推進に重点が置かれている。両国とも2050年までのカーボンニュートラル達成を目指しており、その目標達成には環境対応車の開発・普及が重要な具体策となる。日本政府は2030年代半ばまでに、新車販売に占めるEVおよびハイブリッド電気自動車(HEV)の割合を現在の25%から100%にする方針を打ち出している。一方、韓国政府は同期間におけるBEVおよび燃料電池車の普及率を現在の5%から33%へと引き上げる考えだ。
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